352、侵食率高め
ダメだ。分からない。お願いする意味が分からない。
自分がお願いと口にするとはどうにも思えない。
やはり頭の中に憑りつくコイツが元凶だろう。
(そう思いたかったらそう思えばいいんじゃない?)
すごくいらつく。わざわざ舌を出すイメージを送り付けてきた。
とりあえずその舌をつかんで引きずり下ろす。
その落ちてきた頭を踏みつけ地に埋める。
(あぁあぁあぁっ! あぁぁあぁ!)
なんで嗜虐状態に陥っているんだろうか。
キュートアグレッションだっけ? いやでもコイツは可愛くないな。
いや、そもそも自分から下に回ってきて、踏まれにきているよな。マゾだな。
(マゾじゃないよっ!)
コイツのいらつくところは勝手に来て、押しつけがましい世話をしてくるところにある。
そもそも俺はそういうものを必要とはしていない。
正しい事だろうと相手の目的を考えれば、その言葉の通りにする事はリスクがある。
(例えハイジャック犯でも目的を達成する前に墜落しようとする飛行機は助けるでしょ!)
墜落しようが沈没しようが俺の勝手だろう。
そもそもちゃんと巡行しようとする船に勝手に乗ってきたテロリストになぜ従う必要がある。
テロリストに従うくらいなら、死なばもろともの心中が大和魂だ。
(そこで急に大和魂がなんで出てくるの!?)
日本人だから?
(ただ自分の主張に便利だから使っただけの癖に急に日本人ぶるんじゃない!)
ベッドに置かれた俺の手にリク君の手が重ねて置かれた。
優しそうな顔をして俺の顔を見ている様だった。
思えばいつの間にかベッドに自分が転がっていた。いつだろう?
(部屋に入ってすぐに転がってたよ?)
大分早い段階で転がっているな?!
(何ならベッドにリク君に降ろされて転がってたよ?)
記憶にありません。全て秘書がやりました。
(大臣。証拠があるんですよ!? 逃げるんですか?! 責任は! 責任はどうするんですか!?)
秘書にあります。ファラリスの牡牛の準備はできています。
後は中に秘書を納めて、あの下の炭に点火するだけです。
ほら、君。中に早く入りなさい。
(私?!)
早く入れって言ってんだよ。中に香草もたっぷり敷いてあるから安心しな。
金属で手足が焼ける心配はないぞ。ちゃんと蒸し焼きになるからな。
呼吸はあそこの管に口をつけてやるんだ。わかったな?
(殺意!)
鳥か豚になれるならちょうどいいな。
尻にナイフを突っ込んで腹割いて内臓をとるわ。
いい感じの香草焼きになるんじゃないか?
(料理される?!)
害悪しかないテロリストが食料に変わるんだ。
マイナスがプラスになるぞ? なんといいことだ。
さぁ、捌かせろ。
(私、人間! 食べられない!)
オデニンゲンマルカジリ。
(チクショウ! 自称人外だった! 人間を食べても人間の力は得られないんだよ!)
「ちょっと落ち着くかも……」
お前誰だよ。コイツか。お前だな。俺の口を使って何を口走っていやがる。
(君だよ?)
いや、ないない。お前しか犯人はいないっつの。
俺がリク君にあんな風に甘えるとか考えただけで鳥肌しかないわ。
なんでそんな気持ち悪い事を俺がするというんだ? バカじゃないの?
(私じゃないよ?)
ないない。どんなに疲れていても人に頼るとかいう思考は俺の中に生まれるわけがない。
頼らなくてはいけないと思っても、それができるなら苦労などしていないんだ。
頼れないから自分の事をバカだと思っているんだ。だからこそお前以外にやるヤツがいない。
(あ。腐女子回路が残ってる。食べ損ねたみたい)
は? いや、腐女子回路って何? そんなの俺にはない。
人と人を掛け算する様な思考を俺は持っていないぞ?
そんな思考は俺の自意識に反するしな。
(え? あの幼馴染のルイ君のミラさんとサクさんの夫婦仲というか、馴れ初めを妄想した君がいったい何を言っているの?)
あーうん。いや、あれはノーマルだろ。普通の男女だし。
見た目からしてドラマ性を感じる組み合わせだったし?
あれを腐女子回路とかで見ているとかいうんじゃないだろうな?
(ミラさんに男性性を感じる部分なかった? 軍人気質な部分なところとか。あそこで腐女子回路が歓喜していた気がするんだけど?)
ないない。そもそも見た目とかしっかり女性だろ。ミラ先生は。
お前は何をとち狂った事を言っているんだ?
俺には腐女子回路などというモノはない。
(君は本当に嘘つきだね)
あぁ、うん。とりあえず切り開くから腹をこちら側に向けてね。
それとも背骨に沿って刃を入れて皮を剥くところから始める?
皮は飴を塗ってじんわりとゆっくりと焼く方が好みなんだよね。ぱりぱりとした皮って美味しいじゃん?
(いやぁぁあ! 私美味しくないよ! 肉ばっかり食べてるし! 肉は臭いと思うの!)
あー、確かに草食動物の方が美味しいって言うよね。
ベジタリアンだったら臭い薄くて美味しいのかな?
でもさ、マグロとか小魚とか食べてるし筋肉質だけど美味しいよねでしょ? 肉食でも美味しいのは美味しいんだよ。
(美味しくない! 美味しくない!)
お前は自分を食べた事あるの?
なんで美味しくないって言い切れるのかな?
食べなくちゃ分からないじゃん。
もしかしたら美味しいかもよ?
(絶対美味しくない!)
ふーん? でもさ、人喰い部族っているじゃん。
他に何か食べるモノがあったとしても、出来るなら人を食べたいっていう感覚があるらしいよ?
それって下手な食べ物よりも人間の方が美味しいって事じゃない?
(ないの! 美味しくなんてないの! 食べちゃダメなの!)
どうせ再生するんだから体の一つや二つ食べさせろよ?
踊り食いとか生きたまま食べるのは大変だし、切り分けるというのがいいだろ?
それとも噛みちぎって食べられたかった?
(やだ! 絶対やだ!)
なら俺の言う通りにしようか。
「ねえ、シロ? 魔力が少なくなってたりする? 飛行船の時に毒を取り込んでしまったとか」
……ありえる。
あの化け物の魔力を取り込み吐き捨てるという行動。
この体は物理や魔法に強くても、それ以外の方法への耐久力は不明だ。
体は完璧でもソフトたる自分が狂った通り、俺という弱点が存在する。
(私は君だよ〜?)
もしかしたら毒で変質した自分の一部だったりするかもしれない。
だがコイツはあの洞窟で拾ってしまったゴミだろ。
あそこにいた転生者の幽霊というか、何かのはずだ。
肉について詳しかったし。
(くっ。肉か。肉が……!)
どんな事を言おうがコイツは俺ではない。
俺のフリをして自分を取り込ませる事をしたいヤツだ。
行動が不審すぎる以上、信用は一切できない。
(でも私は君と同一の存在になれると思ってるよ!)
なれるわけがない。相容れない。
そもそも血縁に近い間柄に興奮している段階でムリ。
その人間性が根本的に相容れない。
(じゃあ、私が君の好きなモノになるよ! 獣かな? タヌキかな? イヌかな?)
人間よりもそちらの方が好きだが、そういう関係性にはならない。
お前が望む様なそういう思考は自分の中だけで完結しろ。
ナマモノに手を出したら病気もそうだし、互いの体も傷つくしで全て壊れるんだわ。
(さすがの私も獣に手を出せとは思ってなかったよ……! まぁ、今の私なら体は傷つく事ないよ! やったね!)
うん、キモい。そもそも俺が動物好きなのはその自然で目的に真っ直ぐだからだ。
話す、話さないの前に人間の様な思考の段階で選外。
一緒に寝転がって安心できる相手にはなれない。
(君は……それもう幼少期から過ごした飼い犬しか一緒に居られないよ……?)
だな。つまりお前は前提からして選外だ。
「ありえるかも」






