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349、連れられて

 何も出ていないがトイレの水を流す。なんでしたことの偽装をしているのか。

 それをしないといけない気がした。何もしていなかったと思われるのが嫌だった?

 ただ時間をそこで潰していたと思われるのが気持ち悪かったのかもしれない。


 水洗便所だったり、洋式トイレだったりと、現代に近しい構成なのも大きい。

 それにすら頭が回らない程、自分の内側に意識が集中していたというのが恨めしい。

 周囲に対する警戒機能がだいぶ落ちている。よろしくない。とてもよろしくない。


(まぁ、私のせいだけど。大丈夫だよ? 私が代わりに見ているから)


 ……害悪だ。最悪だ。乗っ取りされている。

 これが排除できないとかなると終わる。というか終わっている。

 真面目にどうしたらいいだろうか?


(大丈夫だよ。私と君は一心同体だからね! 君の不利益は私の不利益! 私は君が不利益になる事をするわけない!)


 いや既に不利益は発生しているんだが。自分の意思と関係なく体が動くという。

 お前をどうにかしないといつか何か俺の不本意な行動をとるだろう。

 というか女性的な視線でリク君を見るとか気持ち悪い。絶対やめろ。


「今出る」


 リク君は言うなれば弟だ。年齢差を考えれば子供と言ってもいいかもしれない。

 だがまぁ、リク君を育てたのは今世の父母なのだから。いや、ちょっとそれも怪しいかもだが。

 俺が別れた後、リク君はあの施設で育てられたのだろうか? 親元に戻った気がしない。


(どうなんだろうね? でもリク君への返事、コミュ障過ぎない? 私が代返した方がよかったんじゃない?)


 うるさい。女々しい返事をしたらそちら側の扱いをされかねないだろうが。

 中身を知られているのだから、おじさん的な返事をしたい。

 この中身はおじさんなのだから。そうおじさんなのだからな!


(でも君に男らしさって元々あった?)


 うるさい。そもそも男だ、女だ、性別で志向を判断するんじゃない。


(それ一番気にしているの君でしょ?)


 まじうるさい。


(自分がそれで苦労しているから。まぁ、でもそれ以前の問題が多いから、ぶっちゃけそれは関係ないかも? あぁ、それも気づいてるよね)


 黙れ。


(大丈夫。私がいるよ。私に頼りなよ)


 侵略者がうるさい。


(侵略者だからね。権利のためならうるさくなるよ)


 害悪。


(あれ? 怒ってる? 水洗はもう終わっているよ? 出なくていいの? リク君が待ってるよ)


 何が怒ってる? だ。怒ってるに決まっているだろ。

 地雷原でタップダンスしてるヤツが。

 あぁ。こちらが手を出せないと思って、屈服させようとしているのか?


 確かにお前とこれ以上混じり合うのはごめんだ。

 この粘体が。アメーバが。不定形多細胞が。

 焼却処分が妥当か? 薬品焼けを起こすのもいいな。

 この場合は魔力で焼くというべきか。


(私は君の事が好きなんだ。でも君は誰にも興味がない。だから怒りでもいいから0を他の数字にする必要があったの。それが負の感情であれ、見向きもされない石ころに比べたら関係性を持てる最低限の資格が得られるから)


 そうか。そうか。だとしても焼却処分だな。

 ストーカー野郎が対象に好かれる可能性があると思うか?

 ないんだよ。マイナスの中には絶対にひっくり返らないマイナスがあるというモノだ。


(でも君ならワンチャンあると思うよ? これは君にとってそこまでの地雷じゃないから。君にとって自分の体はどうでも良くて、まともな人に使われた方が有効利用出来そうだと思うくらいのモノだし。君は今は気持ち悪さに拒絶反応を起こしているだけ。またどうでもよくなってしまう範囲)


 うるさい。確かにこの体でなければまだ許せただろうな。

 だがこの体だから、なまじ力の大きい体だからダメだ。

 悪用するのが簡単なこの体だけはダメだ。


(私は悪用しない。だから大丈夫)


 うるさい。


「シロ、どうしたの?」


 いつの間にかリク君の隣を歩いている。

 俺はいつトイレの外に出ただろうか?

 記憶はある。意識がない。操作されたな。


「なんでもない」


 心配されたくない。自分の手で片付けたい。

 ややこしい状態なのも間違いない。

 根っこを張られているという感じか? 困る。


(そもそも君の円卓だっけ? 私とあの子達の違いはないでしょ? まぁ、私が食べちゃったのだけど)


 おぉい! 道理で出てこないわけだよ!

 あれはまだ俺の一部だ。俺が俺の体を動かしているに過ぎない。

 指人形は手に逆らえない。言葉も結局は俺の中から出たモノだ。


(そう? 最後の方とかだいぶ自意識持ってたわよ? あの子達の隙間があったから早く侵食出来たと言っても過言ではないけど)


 うーわ。


(そもそも君が表出する事が少なすぎて、体の方がお留守になってる事が多いの。君にとって世界は膜一枚挟まった関われないモノなんでしょ? 膜に触れる事すらもう嫌なんでしょ? 自分で目を閉ざしているのに、なんでそんな被害者面してるの?)


 被害者面って。それを侵略したお前が言う?

 それに世界へと関わる意思は元々ある。

 その幕だって内と外を分ける、人間性に過ぎない。


(不定形のどろどろした中身と人間の形をしたフィルムってところ? どろどろをそのまま外には出せないけど、本当はそのどろどろを読み取ってほしいね。私でいいじゃん)


 いや、お前は違うだろ。


(なんで? 私なら君のどろどろした部分、全部分かってあげられるよ? 君の中にいるからね!)


 植民地で始めはいい顔をする侵略者かな。

 ガラス玉を宝石といって交換したみたいに価値の違いを理解できない相手をだますのだろう。

 会話を代償に体を奪うのは不平等な取引に違いない。


(ふーん。でも私は君の事が好きだよ)


 ないない。外面はともかく、内面は好かれる要素がない。

 外面が好きな相手が侵略者だとしたら、今後何かの不利益が起きる可能性が高い。

 そんな相手を信用できるわけがないだろう。


(私は君のそのどろどろとした内面が好きだよ。こじらせて、拗ねて、物事をひねた目でしか見れなくなっている君がね)


 あら、そう。趣味が悪いね。

 何かな? 神様気分? 珍獣の保護活動かな?

 お前の事、俺は嫌いだよ。


(大丈夫。君は私。私は君。君は君自身を好きになるよ。私が私自身を好きだと思うようにね)


 わぁ……。自信満々すぎて気持ち悪い……。


(ふふふ)


 意味深な笑いをするなよ。怖気で背筋が粟立つだろう。


「本当に大丈夫?」


 実際のところ大丈夫じゃない。浸食率がエグい事になっている気がする。

 円卓を食われたのがエグいつらい。とても面倒くさいことになっている。

 円卓の空白部分にあいつが収まっているというのも面倒くさい。


(君の心の隙間、私が埋めました!)


 調子に乗りすぎて超うざい。まじでうざい。どうしてこんなにウザくなれるのか。

 そもそも円卓連中を食らうとかいう意味が分からない。あれらは食べられるモノなのか?

 そもそも食らうというのはどういう意味だ? 成分を分解して消化したとか?


 それなら俺は反対にあいつを消化すれば自由を取り戻せるのだろうか?

 どうやって消化すればいいのだろう? 消化は分解とほぼ同意義だよな。

 デンプンを分解して、最終的にブドウ糖へと変えるのが、消化なのだから。


(私を食べるの? 食べちゃうの? いやん)


 嚙み殺す。


 いや、単純に千切ってもこいつには通じない。

 それで通じるなら苦労などありはしない。分子的なモノを酵素で断ち切り、違う分子へと変異させる。

 そういった類の要素が大事か。魔法か? 魔法しかないよな。困った。


「もう少し頑張る。とりあえず大丈夫」


 外から魔法を使っても、外壁というかこのゴーレムボディが魔力を分解して吸収してしまいそう。

 ゴーレムの弱点はハッキングなのか。なまじ体を強くし過ぎたから、牢獄と化してしまったまである。

 ゴーレムは完璧でも中身の俺が不完全だったといわれたらどうしようもないが。




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― 新着の感想 ―
[一言] 中がとてもきな臭い( ˘ω˘ )
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