348、身内ぶる
頭が痛くなってくる。それに魂の状態の観測が出来ないのが面倒だ。
コイツの言っている事が本当なのか、嘘なのか、判別出来ない。
判定手段があっても、都合のいいデータに書き換えられる可能性がとか言って受け入れられない気もする。
面倒くさい。
(でも仕方ないじゃない。君がしちゃったんだから)
人格の同一性の保持が出来ないのが困る。
俺が俺である理由は特にないが、自分の体がしでかした事は俺の責任があるだろう。
ぶっちゃけ迷惑かけるくらいなら死ねだ。
(君って人間好きだよね。関われないとか、ホントのところはどうでもいいとか色々言っているけど)
珍妙な生物を見る感覚? たぶんそれが一番近い感覚なのだろう。
カブトムシに名前をつける子供と同じくらいの認識か。
個体への認識も近くにいたから出来ただけかもしれない。
(嘘つき。また自分を否定するためにそんな事を言ったでしょ? 良くないよー。君には私がいるからゆっくり会話に慣れよう?)
うるさい。彼女面か。つきあっとらんわ。
(彼女? 私、彼女しちゃっていいの?)
よくないわ。というかもしそうなったらどんなややこしい状況だよ。
そもそも脳内彼女とか痛すぎて笑えないわ。体包めるくらいの絆創膏が必要なくらいの痛さだわ。
しかもそれが寄生してきたヤツで、俺を乗っ取ろうとしているとか。誰に言えと。
(そもそも私以外に話す相手いないよね?)
うるさい。死ね。マジで死ね。
(はい、死んだ~。これでいいかな? ねぇ、そろそろトイレ長いねって心配されない? 出なくていいの?)
ウザ過ぎて困るんだが。
(大丈夫だよ。変わるから。その気持ち)
怖いわ。変えるな。出てけ。俺の中から出てけ。
(でももう変わっているでしょ? 君にはもう私が混ざりすぎたから。本当の意味で憎むことはもうできないの)
なんだよ、それ。キモい。
(語気が弱くなっているの気付いている? 君はもう理解しているんでしょ? 君の体の中を走る私の感覚に)
意味が分からない。
(いいの。いいの。私はただ君が好きなだけだから)
どういう意味で好きなのか。正直お前が舌なめずりをしている様にしか見えないわ。
血しぶきをあげる様な暴力を避ければお前の成分を体に入れずぶちのめせるという事でOK?
とりあえず締め落として、水責めとかがいいか。ファラリスの牡牛でこんがりするのもいいな。
(殺意が強い! え、なんで!? 自分を傷つける真似……自傷行為べつに厭わないタイプだから?! あんなに自衛本能強いのになんで?!)
自傷行為するタイプは意外と他人に傷つけられるのを恐れるモノだよ。
リストカットみたいな自傷行為を俺はしないが、ぶっちゃけ少しその気持ちは分かる。
自分に赤い血が流れているのか。痛みを感じるのか。自分の形を知りたくてしてしまうんだろうなって。
(元から闇深い系だったの忘れてたわ。根明だったら拷問とか詳しくならないものね……)
根明でも詳しい人は詳しいだろうさ。
対処法を知るためとか、ヤバい奴とかの対応のためとか、そういう趣味の知人がいるとか。
そういう人と付き合いがある時点で根明ではないか? ヤバい類の人か。
(根明ってたぶんキャッキャウフフと世の中の辛さとか何もかもと縁が遠い人の事だと思うよ? 明日のご飯何かな? くらいしか考えていないくらいの)
それはもう根明じゃなくて能天気も通り越した存在だと思うわ。
お気楽な存在過ぎて羨ましい。そこまでになれたなら俺は人間になれるだろうな。
まぁ、でもそのレベルは根明をバカにしすぎだろ。それが根明だったら悲しくなるわ。
(確かに言い過ぎたかも。でも余程いい環境にいなかったらそんなメンタルにはなれないと思うの。もしくは悪い事も分からないくらいに頭がないか)
お前って根明装う根暗なんだな。
(え? 私って根明に見えてたの? 見てないでしょ? 暗い事を言わないだけだよ?)
きゅるきゅるみたいな可愛い系の擬音つけつつ、ヘドロみたいな目線を向けてくるな。
(アハッ!)
三文芝居なサイコパスするんじゃない。
そんな事しなくてもお前は十分サイコパスだし狂っているから。
三枚おろししても好きだと言うヤツが狂っていないわけがないしな。
(あぁ、確かに。君目線で見ると私ってすごい怖いかも? 私ってこんなに可愛いのに)
うわぁ……。
(ガチで引かれた……。えぇ? ねぇ、このビジュと声は可愛くない?)
そのイメージ動画は可愛いかもしれないな。
(そうそう。君の好み……は動物かもしれないけど、人間的に見たらこの顔はいい方でしょ? 声とかも自信があるんだけど!)
あぁ、うん、そうだね。たぶん。
(可愛いの基準で参照されたのがタヌキ……。ねぇ、タヌキは身近にいなかったでしょ? コーギーとゴールデンレトリバー? 確かに可愛いわね……。そういう目線で人間を見る事が本当にないのね……。見ようと努力はしたけれど、出来なかったのが見えたわ……。君は人間の側に本当にいなかったんだね……)
触れる距離と関係性にある生物は基本イヌくらいだったからな。
イヌの方が自分の集団に感じられるよ。
それ以前に他の生物をたぶん性的に見る事ができない。
(君のそういう部分が人間になれない理由だって君は思っているんだねぇ……。いや、でも私は可愛い! それは確定事象だから!)
この幻影は自意識が強固だな。タヌキになって出直して来い。
(ひどいっ!)
それにしてもこの体、排泄物の一つも出やしない。
(だから私はもう融合レベルで君と一体化しちゃっているからムリだよっ!)
ちっ。
(ほらっ! 立って! みんなが待っているよ!)
誰が待っているというんだろうね。はぁ……捨て置いてくれたらいいのに。
石像状態なら魔力切れで防御力なさそうだし、その時に砕けてたらよかったな。
石像状態の時もまだ魔力が切れきっていなくて硬かったのかな?
(リク君は待っているでしょ! それにあのお姉さんも仕事だし待っていると思うの! 行きなさい!)
はいはいはい。
(はいは一回っ!)
うるさい。今度は母親面か。うざいな。
(そんな子に私は育てた覚えはないよっ!)
お前に育てられた覚えもないな。
はぁ。屁の一つも出やしない。呼吸はイミテーションなのかな。
(お下品っ!)
腹に空気を溜める事もない。体内の微生物が発生させるガスもない。
そんな存在だとしたらどの程度人間を模しているのか気にもなるだろう。
解剖のしようもない体だから、分かるわけもないがな。
レントゲン撮って中身映るのだろうか?
(レントゲンは映るんじゃないの?)
この体がダメージを無効化している原理によっては難しいだろう。
魔力で表面を保護している場合、その魔力の壁を乗り越えなければ、X線だろうがなんだろうが通り抜ける事すら出来ないのではないだろうか?
攻撃という事象のみに反応しているのであれば撮影可能かもしれない。だが攻撃だと認識しなければ反応しないのであれば不完全な守りだとも言える。
他にも物体の構造の補強だとか、魔力が詰まっているからだとか、予想はいくらでも出来る。
(あぁ、うん。そうね……)
鏡に映って見える以上、光はこの体の皮膚に到達しているとは思う。
魔力により出来た光を受けた場合、その光を吸収したりするとしたら、その時の俺は黒く見えるかもしれない。
部屋の照明で俺の姿が見える以上、そういう光は許容しているのだろうか?
(そうなんじゃない? レントゲン映るねー。良かったねー)
魔力の壁に反射して光がその色に見えているとかあるだろうか?
いやだとしたら魔力が均一な反射をしないということになる。
均一な反射、完全な反射をする場合、真っ白に映るはずだからな。
つまり色が現れる程度には浸透し、割合で反射する様に出来ているはず。
「シロー? 大丈夫ー?」
お迎えが来てしまった。来るのか。お迎え。






