34、来襲
魔力を細かく動かすこと。なかなか難しいものがある。
だけれども多少は感覚がつかめてきた。
大きな流れから飛び出してくる細かな滴を操ればいいのだ。
言葉にしてみれば1行で終わること。けれど実際のところそんな簡単な話ではない。
まず細かな滴を操るのが難しい。
指でつまむようにいじれるわけじゃない。
お箸で米粒を摘まむようにですらない。
例えていえば布の上に置かれた米粒を布を触って動かすようなものだ。
ちょっと力を入れれば跳ね飛んで行ってしまう。思い通りの場所に動かすのが難しい。
大きな流れが側にありそこに跳ね飛んで行ってしまえば新しく米粒が大きな流れから外れてくるまで操れないし、大きな流れを止めれば川が堰止められるかのように氾濫をおこす。大きな流れに影響しないように布を動かしていくとなるとさらに思い通りにいかせにくい。
自由に移動できないから時間はたくさんある。
極める時間はたくさんあるのだ。
俺は車の中でバランス感覚を鍛えたり、魔力のコントロールを鍛えたり、今までに聞いた単語を繰り返し発音することで滑舌を鍛えたり、たまにご飯とトイレをしてお母さんとお父さんに話を聞かせてもらったりしながら過ごす。なかなかやることは多いけれど平坦だ。
いや、平坦だった。
衝撃が走った。何の前触れもなく。
乳母車の中で仁王立ちしていた俺はその予想外の衝撃で乳母車の母衣にぶつかった。
乳母車から落ちたら下手したら死んでたかも……。
死因、転落死。享年2歳。嫌だな。
「何が起きたっ!」
「わからないっ!」
「おいっ! 外を見てくれっ!」
「何……あれ……」
「たぶん、1等級の連中だ……。あれはたぶん訓練なんだろうな……」
「訓練……」
「あいつらの訓練は半径10キロ以内に壊してはいけないものがあってはいけないそうだよ」
「軽く街1つ分ですね……」
「ここって大丈夫なのか?」
「大丈夫……なはずです。少なくとも30キロは離れているはずなので」
「30キロ!? 30キロ離れてこの衝撃なのか!?」
「壊したらいけないものがあってはならないのが10キロですから……」
「おいおい」
「……ねぇ。向こうから何か来てない?」
「いや、まさか……来てるな」
「あ……あはは……」
「あれって人間だよな……?」
「たぶん……そうですね……」
「……すごい光ってる」
「そうだな……」
「なるようになるしかないか……」
「……なぁ。あれってやっぱり?」
「やっぱり……」
1等級の人がこの車目指して走ってきているんだろうか?






