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338、歩く

 列車でお風呂。いや、湯舟があるとは限らないか。

 だがしかし飛行船にすら湯浴みができる施設を作るくらいだ。

 けっこうなお風呂文化がこの世界にはありそうだ。


(転生者の影響かな?)


 可能性は高い。衛生的な生活に慣れた文明人が糞尿の臭いが漂う世界に耐えられるわけがないし。

 公衆便所の中で生活しろと言われる様なモノだろう。御免蒙るわ。

 窓から排泄物を投げ捨てる世界線とか、ここではあったのだろうか?


 貴族のハイヒールやマントは糞尿対策とか、宮殿の庭の端には糞尿がとか。

 ドレスのふんわりしたシルエットを作るためには骨格があり、それも排泄時の姿勢をよく見せるためだったとか。

 ほんとか嘘かわからないけれど、そういう衛生観の時代はあったか怪しい。


「お風呂は先頭車両にあるよ」


 声のした方を見ると、扉を開き手をこちらに向けているリク君の姿が見えた。

 どう見てもエスコートである。なんかもやっとする。そういう風にされる柄じゃない。

 人間性が卑屈すぎる。自己肯定感が足りない。それにイヤだとも言い難い。


(ただの親切をキャラじゃないからと断るの、なんか変に刺々しくしている感じがしてイヤ。自分が路傍の石くらいの興味を持たれない方が気楽? でもそれはそれで面倒。人への影響力がないとやりたい事がやれなくなるし。ある程度は意識されつつ、でも気を使われない程度に扱われ、面倒ごとはできるだけ避けたい。だがしかしそんなワガママを言うのは身勝手の極みだし、何よりそれは気持ち悪いのでイヤ)


 読み取るな。変な自縄自縛だってのはわかっているし、誤解ない扱いをされるにはこの見た目だとなおさら難しくすらある。

 たぶんリク君は中身の俺を認識した上で、エスコートをしているだろう。

 それにこの体でヘタな行動をとれば力加減を間違えて破壊とか起こり得る。


「あぁ、うん。行くよ」


 物を壊すのは怖い。身長的に取っ手の位置が微妙に高いのも面倒な点か。

 エスコートされるのが気持ち悪いが、この体だとある意味しょうがない。

 言い訳が簡単に浮かんでくる。嫌悪感の逃げ道を作るのがむだに上手い。


(人に何かを頼むよりも自分に対して言い訳する方が楽だからじゃない?)


 間違いない。自分さえ飲み込めば話が綺麗にまとまると思うからか。

 人を不機嫌にさせるのが面倒なのだろう。不機嫌にさせない言葉遣いを考えるのも面倒だし。

 一時の関係ならなおさら相手を変える手間を払いたくないか。相手の人生を背負う気がないのだ。


(私以外には怒ってないよね。怒るのも面倒な作業だから?)


 たぶんお前に対しても怒ってない。怒るよりも排除したいの方が強い。


(殺意が高い!)


「何か面白いモノあった?」


 外の話だろうか。それしかないか。

 考えている間に土煙が舞い始めたからろくに見えていないんだよな。

 逃げたくて仕方なくて、でもそれは意味がないと言い訳していた。


 あの鳥があれば外でも魔力供給の問題が解決する。それがわかっただけ良かったかもしれない。

 いや、どうなんだろう? 結局は自分でむだに制限を重ねているに過ぎないのか。

 自分が思う逃げられない理由をいくつも重ねて、逃げていい理由を押し潰そうとしている。


(逃げるという選択肢を諦めきれないから考えちゃうね)


 廃棄処分の方法、ちゃんと考えないといけないな。


(殺意!)


「ここって元々火山だったのかな? なんて想像したくらいかな。山頂が沈んで凹んで出来た平野みたいなってさ」


 隣を歩くリク君は繋いでいた手を顎の下に持っていった。何か考えているみたいな雰囲気がする。

 そういえばしれっと手を繋がれていたわ。差し伸べられた手にサラッと手をおいていた事にビビる。

 俺がやったのだろうか? 俺しかいないのか? 意識を飛ばし過ぎていた?


(しっかり飛ばしてたねぇ)


 お前か。


(てへ)


 早くどうにかしないといけない。迂闊に物思いに耽る事もできやしないじゃないか。

 気持ち悪くて吐き気がする。見た目だけなら兄妹みたいかもしれないが、中身が終わっているのだ。

 俺はおっさん。そうそれを忘れるな。どんな見た目だろうが中身を考えたら気持ち悪い。


(私なら大丈夫!)


 この体はお前の体じゃない。俺のモノだ。見た目に難はある。いつか体を切り替えられたらとは思う。

 だがだからといってこの体を特にお前の様なモノに渡すつもりはない。

 そもそもゴーレムの体は危険物が過ぎる。半端なモノに渡せるモノじゃない。


(別に私は暴れたりしないよ?)


 信用できるか。


 それにゴーレムという以外にも、神の似姿という問題点がある。

 宗教関係がややこしい世界で、思想が強いというか、特定勢力に与して革命とかされたら面倒だ。

 現状で不遇を被っている層は転生者と都市の外の浮浪者達だろうか? だが全員を救うのはムリだ。

 場所が余っているならともかく、危険な外を分け隔つ都市の壁の内側は限られている。


(私はそこまでお花畑していないよ! というか私は色々なお肉が食べられたら十分!)


 口ではなんとでも言えるよな。


「たぶんそうだけど、なんでそれがわかったの?」


 不思議そうな表情でリク君がこちらを見ていた。

 大まかな憶測はいくらか言えるが、どこまで正しいか分からない。

 まぁ、間違っていても可愛げがあるか。全知全能とか怖すぎるし。


(君ってとりあえず自分が間違っていてほしい人だよね)


 間違っていてほしいとまでは言わない。間違っている方が面白いとは思う。

 違うなら違うで何故違うが出てくるのだから。

 あと下手に正解を引き続けて期待されるのが怖い。

 期待を裏切った時や選択を間違えた時の手のひら返しは心に来るからな。


(面倒な頭をしているよね。普通は正解している方が嬉しいのに)


 正解していたらそれはそれで嬉しいさ。だが不正解ならどうして? が出てくる。

 クイズ番組とかでも不正解の方が楽しいだろ。自分の解答と違うモノだったら違うモノが見えるからな。

 知らないを知るのは楽しい。真面目に考えて不正解だったなら、なおさら正解が気になるというものだ。


「あの洞窟の結晶と付近の砂の粘着く感じかな?」


 硫黄臭がしたら確実なのだろうけど、この周辺は雨がそんなに降らないのか、湯気が出てこないせいか強い臭いはそんなにしない。

 いやそれ以上に獣臭がキツくてわかりにくいというのがあるか。

 なんであんなに獣臭がキツいんだろう? なんか肉食獣が辺り一面にいたりするのだろうか?


(狼の魔物がたくさんいるよー。水分もなしに動き回ってる分、本家の狼よりも厄介度がすごいの)


 転生者が脱走し辺りをうろついたら食われるのか。

 嗅覚で探されて、隠れる場所の少ない場所で。

 逃さない事に特化し過ぎなのでは? どんだけだよ。


(まぁ、そういう施設だからねぇ)


 こういうのを目にすると怖くなるな。

 特に自分が本来捕まる側だとなると。

 ほんと運が良かったよ。


「なるほど? 山とか見えないのにすごいね」


 憶測の塊が当たった様だが色々ビビる。

 そもそも本当に当たったりしたのだろうか?

 リク君の感心する姿がなんだか怖い。

 変な虚像がリク君の中にありそうで。


 ああもうなんか扉の上に温泉マークみたいなのがついているところに着いちゃったよ。

 ここがお風呂場なのか? なんでこう先頭車両にあるのか、大量の水を抱えるムダを含めて思うわ。

 もしかして水を加熱して蒸気でタービン回してたりする? じゃあ、水をお風呂に使うの良くないのでは? 汚れとかエンジン周りに付着したら掃除が大変を通り越して廃棄モノだろう。


 考えるほど不思議に思えてくる。

 エンジン室の周囲の熱を客室から遮断するための水場だったりしたとか?

 でも人間の脂とか髪の毛とか、あと外の砂粒とか、燃やすだけでは処理が終わらなさそうなモノとかある気がする。

 この先は一体どうなっているのだろうか?

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[一言] お風呂に突入!
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