337、陽が高くなり
砂の混じる乾燥している風が吹く。荒れ地の埃っぽい風に脂臭さが少し混ざる。
正直な話、大して気持ちのいい空気ではない。ちょっと暑いし。不快な臭いまである。
でも綺麗な空気だろうが、人が近すぎると疲れる。思考が加速し過ぎる。
(でも単純作業を繰り返すのは眠たくなるし、適度に考える作業をしないと時が進まないのよね)
待つのが苦手なのは間違いない。人に任せるとか出来ないというか、任せる相手がいないからな。
本当に1人で過ごし過ぎたよ。自分だけで完結することに慣れすぎた。
物の循環を考えれば、全てが自分1人で完結するわけがないというのに。
(君に人へ頼るべきという思考はあっても、頼る内容とか頼る相手とか頼る方法とか、そういうのはないもんね。社会みたいに漫然と頼らせてくれるモノじゃないと難しいんじゃない?)
調べなければ頼れないとはいえ、健常な思考の持ち主であれば、社会復帰がしやすい前世は良かったんだな。
自分で調べる気力もない、藁もつかまない勝手に沈んでいくそんな弱者は蹴落とされる社会だったとも言えるが。
自分を持ち上げようという思考も気力もないヤツは、救い上げようとしても社会の負担にしかならないとも言える。
(意識は高いよね)
意識しか高くない。本当に。見えても自分がどう動けばいいかが分からない。
見えていると思っているモノも、それが本当に考えている通りかも分からない。
ただ上手くいかない自分を納得させるために、適当な文言で誤魔化そうとしている。
(そうして自虐が入っていくのも、自分を罰してそれでお終いにしたいからかな)
だろうな。悪い悪いと言いながら、結局直す事もまともにできない。
そういうところが本当にバカとしか言えない。何も変えられていない。
自分のしたい事すらも見えなくなって、なんで生きているんだろうな。
(陽が上がり高い空には砂が舞う。朝は少し湿気っていたが、気温があがるにつれて乾き、砂ぼこりが舞う様になったのだろう。俺の気分みたいに先が見えない)
何を勝手にモノローグをつけやがるんだ。俺は別にそこまでの事を思っていない。
いや、少しは思っていたかもしれないが、そこまで感傷的なメンタルではないだろう。
というか天気に自分の気分をのせるのはナルシストが過ぎる。
「そろそろ戻った方がいいんじゃないかな? 砂埃がキツくなってきたしね」
うん。ちょっと思ってた。感慨に耽っているフリをするのもキツい。
外に居たい理由って屋内のこもった感じが嫌だからに過ぎないし。
でも本当に疲れているのかもしれない。何かあるとすぐ逃げたくなる。
(いつも逃げたい癖に何言っているの?)
それは間違いない。逃げ癖がある。何かあればとりあえず逃げて終わらせたい。
そうして逃げた結果、何にもなれない俺がいる。何かになりたい癖に。
逃げれば一瞬は何とかなるだろうが、長期的に見れば自分の道を閉ざしている。
進み方がわからないけれど。
(私が先導でもしようか?)
I★YA★DA
「そうだな。もう少し天気が長持ちしてくれたら良かったのに」
あの青い空が嘘の様に黄土色の空だわ。
リク君のあのローブみたいな服ってこういう環境が多いからじゃないかな。
複雑な凹凸がある服だと洗濯が大変だもんな。マントみたいな感じだったらバサバサしたらほとんど落ちそう。
(君は何をもって進むと捉えるんだろ?)
わからない。そもそも進んでいるというのが色々曖昧なモノだから。
目標があるのなら、どの工程まで進んだか、目安をつけられるだろう。
だが俺の進んだ逃げたは人生的なモノだ。
生きているだけで進んでいるといえば進んでいると言えるだろう。
(でも進んでいるとは思っていないんでしょ?)
人間性が終わっているからな。社会性が出来ていなければ人間として生きているとは言えない。
どこかのグループに所属したら生きているというのか? と言われてもハイとは言えない。
自分が社会と認識できる範囲に受け入れられたら進んでいると思うかもしれない。
でもそれだって全体から見れば一部に過ぎないし、それを言い始めたらキリがない。
「汚れちゃったから体を洗おうか。ここの砂はちょっとベタつくからね」
確かに油っぽい砂だ。硫化物とかで塗れているのかも。
火山とかで発生した硫黄の化合物がここの表土に溢れているのだろうか?
だとしたら付近に火山があるかもしれない。いや、あるのか。あの晶洞を考えれば。
(もしかしたらここがカルデラなのかもね)
かもしれない。熊本の阿蘇カルデラみたいな感じで。
阿蘇カルデラってだいたい200キロくらいのサイズだっけ? すごい広かったっていうイメージ。
マグマ溜まりが噴出するか、地下を移動してその分沈下してできた窪地だから火山の噴火はもうそんなに考える必要はないんだろうか?
もしカルデラだった場合、端は急な崖になっているのだろうか?
あのオアシスみたいな部分から逃げて万一荒れ地を越えたとして、急な崖に阻まれたら絶望だな。
流刑地に最適過ぎて怖い。
「もしかしてここにはお風呂とかあるの?」
魔法があるから水が使い放題とか言われても信じられる。
いや、空気中の水分とかを利用しているのか?
生成となると魔力の必要量がヤバいから。
・・・・・・使用後の水から水を生成した場合、ゴミはそこに残るのだろうか?
この考えで出来るのは魔法を使った蒸留水?
フィルターを通すよりも確実に分別出来るとしたら最高なのでは?
(お風呂ね。一緒に入るの?)
頭ピンクか? いや、そもそもこの体自体、無性別だわ。
中身が俺な以上、男性だといって過言ではないだろう。
つまるところもし一緒に入ったとしてもおかしい事はない。
(髪の毛も長いし、女の子みたいな容姿なのに、まだ男性と言い張るんだ? そもそ中身のも君自身が無性別じゃん。男ぶってるだけで。男だと言いたくて体張るけど、性欲とか分からないって悩むくらいには)
間違いなく男性だろ。男性の体で生まれたんだから。
前世もそうだが、今世もといリク君の体として生まれたくらいには。
内情の方は俺が人間失格なだけだし、重要じゃない。
「あぁ、うん。あるよ。これから入る?」
ぬめっとした砂が体にぶつかる。
リク君はしれっと物陰に避難し、そこから微笑んでいた。
残りたがった俺の自業自得なんだけど、なんかズルいって思ったわ。
(頬に砂粒がちょっと当たり始めた時に止めておいたら良かったのにね)
んな事言われても後の祭りだわ。
こちとら最初はサバンナとかそういうのを想定していたんだぞ。
激しい土埃の存在なんて知らなかったんだ。
「入りたいな。なんか気持ち悪いし」
油に塗れた様な砂粒なのになんで土埃の様になるのだろう?
水に塗れた時は互いにくっつき合い重くなるのだろうか?
ベタっとするくらいの砂粒なら、土埃にはならない気がするのだけど、よく分からない。
汗とかこの体は出ないと思うのだけど、もしかして汗が出ていて、その汗と反応してベタっとくっつくのだろうか?
汗とは限らないか。衣服の静電気とかもあるだろう。
むしろ静電気の方が理解しやすいか?
色々分からないが成分的に面白そうではある。
硫化物なら硫黄をこの砂から取り出せるかもしれない。
他であっても面白そう。精製コストは魔法だからそんなにかからないかな?
もし硫黄ならゴム製品に使えそうだ。
「そっか。じゃあ案内するよ」






