336、展望デッキに残ろう
「あの鳥ならたぶん頼めば融通してもらえるしいけると思うよ」
ユルく言われた。どういう意図があってそう言っているのだろう?
そもそもあの鳥は悪用しようと思えばいくらでも出来るだろう。特にテロリストとか。
そういう代物を処分するのは前世であれば何件も手続きをかませた事だろう。
いや、この世界でだってそれが行われてしかるべきだ。現実にテロリストいるのだから。
そう考えるとそれを横入りして危険物をもらいに来る様なのはひたすら面倒だろう。
現場判断だとキツいが、上からの鶴の一声で決められる案件だろうか?
(また変な不安症の発作ね。今度は横車を押すようなヤバい頭になったリク君を想像したの?)
なんか変なイロボケでもかましている気がしてならない。
少なくともダメなモノはダメだと言わないと怖いだろう。
いや、研究素材としての普段から取引があったりするのだろうか?
「そんな簡単に決められるモノなんだ?」
生物由来といえば食品添加物とかだよな。口紅とかにも使われている赤い色素が虫由来だったり。
あれはたしかカイガラムシの1種だっけ? バラとかに着いたりする灰色の小さい虫の体液。
使えそうな物質を生物から見つけたら化学的に合成できないか試す。合成できるなら材料さえ確保できれば生き物の繁殖量には関わらず安定供給できるし、天然モノよりも純度の高いそれを得られるのだ。
(あ、思考が飛んでる。可愛いね)
いや、それどうなん? 可愛いんか? おかしいヤツやろ。
(たぶん可愛い)
ないない。
「まぁ、そこそこ? 既に取引あるところだからね。項目を少し増やすだけだから」
それなら楽なのだろうか? わからない。名目は何になるのだろう?
研究という事で国から予算が降りているなら、新しく項目を増やすのは難しいのでは?
私費で購入はそれはそれで問題か。国だから許可しているのであって個人の所有は許可されないみたいな話は普通にあるだろう。
(そんな事務関係厳しいところいた事ないよね?)
いなくてもそれくらい想像できるだろ。事務手続きはちゃんとしなきゃもっと面倒な事になるわ。
事務的手続きはできるだけイレギュラーを出したくないモノ。前例の踏襲で認可を簡易化し、一件一件の事案の処理を高速化しているんだ。
イレギュラーはあっちに確認、こっちに確認と余計な作業を増やすは、判断時間も含めたらもう面倒くさい。
(役所関係かな? まぁ、それはそうだよねぇ)
手続き関係、本当もう面倒くさい。
事務処理、自分で完結できないのが嫌い過ぎる。
これは上に確認取りますねがもう面倒なんだよなぁ。
(ねぇ、変なスイッチ入ってない? なんか最近辛い事あった?)
「そっか。手に入るならそれに越したことはないな」
強奪よりかは書類的処理や責任問題などなく、紙が1枚増える程度くらいで済むんじゃないだろうか?
普段の延長線上の処理なら、確認関係も少なく済むだろう。
穏便に入手出来るならそれに越したことはない。
(記憶にない記憶……。彼は一体何を参照しているのだろうか? 調査隊は真相をつかむためガード下の居酒屋に向かった)
そこで得られるのはクダまく酔っ払いの戯れ言だけだ。
まぁ、妄言の中に自分の想像しなかったアイディアがあるかもしれない……。
いや、そもそも記憶にない記憶の話だから酔っ払いの話を聞くのは正しいのか?
(おぅーい! 飛ぶな! 思考をアマゾンの奥地へ飛ばすな!)
どうやら俺は行く方向を見失ったらしい。
それで思考がサーカスしている様だ。
強奪とかを考えたのも、自分の考えで動くには難しい不便なところへ行くのが嫌だったからではないだろうか?
(うわぁっ! いきなり落ち着くな!)
「うん……っ! まぁ、なんだかんだ朝の陽射しは気持ちいいね」
そう朝なのだ。まだ朝。リク君はたぶんそこそこバカンス気分なのだろう。
気は抜いてる。でも直ぐに切り替えが出来る。
休暇と仕事を反復横跳びできる感じか。
(リク君は確かにそんな感じがあるよね)
なんかお前にリク君と言われるの気持ち悪い。
(え、何? 独占欲? え、そういう感じ? ジェラシー? ジェラってる? ふーん! そうそうなるほどね)
いや、別に独占欲というわけではない。
なんか別に知り合いの知人とかでもない相手に知り合いの友達面されるのはすごい気持ち悪いだけ。
すごく生理的に受け付けない。
(うんうん。なるほどねぇ。君にとって彼は唯一の近しい人だもんねぇ。知人レベルならまだいるかもしれないけど、内情を知っている友人レベルの相手は彼だけだもんね。縛られるのも彼だからかな? 面白いねぇ。縛られるのも嫌だから逃げたい癖に、本質的には自分を知っている唯一の相手から逃げたくないまである。逃げようと思えば今ここから飛び降りるだけで済むのに、それを考える事もなく、考える事もできず、身を縮めてしまう。君は可愛いねぇ)
え、何……。怖……。
「そうだな。綺麗な青い空だな」
空は高い。何にも手の届かない。胸が痛む。
空虚な自分が何も持っていない、何も得られなかったのを自覚させてくれる。
欲しい物が抽象的な自分が悪いのだろう。
(なうろーでぃんぐ。メンタル修復中。厨二病回路作動。なんちゃってハードボイルド回路作動。ポエマーモード突入)
元凶はてめぇだ!!!
(ちゃぶ台返し! え、熱々お茶オプションまで!? ギャグに見せかけたただの拷問コンボが!!! いや、痛! 熱っ! 割れた陶器がっ!)
「ここからだと荒れ地しか見えなくてつまらないかな?」
緑はほぼ見えない。茶色。白。黒。
ここに何を感じ取るのかは悩ましいか。
だがつまらなくはない。何がどうしてそうなったかを思えば。
この土地は植物が生えにくい、つまり土壌の塩が多いのかもしれない。
太古の昔は海だった。そういう場所だろうか?
この世界にも地殻変動があるとすれば可能性はある。
(地球みたいな惑星なら高確率であるよねぇ)
「面白いよ。こういう光景は見た事ないから」
大きい何もない平野は人が住みにくいのだろうか?
住む場所はあっても、食料の安定供給が難しいから。
鉄道の線路があるならまた別になるのか? 駅で食料の確保出来るから。
いや、あそこは流刑地なのか。
鉄道で1日近くかかる遮蔽物もない平野の中央とか無策で特攻出来る場所じゃない。
あの施設は陸の孤島だ。辛うじて食料生産が出来る様になったから自給自足出来るだけの。
(まぁ、鉄道か飛行船か、何かしらの移動手段なしだと、出られない場所ではあるねぇ)
「良かった」
含みのありそうな微笑みだ。何を思っているのだろう。
ここで何か嫌な事でもあったのだろうか?
苦い感情が少し混ざっている気がする。
(彼の微笑みの区別をつけるのマンガとかだと超大変そうだわ)
いや、マンガなら後ろに効果をつければいけるからまだ楽だろ。
イラストの方だとマンガ的なエフェクトを使いにくくて難しいんじゃないかな?
実写だとそれ全部同じじゃない? って言われるヤツか。
(白って200色あるねん)
実際は200色よりももっと沢山あるよな。
感度の高さでより詳しく色の違いを認識出来る程度。
どこからがレモンイエローなのか、どこからがグレーなのか、水色はどこまで水色なのか、そういうの考え出すと分からなくなるわ。
「あそこのベンチにでも座って、しばらくここにいるか? 俺はまだちょっと見ていたいと思う」
部屋の中にいるとどうも鬱屈としてきてしまう。
あと人との距離が近くなるのがどうも苦手だ。
警戒範囲に人が多いのは色々とキツいモノがある。






