334、鳥
(フラグを盛大に建てるからだよー)
クソ。いったいあれはどういう能力を持っているか分かるか?
見ただけでヤバいというくらいだ。けっこう有名な魔物なんだろ。
お前は何か知らないか?
(知ってる様な?)
知っているのか、お前。
(知らない様な?)
面貸せ。マンガみたいに膨れあがるまで殴っちゃる。
「そんなにヤバいの?」
リク君は苦笑していた。切羽詰まった状況というには緊張感のない顔だ。
時間的には余裕がある? でも打つ手は少ない? そんな感じだろうか?
決まった対応をするだけかもしれないが、あまりしたくない事をするのかもしれない。
(たぶん単体は弱いけど後処理が大変なヤツ)
知っていたんか、われ。
(ごめん、適当。キャハ!)
校舎裏。16時。俺が来るまでバケツ持って立ってろ。
(それなんか色々混ざってる!!!)
「あの鳥は魔物を呼び寄せる声と体液を持っているんだよね。声は1キロくらいかな? 体液は風向きによるけど30キロくらい。狩りをする時には役立つんだけど、今みたいな時は困るよね」
ただ移動するだけに乗っているお客様には迷惑すぎるな。
でも俺からしてみたらご飯呼んでくれる子じゃん。
もしかしてアレがいたら誰かに頼らなくても生きていけるのでは?
(ねぇ、何考えているのかな? ねぇ? ダメだよ? ダメだからね?)
だって1人で生きられるならそれが最高じゃん。
そもそも俺は人頼りな生き方が嫌いだ。自分の生命線を人に握られて生きる事に慣れてない。
生命線を脅かし理不尽な要求をされる事が許せない。
(あ、うん。君はそっか妙にガンコなんだね)
そうだな。ガンコだな。実害が出る前に最悪を考えて「これしないと携帯止めるよ!」みたいなのにはどんな些細で簡単に出来る事でも絶対従わない。
お菓子あげるから みたいなのなら、まだやっていいかな? とは思う。
だがその場限りじゃない。生命線を使って脅す様なヤツはそれを何度も繰り返す。だから従ってはいけない。
(ねぇ? ちょっと恨み骨髄過ぎない? 落ち着いて。ねぇ、それで大分道を踏み外したんでしょ? ちょっとはそこ曲げようよ?)
嫌だ。
(そっちは破滅の道じゃん)
でも嫌だ。
(自分でも分かっているんでしょ? その道の先はないって)
だけれども嫌だ。
(バカ! それじゃ何時まで経っても変わらないのよ!)
それでもムリ。
(一万歩譲って君が悪くないとしても、人ならそこは曲げて、本当に叶えたい事のために動くべきなの! 意地張って自分の意思を突き通して何とかなるのは物語の主人公だけなの! 意地張ってバカして大ケガして普通の生き方が出来なくなって……それで君はいったい何を手に入れたっていうの?! 手が届かなかったモノに今でも焦がれて、過去の選択を後悔して、それでもまだそんな意地張ってバカするの!? それは本当にバカでしょ!?)
そうだよ。バカだよ。一時の嘘も許せないくらいの。
自分を曲げればいい。もちろん頭では分かっている。
でも曲げたが最期、俺は全てがどうでもよくなる。
欲しいモノなんてありやしない。
誰かが持っているモノはガラス玉でも宝石に見えるのに、自分の手にある宝石はガラス玉にもなれない石ころと化す。
塵芥。触れば砕ける。人の手の内にある時こそが華。
人の真似事をして、人のフリして、手に入らない何かを追い求めようとして。
ぶっちゃけそういうのはいいんだよ。もうさ。
1人で生きられるなら、1人で生きたくて仕方ないんだ。
(それはただ君が持っているモノにしか目を向けてないからでしょ?! 君がそのモノに対して抱いた感情と、それを楽しそうに持っている人がそのモノに対して持っている感情は違うに決まっているじゃん! 君は君だけにとって特別なモノを見つけなければそれは埋まらないし、それと1人で生きる事は全くの別物!)
それは分かっているよ。ただ人と一緒にいるのは疲れるんだ。
自分の出来ない事を突きつけられる様でね。
カモの群れの中にニワトリが1羽紛れ込んでいる様な感覚かな。
羽はある。でも用途は違う。出来る事も違う。少しだけ真似事は出来る。
少しは飛べても皆の様には空を飛べる気がしない。
水辺でバタつくくらいなら出来ても、川で泳ぐのは難しい。
体の構造が、精神の構造が、ここは俺のいるべき群れではないと言っているんだ。
(カモとニワトリならそうかもね。でも君の体は人よりも出来る事は多いでしょ? 大は小を兼ねると言うじゃない。君なら出来るの。やらないだけで。諦めてるだけで)
バカ言うな。そう簡単に言えたなら俺はいない。
そもそも優れているわけがない。歪なだけだ。
点だけで見れば優れていたとしても、面で見れば欠けが多すぎる。
「どうしたの? すごい顔してるよ?」
人間になるしかないなら、身を屈めてムリをするしかなかっただろうしな。
だがあの鳥が俺の体の魔力問題を解決するならもうそれをする必要がない。
俺はあの鳥が欲しくて仕方がない。
(バカ!!!)
どうやって捕まえる? さすがにあの高さはムリ?
いや、この体ならたぶんいける。大丈夫。
迎撃で近場にて暴発するのは周辺にとって迷惑だろう。
(変な事はしないで!!!)
しっかりと対策されたモノ。
つまり成功率の高いやり方があるだろう。
でもそれをしたら俺の手には入らない。
「あの鳥はどうするの?」
近くに行って跳ねるだけでどうにか出来るわけがない。
それで捕まるのなら作戦など必要がない。
網なども持っていないのだ。すごい大変だろう。
(ムリ。だから止めて)
どうすれば捕まえられる?
こちらの作戦に便乗するのが賢いだろう。
でも追い払うだけにしそうだな。
(ダメなの。やっちゃダメなの)
魔物の性質上、すぐに鳴くかもしれない。
触ると体液が滲み出る様なキモさも考えられる。
轟音で追い払うとかもたぶん出来ないだろう。
「防音防臭のモノで囲んで凍らせるかな?」
臭いと音への対策をどうやってあの高さにやるのだ。
鳴かせたら周囲の魔物が来るのだろう?
飛行能力を考えるとすごい難しいだろう。
(そう難しいの。だから変な事は考えないで)
いや、だからリク君は困った顔をしていたのか。
やり方はあっても出来るかどうか分からないから。
周辺の魔物との戦闘になる確率が高いし、それの被害がどれくらいかも算出が面倒だろう。
(いけないの。やっちゃダメなの)
何をトリガーにあの魔物は鳴くだろうか?
周囲30mに不審物が入ったらだろうか?
自分の飛行能力で逃げづらいかもしれない範囲に入ったら鳴きそうだな。
「何か手伝える?」
(手伝うフリして作戦聞いて奪う計画とか止めて!)
やだ。
(ダメだよ。リク君を傷つける事になるよ。ここから出たいのは分かるよ。でもその方法はダメだよ。よくないよ)
お前の方が正しいんだろうね。
俺はヤケになっているんだろうね。
目の前のエサに全てを持ってかれている。
(分かっているなら止めよう? 何も未来はないよ? いつも君は後先を考えているでしょ? ね?)
「んー……大丈夫かな? 僕が対処しなくてももう終わるみたいだし」
え?
(神!)
ま?
(助かった助かった助かった助かた助かった助か助かった)
うわー。なんかドローンみたいなのが三角錐作って中に件の鳥を収めてるわ。
そりゃ、人間の手であの高度の獲物をどうにかするのキツいよね。
猟銃で一発ズドンとするにはリスキーな相手だし。
(やーいやーい)
絶許。
「そっか」
鉄道があるということは周辺に現れる魔物の種類なども全て調査済みなのだろう。
対策手段もたくさんあるから運行しているまである?
偉い人を乗せるからかもしれない。
でもあの鳥、車内に来るんだよね? 死体だと思うけど。
欲しいな。






