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332、食堂

 食堂車までの道はそんなに長くはなかった。

 いや、電車としてみたら少しは長いかもしれない。

 サイズがサイズだから、長いは長いと思うが。


(この特急自体5両もないし、居た車両もほとんど真ん中だからそこまで歩いてないよね)


 それもそうか。やっぱり大して歩いていないよな。

 人がそんなにいないのと、横幅が広い事が歩いている距離を誤認させた?

 まぁ、そこの感覚はそこまで深く掘らなくていいか。


「何か気になるモノある?」


 リク君が微笑む。やはりこの微笑みが怖い。何を考えているか分からないから。

 思考の仕方がどうにも動物的なのだろう。感情の見えにくい行動に不審感を覚える。

 人間はそういう行動が多くて苦手だ。


 動物も何かを隠す事はある。人間と違ってまだ分かりやすい。

 だがそれは自分のケガなり、守らなければいけない何かで、理解しやすくもある。

 ケガが露呈すれば野生動物なら狙われるし、集団の泣き所になってしまうからな。


(という事にして納得しようとするのだった)


 あぁ、そうだよ。バーカ。


「あそこのコーナーは?」


 器に具材がたくさん入っていて、バイキングの様に見える。

 ただ周囲にはサンドイッチを食べている人の姿はあっても他の料理を食べている人は見えない。

 それに別の場所にはすでに出来ているサンドイッチも見える。


 いや、あれは具材を自分で選ぶ事ができる自作サンドイッチの具材置き場か。

 自分で作るのが面倒な人や自分のセンスに自信がない人は既製品を選ぶ?

 いや、シェフが作ったモノを選んだ方が結果的に美味しいモノにありつけると思うし、既製品を選ぶのはそれはそれでメリットが多いだろう。


(お肉ばっかり食べたかったら自作サンドイッチがいいよねぇ。私そっちのがいい!)


 野菜を食べろ。いや、俺は野菜を食べる。サラダを食べたい。


「各地の名物が多いかな? 東西南北で場所が別れているよ」


 北は魚肉が多い。南は果物だろうか? 東は野菜が多く、西は香辛料だろうか?

 牛肉などの家畜の肉は少なさそうだ。強いて言えば鶏肉みたいなのはどこにでもある様に見える。

 他の肉は器の側に頭が置かれている。……あれって恐竜か何かかな……?


(食べられる魔物だねぇ。東のはフォレストグリズリーかな? あんな歯をしているのに動物よりも植物を多く食べるみたいで、肉質は甘く臭みが薄い。筋肉質で適切な処置が行われていないと固いが、あの肉の色を見るに正しい処理が行われている事が間違いない。弾力に富みつつもちょっとの力でプツリと噛み切れる事間違いなし。あれは絶対美味しい。食べるべき)


 ……どうした急に。そんな食道楽だったか? あとお前は食べられないぞ。

 この体は俺のモノだし、所有権を譲る気もないからな。

 それにそんなプレゼンをされても食べない。俺はあくまでもこの世界のオススメだと思われる既製品を選ぶつもりだし。


(なんでぇぇぇえ!!! あれは食べないと損だよ! 食べようよ! 隣りのお肉はディアンディア! 鹿の中でも最高に鹿らしい鹿! あれも美味しいんだよ!)


 鹿以外の情報がない鹿だな! 食べない! それに俺は普通の食事が知りたいんだ!


「面白いね。色々と目が楽しい食堂だよ」


(ディアンディアはね。ビックリするくらい鹿なんだよ。でもね、鹿の良さを全部詰め込んだすごい鹿なの! あのお肉の色合いを見てよ! あのきれいなピンク色はね、正しい処理をしないと出ないんだよ?)


 だから鹿しか鹿の情報がないわ! とりあえず鹿なんだな! はいはい鹿鹿!


(北のコーナーの白いのはマリンレインディア! 海を渡るトナカイね! とっても脂肪が多くて不思議な味なんだけど、びっくりするくらい甘いお肉なの! 肉質は柔らかくて熱で簡単に溶けるの! だからほら入れている器から冷気が漏れているの! 海にいるからとか冷凍しているからとか、まぁ色々理由あって生で食べられるお肉なんだよ!)


 どんだけ肉について知っているんだよ! そんなにいい肉を食べられる生活していたのかよ!


(私、食べた事はないよ。でも食べた事ある人に憑りつけるの。わかった?)


 あぁ、うん。なるほどね。憑りついて記憶から吸い出したのか。やっぱ悪だな。

 憑りつけば自分の意志と誤認させて、色々言動を弄れるし、政治関係でヤバい手が出来る。

 いい肉を食べる。つまり高給取りとか偉い人にたくさん憑りついたという事だろう。


「魔物の頭を飾っているのは演出として凝っているよね」


 こういう頭を見るとちょっと欲しくなる。飾る場所がないのが問題だけど。

 あぁ、でも抱えて遊ぶのもいい。頭の部分に顎をのせたりして。十分もしない内に飽きそうだけど。

 見た目的に好きなのだろう。感触とかも楽しみそう。


(サイコ? いや、厨ニ病? 夢から目を覚ました方がいいよ?)


 やかましいわ。俺の中の男児が欲しいと言っているんだわ。

 ああいう金持ちの家の壁に掛けられていそうな頭とか見ていて楽しいじゃろ。

 イメージだけじゃ実感薄い想像が、頭という形で一つあれば、これくらいの大きさ、これくらいの強さ、こんな意思を感じながら……と、深く出来るのだ。


(そっかそっか〜)


 こんにゃろ。とりあえず肉はナシだな。


(ノー!!!)


「そうだね。ちょっと好き」


 本当はちょっとじゃなくて好き。

 見ているだけでもいいけど、欲しい。

 御澄まし顔でちょっとというのは過小表現。


(本当は雄増し顔なんじゃない?)


 どんな顔だよ。


(普段よりも男性側の欲求を強めに出してる顔?)


 分からんわ! そもそも中身おっさんだわ!


(はいはい。おっさんになりきれない〜とか言う癖に、都合のいい時だけはおっさん面するヤツね)


 この野郎……。


「家にこういうの欲しい?」


 欲しい欲しくないで言うと欲しい。

 現実問題だと、頭だけといっても場所を取る。

 手入れの仕方が分からないし、一つ一つの手入れにどれだけ時間がかかるか分からない。


(メイドさんとか家にいるんじゃない? その人達に任せたら?)


 確かにリク君の家にはそういう方はいるだろう。

 そういえばあの危ないシスターはどうしているのか。

 なんだかんだまだあの家にいる気がするんだよな。


(このユエさんって方、危なくない?)


 危ないだろうな。メリットが多いから止まったレベル。

 あとリク君自身の強さとか要因はたくさんある。

 お目付け役もいたけど、彼女はどうなったんだろう?


(歌のお姉さんもといカナさんね。この方は大丈夫そう……)


 あのお姉さんは理性が強いと思うし、なんだかんだコネの多さもあって、図太く生きていけそう。

 直接的な暴力には弱いけど、政治的な強さはすごい。

 きっとリク君をしっかり助けてくれていると思う。


「あ、うん、気になる程度かな? 置き場所に困るし、狩猟の準備室みたいなところでもないと、どういう気持ちで見ればいいのか悩むくらいだよ」


 冒険者ギルドみたいなところの談話室が良さげでは?

 リク君の両親がいたっぽい場所。

 リク君の両親って今どうなってるんだろう?


(時たま訪ねてきてそう。お金にも名誉にも困ってないだろうし、リク君の事を普通に心配してると思うよ)


 俺がリク君の中から消えたから、不気味な子供ではなくなったか。

 魔力の暴発の話は対策にゴーレム達がいる。

 リク君本人の大人から見た懸念点は消えているだろう。

 リク君いい子だしな。


「そっか」


 あの柔らかな微笑みに悪意はないだろう。

 まぁ、俺に向けられているから、俺としては不気味に感じるが。

 でもそれは俺の劣等感などにより生じたモノ。

 リク君は悪くない。悪いのは俺だけ。


(君は考え過ぎだよ。悪影響はないとはいえないけど、仕方のない範囲だし、気にし過ぎ。もっとゆるく生きるのがいいよ?)


 それが出来たら俺はいないんだよな。

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― 新着の感想 ―
[一言] お肉は良いぞ! でも最近たくさん食べれないんだ……(切実)
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