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331、廊下

 晴れる。晴れているのか。暗雲が垂れ込めるくらいが妥当なのでは?

 トラブルが続く荒れ模様が妥当なはず。俺の心情ごときで天気は変わらないか。

 変わるとしたら俺の目線なだけ。憎らしいほどに青い空とかね。


(ナーバスだねぇ)


 自分でどうにか出来ない事が嫌なだけだろ。

 分かってはいるが、気が立って仕方がないんだ。

 バカみたいだが、本当にバカだから仕方がない。


(君のバカの使い方って、合理的だとは思うが自分の中の道理に反するからやる事が出来ないとか、細かい部分で他人にできて自分のできない事への苛立ちなどに向けた否定的な感情だよね)


 だからどうした。暗算とかがいくら出来たところで、人間関係の計算に余計な関数をいれて失敗するのはバカだろう。

 自分の中のできないラインはどうしてもあるとは思う。

 人によってはどうでもいいと思うモノであっても、自分では許容できないモノがね。


(そうだね。君の場合、後先考え過ぎるから、余計に行動出来ないよね。それは仕方がないじゃん)


 仕方がない。そう仕方がないな。だがそれを開き直って人間になれるか?

 たぶん人間になる事はできないだろう。俺の許容できない部分が人間である事を否定するのだから。

 1つ1つはそうではなくても、合わさると人間ではいられない。そう思える。


「そういえば何か食べたいとかある?」


 食べたいモノ……。そんなのあるだろうか?

 日本の食べ物ならちょっと食べたいが、こちらの食べ物で面白いモノを知らない。

 デフォルトな御馳走は飛行船の時にした。その後にこの世のモノとは思えない不味いの口に入れたが。


(もともとそこまで食に執着がないのね。珍味からゲテモノまで食べる癖に)


 面白いからな。知らないモノはとりあえず面白い。

 上から下まで楽しんで、想像力を上げたいとか何とか思ってた。

 既に食べた事あるモノはそこまでの興味がわかないだけ。


(で、その欲求には大金をかける程の執着がない。そこは究極の美食とか目指すモノじゃないの?)


 そんなのいくらお金がかかると思っているんだ。

 美味しいモノを食べるためには金だけじゃなくてコネも必要になる。

 日本は飲食に恵まれている分、そこそこでも十分に美味しいモノが食べられる。

 それ以上の高望みをどうしてしようか? 大変過ぎるわ。


「とくにはないかな? リク君はお腹減っているよね。食べるなら付き合うよ」


 これしきの事を答えるのに、どんだけ妙な思考を回しているのか。バカみたいだ。バカだったわ。

 そもそも食べる食べないは俺にしか関係がない。リク君は起きたばかりでご飯を食べたいんだ。

 そこで自分の都合しか考えない部分が人間ではないというべきだろう。


(私も煽ったけどね)


 つまりお前も人間じゃないという事か。幽霊化しているんだからそうだな。

 ヒトデナシ同士仲良くしようぜ。いや、やっぱ嫌だわ。お前は敵が妥当だ。

 俺の食い物は魔物が妥当。食べれば魔力を得られるし。そう考えたらお前がご飯だ。


(なんでーぇっ!)


 俺、お前食う。頭から。丸かじり。


「そう? じゃあ、食堂車でサンドイッチでももらうくらいでいいかな。朝はそんなにガッツリは食べられないんだよね」


 朝からステーキとか食べられる強靭な胃袋は誰もが持っているわけじゃないか。

 でもリク君ならそこそこしっかりと食べられると思うんだけどな。

 細身だけどけっこう筋肉質な体をしているし。


(温度差! 温度差で風邪ひいちゃう!)


 勝手に風邪でもひいてろ。


(ひどい!)


 そういえばお前の頭ってどこだ? まぁ、適当に掴んだとこを頭とすればいいか。


(いやいや、食べないでね? ほんとに食べないでね? お腹壊すからね? 私が)


 実力行使かい!


「ここの食堂車って美味しいの?」


 もちろんだが食堂車は食べない。


(中でボケても私にしか分からんわ! ボケるなら外に向けぃ!)


 いや、ボケとしては大分つまらない部類のだろ。

 そんなみそっかすなボケを得意満面に口に出せるわけがないじゃないか。

 自信のないボケは雰囲気からして詰まらなくなるから却下で。


(百年に一度のボケが出来ても、君は口に出せそうにないね! バーカ! 滑るのを恐れるな!)


 滑って楽しいのはスキーとかだろ。

 ダダ滑りなギャグってどう扱えというんだ。

 芸人さんでも滑った時は精神的にキツいだろ。


「美味しいよ。ちょっと変わってるけどね。転生者の料理を中心にメニューが出てるから」

 

(滑ってもいいんだよ! ギャグを「これどうですか?」みたいな感じで反応を求めてくるのが一番面倒なの! ダダ滑りなのに自信満々でドヤられたらそりゃ反応に困るわ!)


 なるほど、あの研究施設で得た情報を手っ取り早く還元するのか。

 確かにそれならサンドイッチとかも置かれてるだろう。

 俺にしたらこちらの方が不安感なく食べられる。


(くそぅ……。やりやがった。この私をスルーしやがった。そうだよ、そうなんだよ。話の流れで面倒な時は触れないでおけばいいんだよ。全部が全部、反応を取らなくちゃいけないのは、相手からして面倒だし疲れるしあまり関わりたくないヤツになるんだよ……)


 それに転生者の料理という目玉商品があるのはいい。

 食事に珍しいモノを求める層にはグッと刺さるだろう。

 未知に対し偏見を抱きがちな人間に、分かりやすく「こんな文化がありますよ」「こういう共通点がありますよ」と示すのは、イメージ戦略として凄く強い。


(のぅっ!)


 うるさいよ。


「そうなんだ? 面白そうだね」


 食堂の形式はどうなのだろ? バイキング形式だろうか?

 この特急は揺れがほとんどないし、面積もあるから問題なく出来そうだな。

 バイキングならどういう料理があるか、実際に見つつ取れるし、慣れないモノは見るだけでスルーする事もできる。


(ひどい……ひどいよ……)


 全部に反応するのは確かに面倒だね。

 期待されている反応をしないといけないとか、無難な反応はどうだとか、色々考えるのは疲れるよ。

 一発かまそうという考えよりも、刺さればいいなでガトリングぶっぱなし続ける方が、話し相手としても疲れないね。


(そう! そうだよね! 私の話し相手は君しかいないんだから、無視はすごい心に来るよ!?)


 それは知らん。


(ひどいってば! ほんとひどいってばよ!)


「うん、たぶんシロも気にいると思うよ!」


 若干だが語気が強い。起き抜けでテンションの調整にミスかな?

 ガッツリと推している感じがする。本当におすすめなのだろう。

 食べたいモノを聞いたのも、そこなら用意できるかも? という考えだったからかもしれない。


(そうね。その可能性が高いわね……)


 穴が数センチ程度の格子状の窓から差す光が温かい。

 心做しか少し気分が良くなっている気がする。

 リク君の感情につられているのかもしれない。


「楽しみにしてる」


(君ってプラスの感情を持てるんだ……)


 俺を何だと思ってるんだ。

 本来の俺は動物とほのぼの遊ぶものだ。

 人と関わる時に曇るだけの、基本明るい人格だぞ。


(いや、今リク君に対しプラスになったじゃん。懐疑の視線でしか見てなかったのに。それがびっくりなんよ……)


 テンションの上がり方が動物的だったからか。

 純粋に楽しいという感情に当てられたからだろう。

 思考の介在した、小賢しい感情が苦手なんだ。

 裏を考えてしまうから。


(会話すら君は動物的なのか)


 ……否定できない。人間よりもわんこと過ごしている時間の方が何十倍も長いからな。

 たぶん人間は一年未満。わんこは二十年近く。

 わんこしか勝たん。


(最初のゴーレムがゴールデンレトリバーになるわけね)


 なんで人の人格が入るかな? いや、マジで。

 わんこはわんこしてくれるだけでありがたかったのに。

 中身謀略家かな? そんな人格相手じゃモフれないんだよ。


(いや、君、モフったじゃん。君、モフったよね?)


 衝動に耐えかねました。モフが足らん。

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― 新着の感想 ―
>> 最初のゴーレムがゴールデンレトリバーになるわけね >>  なんで人の人格が入るかな? いや、マジで。 懐かしい〜けどいやな事件でしたね……。
[一言] 脳内にツッコミ役が居ると会話?が弾む。
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