330、外を見に行こう
リク君が起きた。何を話せばいいのだろう?
これから何をするかとか聞けばいいのだろうか?
でも答えてくれるのだろうか?
(聞きなさい。まずは聞きなさい。答えがなくても君ならそこから答えを導き出せるのだし、軽率に聞きなさい! というかリク君は君に甘いんだから答えてくれるでしょ!)
甘いのか。いや、何となく甘い気がしてたけど、なんかだからこそ怖いんだよな。
割かし好き勝手させてくれているのだ。甘いと見てもいいだろう。
俺なら余計な厄介事を起こす様なヤツは、監視の目を置きつつ、謹慎させるくらいの事をする。
(君はもう少し情理を介した方がいいよ)
暴れ回るコマは邪魔だろ。既存の計画をどれほど狂わせると思う。
最終的に利用出来るかどうか、そこに全ての話が帰結するだろ。
……いや、そうか。甘いというよりも、全ての行動が最終段階に至り、多少の暴れ駒がいても、大勢はもう変わらないところに来ているのかもしれない。
(なんでそう陰謀論みたいな思考を、さも合理的だみたいな感覚で電波に出来るの?)
それはまぁ俺が電波だからだろ。常識的な思考の持ち主がヒトデナシを名乗るわけないじゃないか。
(それはそう。それはそう! この厨二病患者が……)
そうだね。ヒトデナシ発言を口にしたら間違いなく厨二病扱いだろうね。
俺も人並み外れた力が……! みたいな事を言われたら笑わないで済ませる自信がないよ。
あくまでも俺は人間としての欠陥が大き過ぎるという意味合いで、ヒトデナシを使っているつもりだ。
(ウン、ソウナノネー)
自嘲でヒトデナシとは言うが、お前が内側に入ってくるまで、それを誰かに知られた事などない。
どの道これは戯言の類だ。バカみたいだと思いながら、おかしいと思いながら、ヒトデナシだと思う。
まぁ、色々な意味で面倒な話。普通だったらどうでもいい話。人と会話をしなくても現代社会ならある程度生活出来ちゃうし。
「シロどうしたの? お腹でも減った?」
ポヤポヤとした寝ぼけ眼でリク君はこちらに問いかける。
朝は弱いのだろうか? かもしれない。昨日は疲れただろうし起きづらいという事もあるか。
ご飯はこの体に必要なのか、ちょっとよく分からない。最悪必要がなさそうなんだよな。
(え、ご飯要らないの?)
最悪要らない。魔力さえあれば動ける体だからな。
アイドルは排泄しないみたいな妄言があるけど、この体はそうだろう。
この体で排泄をした事がないし、たぶんわざわざする必要はない。
(アイドルじゃん)
残念ながら中身は中年おっさんなんだわ。
色々とこじらせたまるでダメなおっさん。マダオが過ぎてね。
浪費癖がない事以外に褒める要素がないんだ。
(おっさんアイドルまだお)
マダオはアイドルになれない……。なれないんだよ……。
「別にそういうわけじゃないかな。ちょっと外の空気が吸いたいくらいだよ」
(表面上冷静ぶるの、内側見ている分笑えてくるよね)
白鳥は水面下でバタつくモノだ。
(君は白鳥じゃないじゃん)
この体の顔は良い方だろう。神様の顔だし。
表情差分けがどうなっているか気になるところだ。
たぶん酷薄な表情を浮かべがちな不気味な子になっている気がする。
(呪いの人形に近しいモノがあるかも?)
「そっか。じゃあ、展望デッキにでも行く?」
あるんか。そんなところ。観光列車かな?
いや、戦場か。外に出やすければ配備がスムーズになるだろう。
侵入経路も多いと言えるかもだが、避難経路がしっかりしていれば色々安心だろう。
(そういえばビックリする程治安方面の思考が強いよね)
気にする必要があったのはそちらばかりだったからかもな。
いや、身を守る以外の事を考えるのが不得意だからかも。
景色に感動するよりも、即物的な思考になりがちだし。
(本を読むのが趣味だったんでしょ? どうして叙情的な思考にはならないの?)
本は想像するのが楽しい。だがそこには演出がある。
マンガの様なエフェクトをかけられているみたいなモノだ。
作者の目を通して見えた世界がそこに広がっている。
「行きたいな」
俺の目を通した世界はどうにも荒んでしまう。
ここが危ない。あそこにはこういう危険があるかもしれない。そんなエフェクトをかけられている。
そのエフェクトがかけられているのに、それで能天気に蝶よ花よと笑えるのか。ムリだろ。
(君はもう少し楽観的になるべきなんだね。死にようがない体なんだからもう少し気楽にしたら?)
それが簡単に出来たら何も苦労してないわ。
(君って大変だね……)
本当に気楽に生きたいよ。砂を噛む様な生活は精神衛生上よろしくない。
感動とかしてみたい。本の中の人の様に楽しんで生きたいわ。
俺が俺である内は出来ないのだろうが。
(出来るよ。いつかは君だってユルく生きられるさ)
そうだといいのだがな。
「荷物はそんなにないけど、この室内に置いていこうかな。
手荷物が多くても仕方ないし、僕しか扉は開かないから盗られる心配はないよ」
リク君はいつの間にか着替えすら終わっていた。
いや、いつ着替えた。準備が早すぎて分からないくらいだと?
確かさっきまで軽く寝巻きだった気がするんだが。
(お腹減った? って言ってた時にはもう手元に色々準備してたよ。君が扉の方を見ている間に着替えもしてる音がしてたし、注意散漫なんだと思う!)
なんて事だ。
(ほんとなんて事だ)
取り憑いてるおバカに指摘された……。
(おバカってなんじゃ! おバカは君じゃん!)
間違いない。
(くそぅ……この人のメンタル強い……!)
いや、弱いわ。くだらない事で悩みまくるんだから、メンタルは弱いに決まっている。
「そっか。私は持ち物特にないし、行けるよ」
私物の類がないの、なんだかんだ異質だな。
子供が親に買ってもらった人形などを抱えるのは、これは自分のと所有権を認識して、身一つである不安感を誤魔化しているのかもしれない。
子供の衣服は親の物。汚したら怒られる自由に扱えないモノ。自分の一存でどうにか出来るモノじゃない。
(どこにそれを考える要素があったか分からないのだけど、思考の飛躍は何メートルを許容範囲にしてるの?)
一つ飛ばしくらい。二つ飛ばしたら意味が分からなくなる。だからまぁ……だいたい1メートルくらいじゃない?
(1メートルは越えてるよ! 八艘飛びしてるよ! 私はついてけないよ!)
君は別についてこなくてもいいんだが。
(塩!)
「そっか。じゃあ行く?」
というかさっき俺は一人称を私にしなかったか?
僕ならともかく、私だと? お前、まさかやったか?
前科はあるし、可能性が高いな。
(ちょっと! ちょっとちょっと! 私じゃないよ!)
無性に腹立たしい気持ちがわいている。
その原因が乗っ取りだとしたら分かりやすい。
言おうとして言えないと、モヤッとするからな。
(冤罪! 私、本当にしてないからね?!)
実際どうなのか。今の俺には分からない。
ログの確認が出来ないのが痛い。PCなら業者が確認出来るのにな。
体内に入った寄生虫とかでも、移動経路を痕跡から特定できるかもしれない。モノによってだろうがね。
(ひどい……。私ホントにしてないのに……)
そっか。
(疑いの眼差し!)
「行きたいな」
リク君は軽く笑うと壁に触れ扉を開けた。
扉を手で抑え、廊下へと誘導する。
エスコートが流れる様に進むから、観察しないと細かい仕様を認識し損ねる。
(見てる様でけっこう注意散漫だもんね)
ホントね。うっかり乗っ取りされるくらいだもの。
本当にしっかりとしなくちゃいけない。
自分をしっかりと管理せねば。
「今日は外、晴れてそうだね」






