329、外に出たかったなぁ
カギがかかっているのか、扉に手をかけても動かなかった。力をかけたら壊れる気がする。
カギはどこだろう? 扉の閉まる部分はゴムみたいなモノが付いており、隙間を確認できない。
隙間があれば金具の位置など見えて、だいたいのカギの位置が分かると思うのだが。
稼働する部分が多い程、擦れるなどの消耗が激しくなるので、部品の寿命が短い。
だが細かい部品なら直すコストが低い。大きい物が壊れると直すのが大変だ。
普通の扉は持ち手の近くにあるはずだが鍵穴などは見えない。上下でロックをかける仕組みだろうか?
(なんでそんなに外に出たいの?)
そういう生き物だから。
(ごめんなさい。お母さん、そういうの分からなくて。とりあえず病院に行ってみる?)
お母さん。病院じゃなくて老人ホームに行くんでしょ?
それにはまず外に出なくちゃ。
今日はお遊戯会があるんだっけ? 子供と遊べる日だから待ち遠しかったんだね?
(そうじゃのぅ……ってやかましいわ! ワイは前世含めても二十代じゃ! お主よりも若い!)
そう。良かったね。
(く。サディスティックに、バイオレンスに、私を弄んだ挙句ゴミ屑の様に棄てるのね! このスケコマシ!)
そうだねぇ。
(ねぇぇぇ! かまってよー!!! ごめんだよぉ!)
なんかやだ。
扉本体にはないが壁にくすみが見られる。
何かをそこに押し付けたかの様な。
壁全体が読み取りセンサーなのだろうか?
人間しか見た事ないけれど、小人な種族がいてもおかしくない。いや、むしろいてほしい。
小人じゃなくても子供の場合でも、高い位置に読み取り機があるのは不便か。
たぶん一番多く使われるのが成人男性の肩くらいの高さだろう。今まで見た人の比率を考えると。
操作権を持っているのは誰か。リク君だ。
物理鍵じゃない以上、壊さずには出られない。
回して閉める鍵だったならなぁ……。
(平穏! 平穏だわ! 平穏よ!)
あ、ついに狂ったか。
(もうね。怖いの。夜に何となく記憶を見てたけど、なんで前向きに生きられるか分からないくらい、トラブルばかりだもの。普通はもっと内側に引きこもると思うわ)
引きこもって何になる。そこは安全な家か?
内側に引きこもってやり過ごしていいのは、その嵐がそこを壊さず、いつかは過ぎ去る物だけだ。
台風とか都会の家なら内側に篭れば基本安全だろう。そのレベルであれば引きこもって様子見する。
だが土台すら壊しかねない物は待っている意味がない。
(でもその前向きさはコミュ力には使われないよね)
うっせー。
(人って話さないと分からないんだよ?)
黙れ。
(君はそれしか言えないの? そうだよね。自分しか見えてないから)
そうだよ。ばーか。
(ここから出たいのもリク君と話しているのがツラいからじゃない?
外に出たいのは自分の思考に浸れるからでしょ?
自分だけで完結出来る世界ってすごく楽だよね。
でも世界は君以外の人がたくさんいるから、君だけがしたい様に動いても、他の人には君が何をしたいかは分からないし、結果的に君のしたい事は潰れてしまうんだよね。
まぁ、それは君自身考えて分かっているから会話をしなければいけないって思ってたんでしょ?
人間にならないといけないヒトデナシさん?)
うるさい。
そもそもリク君は寝ているだろう。
話すも何もないじゃないか。
(そうだね。ならお布団入って寝て待てばいいじゃん。
雑談の時に話す内容を考えてみたり、どうすれば楽しく過ごせるのか、事前にシミュレーションするのも大事でしょ?)
そう言われてもな。
(自分の立ち位置を最初に決めておく。今まであった事を整理する。結論を前に、聞かれたら詳しい話をみたいな感じで、話す順番を前もって決めておく。
これ、君自身が会話のコツって感じで考えてなかった? 実践できてないじゃん。今やろうよ?)
それらはわざわざ話すまでの内容か?
(はい、シンキングタイム。君さ、洞窟の時にやってたよね。
相手の言葉の端から相手の文化圏を推測する事。それと同じだよ。
何気ない雑談であっても、そこから相手がどういう道理で動いているのかは判断できる。
それ。こっちが一方的にやっている事じゃないんだよ? どんな人でもやっているの。
話さない相手っていうのは情報がないから怖いの。
行動だけ見たら傍若無人でも、本人はどうすればわからないまま行動していたなんて感じ。
小学生男児が好きな子にちょっかいをかけて嫌われるのも、コミュ力不足の象徴でしょ?)
あぁ、なんというか、分かるけど、分かるのだけど、自分の言葉を借用されて叱られている感!
(まぁ、君の思考を読み取って分かりやすい文言にしているからねぇ)
道理は分かるけど、道理でしかないんだよな。ほぼ机上の空論。
(君は失敗するのも怖がるよね。でもさ、嫌われる様なちょっかいを出してた側はだんだんとだけど、ちゃんとした会話ができる様になっていくよね。
ちょっかいもかけず、会話をせずにいた君は、行動の仕方も分からずに、黙っているだけじゃない?)
俺の事をサディスティックとか言っているけど、お前も十分サディスティックだろ。
正論でねちねち責める、朗らかを装う陰険生徒会長かな? 畜生め。
そうだよ。人の輪に加わる方法も分からず、適当に生きた結果さ。俺が悪うござんした。
(開き直って終了ね。逃げてどうにかなるのはいいよね。あ、ごめん。どうにかなってないか。囚われちゃってるし。ねぇ、おじさん)
こんにゃろう……。
(暴力は楽だよね。減らず口を叩く私みたいなのを黙らせるには便利だもん。
でもそれをしてもおじさんの人生は何も変わらないんだよ。逃げオジ)
俺だって一応は考えてはいるさ。
(出来もしない夢の話? いつかいつかと言いながら、進める道標も作れない道未満のそれ?)
普通の人生だったらある程度は予測はつけられたんだよ!
地下水路下ったら巨怪魚に飲まれて腹から出るルートがどうやったら予測つけられるっていうんだ!
こうやってお前と会話をする世界線も予測がつけられたというのか? あぁん?!
(ごめんなさい)
そもそも情報が足りないんだよ。手近なモノだけでどうやって憶測を確定させろというんだ。
正直な話、この特急が本当に王都に向かっているのかさえ、定かだとは思えないくらいだ。
俺は自分が地図上のどこにいるのかさえ、頭に浮かべきれていないんだぞ。
これからの日程もどうなるかも分からない。
リク君の中には予定が組みたっていそうだが、それを聞いても答えてくれる気がしない。
いや、正面から聞けば答えてくれるのだろうか? だがその通りに現状進むと思えない。
王都のどの辺りに到着するのかなど、もし分かればそこから何か見当がつくかもしれない。
分からなくても外の風景を見れば色々分かる事があるだろう。
何も分からなくても気分は良くなる。朝の日差しは日時の感覚をリセットしてくれるんだったかな。
(なんでそんなさっきまで考えてもいなかった事がスラスラともっともらしく言えるのか、私分からないよ……)
俺が考えている事がこの表面的な文字感だけだと思うなよ。
(深層意識含めて考えてなかったでしょ。少なくとも私には人間への忌避感の方が強かった様に見えたよ)
知らん。じゃあ、もっと奥深くなんだろ。
(適当こきすぎなんだけど、ほんとマジで何なの……)
そういう生き物なんだろ。ほらヒトデナシだし。
(ヒトデナシを免罪符にし過ぎでしょ……)
だってヒトデナシだもん。
「うーん。……おはよ。シロは早いねぇ」
リク君が起きてしまった。まぁ、出られなかったから好都合ではあるのだけど。
扉を壊してでも出ればよかったかと言われたらそうではないし。
そもそも夜間の防犯を考えたら扉が閉まっていて当然だったわ。






