32、親子
「リク!」
「はい、父さん」
見られていることに気づいたのか父さんが声を出しながら俺の方へと近寄ってきた。
電車やバスよりも大きくグラグラ揺れる車内をまるで平地を歩くかのように何にもつかまらずにスタスタと父さんは歩いていた。
やっぱり現役戦士だからだろうか? このくらいの揺れで体がぐらついていたら戦闘では役に立たないのだろう。
「リク、お前、この中で立てるようになったのか~!」
「はい!」
返事をすると父さんは口角をあげて大きく笑いその手で乱暴に俺の頭を撫でつけた。
その手つきは撫で方に反して優しく愛情がこもったものだった。
「そうかそうか! お前は強くなるんだろうな! 父さんみたいになるか?」
「父さんじゃちょっと魔法の使い方が雑だもの。私みたいになるよね?」
興味津々の色を浮かべた両親の顔を俺は見上げた。
筋肉は欲しい。前世では足りなくて非常に困った。筋肉は本当に欲しい。
だけれど現状、魔法の行使に制限をかけなければいけない魔力量だ。
それを考えたら母さん側に票が入る。
ルールに束縛され自由に活動できないのは非常に煩わしい。
それに子供のうちに筋トレをしても骨格がついてこないから後々ひどいことになる。
小さいうちは骨格をしっかり作れるように跳ねたり走ったりといった適度な負担をかけ食べないとだめだ。
俺は前世では大人しかったからそういった負荷をかけておらず親子喧嘩で食べるもの食べていないことが多かったから骨が柔くて筋肉をつけようにもつけにくかった。
小さい頃は本当に体にとって大事な時期だ。
この時期が後の人生を左右するといっても過言ではない。なので。
「母さんみたいになりたいです!」
日常的に魔法を使えること。様々な小回りが利くこと。
そんな状態になりたい。
実験を行うにしても国から監視をされるようでは思ったように行動できなくなることは確実だ。
だから母さんみたくなっていつでもどこでも魔法を使えるようになりたい。
「そうかー。父さんみたくはなりたくないんだー」
父さんがめそめそとするような演技をしている。
演技なのはわかるけどこれをスルーしたり肯定するとたいていの人は本気で沈むな。
「父さんみたいにかっこよくなりたいよ? だけど母さんみたいに魔法が使いたいな」
「そうかそうか、父さんはかっこいいか!」
「母さんの魔法、リク君は好き?」
「うん!」
両親は微笑んでいた。
魔力を鑑定する前の頃と同じような笑い方だ。
とても幸せそうでとても温かい笑い方だ。






