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324、特急に乗ろう

 思えば敵の話を聞く意味はあっただろうか?

 こちらが望んでいる内容を向こうは知る事が出来るのだ。

 望んでいる回答を得られたところで、それが正しい可能性はほとんどない。


(いや、そんな性格の悪い事しないよ!)


 そう。こうやって否定する事を内心、俺は望んでいただろう。

 自分が正しい存在としてありたい。それを認められたい。間違っている癖に。

 そういう腐った心根が思考を歪めて道を誤らせる。


(あぁ、もう! ややこしいよ!)


 自分自身イヤだけど、それがどうしようもなく自分自身なのだろう。


「ねぇ、その中の子。僕がどうにかできないかな?」


 目がヤバい。微笑んでいるのに澱んでいる。エグい。


(あ、あれ? もしかして私って敵視されてる?)


 そうだよ。そうでないわけがないじゃないか。


(いや、ね? 私ってそんな悪い子じゃないよ? ねぇ、そうでしょ?)


 知らない。興味ない。


(酷い!)


「どうやるの?」


(ぎゃう!)


 鳴き声をあげたところでお前には獣になる事が出来ない。


(この獣第一主義! ペット以外とまともに関われなかったヤツ!)


 だから何?


(ごめんなさい)


「まだ思いついてないかな? でも出来たら僕の手でやりたいんだ」


 暗黒微笑。ネタで使われるこの言葉がこれ以上となく似合う微笑みだ。

 何が切っ掛けでそういう風にしたくなったのだろう? わからない。

 とりあえず何を考えているのか分からなくて怖い。


(ねぇ、ほんとに君はリク君に何したの?)


 知らないよ! 俺が知りたいよ! なんで執着すごいの?!


(君の事を内側から見ている限り、好かれる要素はそんなにないと思う……痛い!!!)


 あぁ、うん。そうだな。自己中で偽善家。その上、自分に対して嘘をつきまくる。

 真っ直ぐな信念もない。やり遂げる気力もない。スペックだけは多少の自信があるが、言い換えれば自信家の成果なし。面白い話ができるわけでもないし、そもそも外に向けてはイキった事しか言えない。

 ハッキリ言ってダメの極みだ。だからこそ俺は自分が嫌いだ。こんな自分が何かを成し遂げられるわけがないと頭のどこかで思ってすらいるくらいだ。


(あのー……そこまで言う気はないんですがー……)


「そうなんだ」


 言葉を飾る必要はない。自分がダメな事は理解している。

 腐りきった根は正しく水や栄養を吸い上げる事ができないものだ。

 もしマメ科の様に根粒菌とか利用し、他者に頼る事で自分にあった水や栄養を摂取する事が出来たら違うだろう。だが俺はただ腐り続けるだけだ。


(少なくとも知識はあるんじゃない?)


 こんなのは知識とすら言えない。表面をなぞるだけで実用性の欠片もないのだから。

 マメはどういう風に植えたら立派に育つのか? そういう事がわからない。

 図鑑上の情報をなぞっているに過ぎない。実地に伴う知識ではないのだ。


(いや、でも普通の人はそこまで知らないと思うよ?)


 知っているだろう。けっこうな人が知っていると思う。

 専門書レベルの事は何一つ言っていないし、これは一般教養だわ。

 ほんとただの雑学。たまに何かに役に立つかも程度のモノでしかない。


「うん。ほんとにね。……良かった。特急は残ってたよ」


 顔を進行方向に傾けると行きに見たデカいのが見えた。

 どう考えてもあれは大きいと思う。家でも走らせるつもりか。

 車輪の数を増やす事で耐荷重を上げていると思えばいいのか。


(確かにあれはデカいよねぇ。日本の電車の細長さを考えると信じられないよね)


 線路を敷く土地に制限がないのが大きいだろう。

 あれなら横風を受けても横転をするとは思えない。

 重量物を運んだり、屋根を足場にモンスターと戦う事も出来るだろう。


(そういう思考は褒められるものじゃない?)


 こんな誰にでも出来る憶測は特技とは言えない。

 実際にそういう行動を取った場合、屋根が抜けるとかも考えられる。

 こういう憶測ばかりしていると、説明書にない使い方で製作者が考えていない使い方をして、事故を起こす未来が出てくるのだ。


「じゃあ、王都にこれから向かえるって感じ?」


 ケトルとかで思い出すわ。俺自身じゃないけど、感覚で使えるだろと説明書見ずに使ったヤツ。

 許容量を超える水を入れて蓋の端からお湯が出てヤバかったっけ? 俺がしたわけじゃないけど。

 でももしかしたら俺がそれをしていた可能性だってあった。


(あーうん。ね? 人の振り見て我が振り直せ が実行出来ているという事でいいんじゃない?)


 説明書とか読まずに行動する事。仕様も分かっていないのに憶測で行動する事。

 それらはかもしれないを考えて行動すればなんとかなるだろうか?

 いや、でも憶測で行動する事が多いのだから、愚か者であることは間違いない。


(うん! 面倒!)


「そうだね。寝て起きたら王都だよ」


 王都。王都に行って何が出来るだろうか? たぶんきっと何も出来ないのだろう。

 俺はやろうと言うばかりで、すぐ状況に流され、何もなせないまま過ごしている。

 ちゃんと目標を持て。やることを決めろ。何をする?


(君は思い詰めすぎなんだよ。もっと気楽に行こ?)


 甘い言葉にのっていたらまた状況に流されるだけなのだ。

 もっと前に。生きるためには何をするかを考える事が必要。

 なぁなぁでは何もなせない。何にもなれない。


(何者かになる必要ってあるの?)


 あるだろ。自分の立ち位置を固められるのだから。

 立ち位置が固まれば自分の譲れないラインが出来る。

 根無し草はどこにでも行けるが、守りたいモノを守れない。


(守りたいモノもない癖に何を言っているの?)


「王都で何か僕にして欲しい事とかあるの?」


 僕って誰だ。


(お前だよ! 猫かぶり!)


 いや、俺の意識ではない気がして。


(観測している私が告げる! 君の自意識だ! ややこしいわ! このヤマタノオロチ!)


 蛇ではない。多頭の蛇でもない。


「特にはないよ。僕がシロと一緒に居たかっただけ」


 柔らかく微笑む。子供っぽく笑う。裏表のない顔をしている。


(すごい好感度が高いよね……)


 俺もビックリしてる。怖いくらいだよ。いや、普通に怖いか。

 幼少期の依存が原因だとしても、それは1年くらいでしかないはず。

 それが10年近く離れたというのに、解呪されていないというのが怖い。


(解呪って呪い扱いじゃん)


 呪いでしょ? そんな縛りを与えているのだから。

 そういうモノは必要ない。人間は自由であるべきなのだ。

 思想などに囚われ、益体もない事に始終頭を悩まされるなど、ただの損益でしかない。


(思想が強いわ)


「そうなんだ。ありがと」


(勘違い増幅させようとしてる?)


 してないわ。無難な事しか言えないだけだわ。


(そういうところだよ! 半端に優しいのが狂わせているんじゃないの?)


 冷たくしたらそれだけ暴走しそうなんじゃ! 既に暴走の気配がしているんじゃ!

 真綿で首を絞められる様に、ゆっくりと息を出来なくされそうな怖さがあるんじゃ!

 怒らせたり、ヤンデレ状態になったら、いやもう既にヤンデレ臭がしてるけど、色々恐ろしいんじゃ!


(あぁ、うん。本当に怖いんだね。生の感情に晒された経験が少ないから余計に)


 あぁ、そうだよ! 俺の人付き合いの少なさをなめるな!

 まともに人間と話したのはほとんど社会人になってからだぞ!

 いや、それもまともに話した記憶がないな!


(何も誇れないよ!)


 分かってるわ!


「王都では好きに過ごしていいよ」


 いや、本当に何を考えているのだろう。

 笑みが深くてすごい怖いんだが。

 あとサラっと抱っこしたまま特急に乗りおった。


(すごいね。けっこうな時間をお姫様抱っこして運んだよ……。腕とかしびれないのかな?)


 ほんとそれ。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] きっと分かれた後色々鍛えたんだろうなぁ
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