323、外に出たよ
「地下に潜まれると移動がすごく面倒だね」
お空が真っ暗である。そして終ぞ歩かせてもらえなかった。
(降ろしても言わなかったじゃん)
言っていいか分からないし、タイミングなかったからな。
(はい。言い訳入りましたー! 注文したお客様~? お客様~?)
お前だ。
(私? 注文してないですよ?)
結果的に注文しているわ。食いやがれ。
(ちょ!? パワハラ!! パワハラ!!)
「星が綺麗」
(こいつはなんで私にアイアンクローかましながらロマンチック決めてんだ?)
適当な返事が思いつかなかったんだ。
ちっ……口を塞ぐイメージには足りなかったか。
もう少し全体的に圧をかけるイメージは何があったか。
(もしかして今までもそんな事をしていたのでは? あと痛いの止めて)
まさか。そもそもろくに会話もしていないのに。
存在に気づいてすぐに離れたし、こちらとしても思い入れ少ない様にしたつもりではある。
あと君が黙ればたぶん痛みもなくなるよ。ねぇ、消滅してくれない?
(……そうなんだー)
すごい棒だな、おい。
「ほんと。もうこんな時間だし、特急が残っていたらいいんだけど」
特急。真面目に忘れてたわ。もう事故から復旧して走ってそう。
(なんかこう抜けているよね。真面目そうなのに)
だから自分が信じられないのはある。
1つに目を向けすぎて他がおろそかになるし。
人間というには色々欠けているのが本当に顕著。
(正しさにこだわり過ぎ?)
表層的にはそうだろうが、実際のところはそこまでこだわっていないと思う。
生きやすくが至上命題だな。そこには正直なところ正しさは要らない。
外から見て引かれる行動をしていないかが問題だな。
(しまくっているじゃん)
本当に。まじ意味がわからないわ。
なんでだよ。どうしてしたくない行動ばかりする事になるんだ?
思考回路の不具合なのでは?
「とりあえず行ってみたらわかるかも」
(とりあえず歩いたら? 自分の足で)
いや、どうやって切り出せば? たぶん俺が誘拐された時のそれの反動も大きいぞ。
ムリを言えば下ろしてもらえるかもしれないが、隔意を持っているかもと思われる可能性がある。
嫌悪感を持っているかもとか考え出されたら、どういう風に暴走するかわからないじゃないか。
(はいはい、言い訳大王はうるさいですね)
大王っておい。
(あ、二等兵とかが良かったですか? よ! 言い訳二等兵!)
道化。そろそろ首が要らない頃合いか?
(おやおや王様。道化の首を切ると?)
切るよ。
「そうだね。行こうか」
ちゃんと切らないといけないよね。
何で切るのがいいかな? 刀? 剣?
いやでも切れ味の悪い石斧で肉を叩き潰しながらいくのも
(良くないよ! 何? 拷問趣味でもあるの! 怖いよ!)
動物の躾は始めが肝心だからね。
ちゃんと上下関係を教えないと舐められるから。
それに負けを認めてくれたら吸収が早いと思うし。
(あ、ただの怖い人だ)
はい。怖いモノです。存分に後悔してください。
根本的に人になれない化け物に入ってしまったのが君の敗因。
理解できないでしょう? それが俺だから。
(いや、人だろ)
「僕の来た道とは違うけど、ここって駅までどれくらいかかるの?」
(逃げたな。脱走兵め)
逃げてないわ。憲兵気取りの農民が。
(気になりもしないものをわざわざ聞いているんでしょ? それは逃げだよ。自称ヒトデナシ君。君はどうしたところで人だ。ややこしい性格も含めてとても人間らしい人間だよ)
本当に人間らしい人間だったら苦労はしないんだけどな。
(そういう風に悩むところがそもそも人間でしょ? 何なら普通の人よりも悩んでいるのでは? そこまで考えるのは人間でしかないよ)
「すぐ近くだよ」
別に人間でなくても考えていいだろう?
俺は別に何か区分できる様な他の生き物だと自分を定義していない。
上も下もなく、ただ人間とは違う文化圏の生き物に近いと思っている。
(別大陸の人間? 宇宙人? まぁ、でも結局は人だよ。会話もできるんだし)
価値観が大きく違うのが問題だろ。サムライアリとクロヤマアリに近いわ。
同じ巣穴で同じ働きアリだとしても、サムライアリは占領軍、クロヤマアリは奴隷。
これらの価値観が同じだと思うか? 俺も同じ様なモノだろう。
(同じアリの形をしていても、その行動理念が違えば同種じゃないと。まぁ、でも君はそんなに思想が人間から乖離しているとは思えない。というかアリの話を急に出してくるな!)
だってアリが一番わかりやすそうなんだもん。
ちなみにサムライアリとクロヤマアリはだいたいサイズも同じくらいだよ。
詳しくない人が見たら同種に見えるんじゃないかな?
(そんなん知らんわ!)
「今日って特急で眠る予定なんだったっけ? 特急がなかったらどうするの?」
眠る場所は大事。
(ほんとはそんな事思ってない癖に)
うるさい。
(嘘つくよね。たくさん。つまんない事で)
嘘までは言ってない。
(じゃあ、誤魔化し? 論点ずらし? とりあえず本当の事は言ってないよね)
うるさい。
「まぁ、大丈夫だと思うよ。行ってないと思う。万が一行ってたら施設の休憩所を貸してもらうさ」
自虐的に思う分にはそこまでなのだろう。
それを他人に言われるとすごいイラッとする。
直したいとは思うが、実際問題本音を言っていいタイミングがない。
(はい。言い訳二等兵。環境が悪いと言えばいいの?)
うざい。後先を考えない行動が出来るか。
(後先と言えば全部許されるの? 楽でいいね)
安穏とした環境。失敗をしても死なない環境。
それらがあるなら多少後先を考えなくてもいいだろうな。
ちょっとしたミスで監獄行きの可能性がある世界で、未来を見ない行動ができるものか。
(ミスたくさんしている癖に何言ってんの? 一度もミスした事がない人が言うのなら分かるよ? その言葉)
うるさいな。ほんと黙ってくれないか?
「来客用の泊まる場所とかってないの?」
(それってホテル催促してるの?)
柔らかいベッドで寝られるならその方がいいじゃないか。
それに高級士官みたいな人が来るなら、その人が泊まる様な場所があってもおかしくないだろ。
あの駅のカフェとかを考えるといい感じの質が期待できそうだしな。
(一つ屋根の下)
性欲で頭とろけているのか?
(でも実際さ、そういう知識たくさん持っているよね。君は)
一般人に擬態するために必要だと思ったからな。
興味がなくても、興味があるフリをした方が生きやすい。
面倒な絡みも減るし、知り合いを増やしやすい。
(知り合い増やせた?)
……。
(上っ面の言葉ってわかりやすいよね。本気度が足りない様に見えたかな? と思ってよりディープなモノを調べる様にしたんだね。耳年増になっただけだね。お疲れ様)
「あるかな? ここに泊まる人は研究室で雑魚寝してしまう研究者か短期の駐留しかしない軍人くらいだし。監査は基本日帰りだから偉い人は3時間いたら長い方だもの」
(はい、ご愁傷様)
どうやって殺そうか。吐き出してゲロスライムにして、小分けにした後、天日干しかな。
粉末にしたらナメクジが食べたりするだろうか? 廃棄物の処理ならゴキブリでもいいか。
下水に流して後で合流し復活する可能性を考慮したら細切れになる様にするのは大事だろう。
(ごめんなさい。本当に申し訳ありません。処刑方法を考えるのをお止めいただけないでしょうか? 流石に程度が過ぎておりました。調子に乗って申し訳ありません。もうしないのでお許しくださいませ……!)
やだ。許さない。君は俺の敵だ。許す事はない。
訳知り顔でアドバイスをする様なヤツは自分の言葉で相手を支配したいヤツが多い。
普通の人はわざわざ干渉する程の興味をどうでもいい人にもたない。
(いやね? 同じ体の中にいるのだし、いい方向になって欲しいと思うじゃない?)
建前としてはそうだろうが、過干渉は敵だ。
君のためだと口にしたが最後、自分よりも相手が下だと位置づけが始まる。
表面的に正しい事を口にし続け、言う事を聞けば正しいだろうと相手の思考を奪う方法もある。
相手を自分の所有物の様に貶める事は意外と簡単なのだ。だからこそ君は敵だ。
(あぁ、もうこの子ややこしいよ!)
「そうなんだね」






