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319、お迎え

 僕の。僕のって何だろう? わからない。


 でもリク君はいったいどこにいた?

 どこから現れた? どうして俺はそれを認識できなかった?

 思考が深く潜りすぎた? だとしてもこんな近くに来るまで分からなかった?


 わからない。


「おや、リク殿。お早いお着きで」


 何か思考を誘導する様な類の仕組みがあったんじゃないだろうか?

 儀式的な場所はそれを行うがためのカモフラージュだったりするのだろうか?

 込める魔法によって威圧とか誘導とか不安の誘発とかの変化があったりするかもしれない。


 分からない。


 光の色調で気分が変わるのは割かしある事だ。

 それに似たモノが魔力であってもおかしくはないだろう。

 ゴーレムであるこの身は魔力を積極的に吸収してしまう。

 常人よりもそういった誘導に弱い可能性が高い。


 分からないけど。


「こんなところにいると思ってなくて、けっこう時間がかかっちゃったよ」


 知っている仲なのだろうか? わからない。

 でも冗談を言うくらいだ。軽口を叩けるくらいの間柄なのだろう。

 敵対だろうか? 味方なのだろうか? 敵寄りの関係性の気がする。


 知らないけど。


 分からない。知らない。その言葉で思考を停止させる。

 考えても正解が出ない事はムリに考えない方がいい。ただ空転しているだけだから。

 そう考えて全てを捨てている。必要以上に興味をもたない様に隅っこに投げている。


 そういうのが自然と無関心につながるのだろう。

 人に聞いて答えが出ないと思う。見ていたら答えが流れてくる。そう思っている。

 そんなだから自己完結を続けている。そんなだから人間になれない。


「もっと遅くてもよろしかったのですよ?」


 馴れ合いみたいな会話。適度な敬意と警戒心だろうか?

 俺の時はただひたすら俺が唸ってばかりの猛獣対応みたいだった。

 これは達人の立会みたいな感じかもしれない。


 お互いに立場がわかっている上での会話だからだろうか?

 正体不明の化け物を相手にまともな話ができるわけがないとも言えるのか。

 立場を明確にできない以上、舞台に立つことができないのだろう。


 予期せぬ天災だろうか? たまたま迷い込んできた化け物だろうか?

 化け物だと思いたいただの欠陥物か。自分に力があると思いたいだけの愚物。

 なまじ強い体がある分、似たような真似事ができるだけで本物にはなれない。


「それで僕のシロの事、何かわかった?」


 煽る。微笑みながら。その笑みは何を示すのだろう。

 意味はないかもしれない。いや、そんなわけはないか。

 ここまで仕組まれたモノだ。全て手のひらの上かもしれない。


 誰がどうやって舞台を描いたのか分からないけど。

 そもそも誰かの手のひらにいるのだろうか?

 思考が空転する。壊れている。何か誘導するモノがあるのかもしれない。


 バカはバカらしく、考えるのを止めたらいいのだろうか?

 ただの意固地な愚物だ。人が乗っている道からわざわざ外れているのだ。

 それで一体何を得られた? ただ脱落し泣き喚いているだけじゃないか。


「さてね」


 通じ合う様なやり取り。仲がいいな。羨ましい。いや、シリアスなシーンなんだわ。

 まぁ、そういうやり取りが出来る間柄をもった事がないから羨ましいと思ってしまうけれど。

 どう足掻いても自分が惨めなのは間違いないな。実際惨めだし。


 自分を卑下するのを止められない。そこまで悲惨な過去があるわけでもないだろうに。

 せいぜい自分がコミュ障で変人だから人と関わるのが上手くいかないくらいだ。

 細かな積み重ねと自身に向けた嫌気が捻じ曲げているまである。


 こうも壊れた頭でいったい何ができるのだろうか?

 物語的に脇役というか、ペット枠くらいの場所にはいられるだろうか?

 でもこんなペットいたら邪魔だな。やはり森かダンジョンの奥に追放が妥当では?


「そう。まぁ、いいや。シロ帰ろうか」


 帰っていいのか。まぁ、帰るのが無難だな。

 そもそも人質を連れ帰るのは状況説明が大変だからだし。

 リク君がこの人達の正体を知っているのならそれでいいか。


 この組織に関してはリク君に聞いて何かちゃんと答えてくれるだろうか?

 聞いたら答えてくれる気もするけれど、なんだかんだ濁されるかもしれない。

 嘘みたいな事を言われるかもしれないし、何を信じていいのやらとはなるか。


 そもそもこの組織の正体を俺が知る必要があるのか? というところはある。

 状況の把握は大事だが、だからといって木っ端な組織をいくら知ったところでという話だ。

 覚えておく価値があるかどうかも分からない。スーパーの何支店は……みたいなのを覚えてられるか。


「そうか。ではシロ殿、また」


 なんか微笑まれた。いつの間にか肩をつかんでいたリク君の手に力が入った。

 でもリク君の顔は微笑み浮かべたままなのである。闇が深い。

 あ、足を持ち上げられた。体勢的にこれはお姫様抱っこなのでは?


 何か言うべきなのだろうか? しかしわからない。

 たぶんこれは独占欲なのだろうか? 俺みたいなのを独占する意味ないよな。

 だがしかし俺にとって要らないモノでも、別の誰かにとっては喉から手が出る程欲しいモノは多々あるだろう。


 そもそも俺が連れ去られるのを拒否していたらとかもありそうだ。

 相手の体のどこかを折ってでもその場に残っていればリク君の手間は減っただろう。

 口で拒否を明言してすらいないのだ。そういうところもダメだ。


「またはないよ」


 リク君は静かにそう吐き捨てる。冷たい瞳が見えた気がする。

 ぎゅっと抱え込まれ、押し付けられた胸から聞こえる鼓動は冷たさを感じるくらいに落ち着いていた。

 ちょっと怒っているかもしれない。分からないけれど。


 怒りの矛先は誰なのだろう? 俺に対してだろうか?

 でも違う気がする。そういう感覚はない。

 あの組織に対して怒っているかもしれない。でも何か違う気もする。


 これを企画した相手がいるのかもしれない。

 誰が手を回しているのか分からないけれど、怒りづらい相手なのだろう。

 立場が上とかだろうか? 従わなければいけない相手みたいな感じか?

 首輪をつけられているかもしれない。どんな首輪か分からないけれど。


「いや、また会いますよ。必ずね」


 リク君の肩越しに見てみるとあのおじさんが手を振っていた。


 えぇ……。


 どういう感情でコレは見ればいいのだろう?

 なんか連れてこられて怪しい会話して回収された。

 これの意味合いがわからなくて辛い。


 やはり何か試されていたのでは? 何をどう試されていたかが分からない。

 神様みたいな存在が思考を読んでいたくらいだ。そういう仕組がここにあったのでは?

 会話をしながら思考を見て、危険度を判断するとか、そんな事が出来てもおかしくない。


 だとしてももう少し何か意味ある会話をして欲しかったんだが。

 不安にする魔力を押し付けていた可能性もある。思考がそのまま声になっていた気もする。

 お嬢が言っていた事を考えるに、思考をそのまま話させる作用があってもおかしくないのでは?


「もう会わせないから。必ずね」


 リク君はやはり何か抱え込んでいるよね?

 どう考えても俺に向ける感情が大きすぎる。

 意味がわからないくらいに大きい。


 これはどういう感情なのだろう?

 そもそもリク君は俺をどういう存在だと思っているのだろう?

 何も分からない。行動に込められた感情の大きさが伝わってくるのに。


 もしかして俺が眠っていた数年に何かあったのだろうか?

 その可能性は無きにしもあらずかもしれない。

 だとして俺はどうしたらいいのだろう? 出来たら独り立ちしたいんだが。


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― 新着の感想 ―
[一言] 独り立ちなんてしようものならリク君がヤンデレになりそう
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