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318、苛む

 やはり時間稼ぎだろうか? 何の時間稼ぎだろうか?

 リク君を引き止めるための時間稼ぎ? それ以上は何も情報がない。

 そもそも時間稼ぎするだけなら、あの小部屋で十分だっただろう。


 ここまで連れてきて、御大層な方々を目の前に陳列させる。

 これらの意味はいったい何だろうか? 分からない。

 すごい壊したい。破壊衝動が強すぎる。バカみたいに。


「組織名はない。あると名前を笠に着るものが出るからな」


 ……そこは正直に答えるんかい。いや、正直かはわからないか。

 もっともらしい理由をパッと言うのは地味に簡単だ。少なくとも俺は出来る。

 いや、声に出せるのか? 俺の人格のままだとムリか。


 考えるだけなら俺の言い訳能力は天下一品だろう。ラーメンではない。早くも美味くもない。

 自分を納得させるためだけのそれだ。何なら自分で信じて言葉に出すかも?

 詐欺師かな? その場ではそれが目的になる短慮なバカか。やっぱりバカだな。


 本当は何か名称があるとして、それを言わないという形で明確に誤魔化した?

 下手な名称を使って勘繰られるのを避けるためか?

 ミスリードとして名前を使う手はあっただろう。それも避けた? 何故?


「何も情報を出さないけど、それで何か信用とかしてもらうつもりはあるの? 信用とかも関係なく、ただこちらを観察するがために、わざわざここに呼びつけたわけ?」


 おらつきがヤバい。まぁ、イライラしているのだろう。

 お嬢は俺に近しい仮面なのかもしれない。いや、そもそも近しくない仮面はないのか。

 腕組んで指で上腕を叩く。貧乏ゆすりみたいだな、これ。まぁ、近いか。


 予測としてはテストか何かみたいな感じに、試しの問をされると思った。

 だがそういう事をしてくる気配がない。こちらがガウガウし過ぎているからか?

 たかだか威嚇されたくらいで、怖気づくなよ。悪の組織が。


 いや、怖気づいたわけじゃないか。ただ様子見が入ったのだろう。

 適当な問を用意しづらいのだろうか? 余計な情報を与えない問は難しいか。

 だがだからといって立場が定まっているのであれば、相手の立ち位置を敵味方で区別したりとか、そういうのに類する質問はいくらでもできるだろう。


「そういうわけじゃないが困ってな」


 いや、そうか。適当な問は相手が何を望んでいるかの情報にしかならないから出せないのか。

 多数の質問ができる状況なら本命を混ぜるのは容易いかもしれない。

 だがそれこそテストみたいな感じで「はい、書いて」みたいにしないと難しいのでは?


 口頭でたくさんの質問をするのは難しいだろう。

 だとしても呼び出すのだから、多少は文言を決めているものじゃないんだろうか?

 それが使えなくなったのか? デフォルトの文言も使えなくなったか?


 妙な脅しを口にし過ぎたか? 警戒されていい感じの言葉がなくなったか?

 どこまで話しても問題ないか協議が裏で行われていたりするのだろうか?

 だとしても人を呼んでおいてする事ではないだろう。やっぱりイライラする。


「ねぇ、帰っていい? それと状況がわかる様に誰か1人貸してくれない? おじさんでもいいんだけど」


 人外メンタルが強くなっている。イライラが人外化を促進させている。

 本当に人間を捨ててしまいたい。それが破滅の階段を昇る事につながるのだけど。

 無理に人間をしようとするよりも、それが正しい道かもしれない。


 だが本当に社会に適合している人間は少ないなんて話も聞く。

 大なり小なり自分を曲げて、人間は社会に適合しようとしているのだ。

 自分がいくら不適合だと、人から外れていると思おうと、始めから諦めてはいけない。


 そもそも俺が不適合な部分は個人に興味をあまり持てないところではないだろうか?

 誰かに何かを頼ろうと思った事がない。そうする必要があるからと意識を向けるくらいか。

 そういう個人プレーしか出来ない生き方を続けていたからだとも言える。


「それはムリだな」


 社会不適合と断定するのは簡単だが、もしかしたら頼れる誰かがいれば人間になれるのかもしれない。

 その誰かが1人なら依存か。依存先を何人何十人とする事で安定した人間になるのだろう。

 個人を認識しその人を頭の片隅にいつも置ける様にする。それが自分の世界を広げる事に繋がる。


 まぁ、それが出来ないから俺は自分を不適合だと思っているのだが。


 普通は親兄弟から始まり、友人や先生に先輩後輩、社会に出てからは上司や後輩、取引先など広げていくものだ。

 忙しさで関わりが薄くなり、自分の中から薄れていく事もあるだろう。視野が狭まるとか世界が狭まるとも言えるだろうか。

 俺の場合は忙しいという言い訳もなく、始めからそれがなかったのがおかしいのだ。


 人を見ているだけでしかない。街で通りすがる人と身近な人の区別がない。

 自分と縁のない人だと全ての人をそう認識してしまう。円卓の中の仮面だけが友達みたいなものか。

 自分の世界の狭さが、何も信じる事をできない歪な化け物を作り上げたとでも言うべきなのだろう。


「なら色々話してくれる? そろそろこのやり取りにも飽きてきたの」


 ヘビが鎌首をもたげる様な雰囲気をお嬢は漂わせる。

 次にノーと言ったら飛び掛かるだろう。おじさんと御前どちらを狙うか?

 いるかどうか分からない御前は狙っても手間でしかない。おじさん一択か。


 おじさんを捕まえつつ、御簾を突き破って御前を見るのがいいかもしれない。

 そこで御前を捕まえられそうなら捕まえるべきか。居たらレベルだけど。

 でも二兎追うものは一兎も得ずとは言ったものだ。確実におじさんを抑える事を意識しよう。


 せめて何かためになる話でもして、興味などを引く様な事が出来たら違っただろうに。

 頭がどんどんと内側にこもっていってしまう。自己嫌悪を催す類の思考が続く。

 それが何かのためになるわけでもないのに。ただ自分の悪いところを自覚するだけ。


「そうだな。このまま何も語らずというのも納得できない話だろう」


 むしろ内側にこもっていってしまうから、他人がどうでもよくなるとまで言える。

 自分だけにしか関係ないのであれば誰かの裁量に関係なく行動できるから。

 そうやって他人と関係しない選択肢ばかり選んで、自分以外の人に頼るという選択肢をなくしていったのだ。


 自分が勝手に諦めて。人に声をかける事もせず。ただ勝手に遠い存在だと見放す。

 そうして狭い世界を作り上げて、自分は人間じゃないと嘲笑う。ほんとバカ。

 化け物になりたがっている。人外になりたがっている。そうでありたいと思う。


 それが楽な道だから。努力も何も必要ない道だから。傷つかない道だから。

 そうやって自分の負担をなくしていった癖に人外だと嘆く愚か者。

 自分が望んで進んだ癖に何を嘆いているのか。人間を辞めた愚か者が。

 それでは生きられないと、今こうなるまで理解できない愚か者が。


「早く答えてよ」


 望んだわけじゃない。そう言いたいのは山々だ。

 だが現実問題、外に向ける目はともかく、伸ばす手を持たなかった。

 外に助けを求める手を探す方法も考えなかったのだ。


 そもそも何かを努力しただろうか? ただ近くにあるモノを見ていただけだ。

 何かを見ようと思って探した事もないだろう。そこにいて見えるモノしか見ていないのだ。

 それで一体どうして何かが変わるというのだろう。声を出す事すらもしないのだから路傍の石と何らかわりなどしないのだ。


 壊れているを免罪符。人外だとレッテル。人と違うと思い込む。

 全てはただ自分が楽するためだけの言い訳。

 このバカにはつける薬もありはしないだろう。


「僕のシロをそんなにいじめないでくれるかな?」



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