317、いらいら
「動物。不潔なのやねとねとしているの以外ならわりかし何でも好き。これでいい?」
ナメクジは嫌い。ロイコクロリディウムはカタツムリの寄生虫だったか?
具体的な寄生虫の名前は思い出せないけれど、たいてい寄生虫がいるという認識がある。
変なホラー漫画で体に潜り込む類の描写を見てしまうともう近くによって欲しくないとなる。
あれらを触った手で目とかこすると赤く腫れたりするんだよな……。あぁ、いやだいやだ。
まぁ、俺自身はそういう事をした経験はないけど。
経験する前に過剰な警戒で、必要以上に怖がっている。今みたいに。
耐えられる限界を見極めて、大丈夫な範囲で危険を冒す事ができない。
安全を確保する事は重要。だがそれは余裕がある時の考えだ。
余裕がない状況に陥ってしまった段階で、その考えはむしろ自分の首を絞めていく。
「ふむ。それは人間が含められるのだろうか?」
含めるものか。俺は余計な駆け引きが発生する様な関係が嫌いだ。
まぁ、動物の多くはなんだかんだ駆け引きがあるのは否定できないか。
だがそれは自身の生存のためだ。自身の子孫を残すためだ。
あぁ、これでも人間は含められるのか。
お金を稼いだりするのも、自身の魅力を上げるため、自分の身を守るためだ。
方法が間接的になったとはいえ、人間も子孫繁栄や自身の生存のために動いている。
じゃあ、何が嫌い? 個で完結しない? 完結するモノは生物としておかしいだろう。
俺の思考が狂わされるところだろうか。面倒な思考を多々させられる部分か。
どうして動物とはそれがない? 深部まで分かる様な会話手段がないからだろうか。
「微妙」
会話をしたくない。ただ生き抜いていくだけの単純な世界にいたい。
きっとこれに落ち着いてしまうのだろう。
それは自分という個の要らない世界とも言えるだろうか?
いや、もっとひどいな。何せその世界において俺自身は傷つく事があり得ないのだ。
それは一方的な搾取をしたいと言っている様なモノなのだ。
ただ踏みにじられるだけの存在が、そういう世界にいたいと思う事はないだろう。
つまりは自分が傷つかない前提で、そういう世界にいたいと願っているのだ。
意識の上では自分もそういう環境にいるつもりであっても、深層部分では負けるはずがないと思っている。
これが傲慢だと言わずになんというのか。ただ安全圏にいる癖に必死感だけ出したいとかなんと滑稽か。
ホントなんて醜いんだろうか。
「なるほど」
ん? 今の問は人間が愛玩対象として見られているかを確認したのか?
それとも人間という存在が好きかどうかを問われていたのか?
人外という路線で話が進められていたのか? いや、どういう意図だ?
あ、違う。人間が仲間だと認識しているかどうかを問われていたのか?
仲間だと思っていたら「微妙」という言葉はおかしいと考えられないか?
人間を仲間だと思ってたらどういう反応をしていた? なぜそういう質問を? みたいなか?
あのなるほどはどういう意味なのだろうか? 人外判定のためのものか?
そもそもこの顔と瞳や髪色から、そもそも異常だと判定されているのではないだろうか?
絵本の中の土の神様とそっくりの容姿だ。色々な意味でツッコミどころがあるはずだ。
「それで何を狙っているの? 自分達が正義だと信じさせて、元の場所に戻し、私が所属しているだろう集団で疑心暗鬼させて、暴発させる事を考えているとか?」
あぁ、もう。お嬢はガンガンぶっこんでいくなぁ。
相手の思惑に適当にのって、情報を引き出すとか考えないのか?
いや、そういうのはなにかあれば死ぬだろう人間がする事か。
自分が死なないという前提を元にぶっ込んだ事を言って混乱させる。
相手が暴走するならそれはそれで潰してもいい動機になるし。
でもこれもスルーされたらどうしよう? パッと思いつく策略そんなに出て来ないわ。
まぁ、でも全体的にスルーするなら、目的意識もない変な組織としか言えなくなる。
対応を即断できない段階で、ここがもし本当に首脳組織だとしても役に立たない。
とりあえずあのおじさん従者を捕まえて、この場所を離脱し、身元を洗えばいいかな?
「なかなかな事を。どうやら貴女は頭がいい方の様だ。だが安心してほしい。我々はその様な事を考えてなどいないのだから」
あぁ、うん。そっかー。あのね、バカを操作する時の手順としてまず褒めるというのがあるんだ。
バカはね。自尊心が高いから、自分を持ち上げてくれる相手を信じやすいという特徴がある。
それに褒められた事を否定するのはなかなか難しい。俺みたいに自己肯定感が極度に低く褒められると皮肉にしか思えないヤツは除く。
警戒心ばかり強くて、ガルガルと煩く唸り続ける。噛みつく気はほとんどない癖に。
まだ噛む時じゃないと唸って、いつまでも噛まないのだ。それは噛まないと同じ事だろう。
キャンキャン吠える子犬や安全な場所で唸る臆病な犬と何が違うというのだ。
人間として向き合う事がまるで出来ていない。
そういう部分が畜生根性とでも言うべきか。
表面上は冷静ぶっているのが滑稽極まりない。
「口ではいくらでも言えるね。まぁ、でも口でもいいから何かを教えて欲しいんだけど?」
お嬢がだる絡みしてるわ。もうだいたいまともな回答を期待していないんだろうな。
確定的な敵対行動をとってくれればササッと暴力をみたいな頭か。
暴力を選択肢にあげる段階で、もう思考が終わっているとも言える。
まだ暴力で何かを片付けた事があるだろうか? たぶんない。いや、カニとか殺しているか。
何かと簡単に暴力を振るおうとする頭は文明人ではない。鉄砲を持った子供みたいな感じか。
小説や物語はすぐ暴力で解決しようとする節があるが、実際問題、暴力を現実で振るうという選択肢が出る段階で治安が悪い。
まぁ、それを世界が悪いとか、ここでは暴力を振るわなければ生きられないと言い訳はいくらでも出来るか。
暴力で自分の身を守る必要がある様なヤバい地域で、非暴力を訴えるのはバカらしいけど。
だが現状そこまでの治安の悪さは感じない。変態はいたけど、暴力的なヤバい人は見かけていない。
「そうだな。貴女が何者なのかを正直に教えてくれたらある程度は答えるとしよう」
正直と言われても困るのだが。そもそも何をどこまで言えばいいのだ。
この体について何か言えばいいのか? だがこの体について詳しい事とか知らない。
丈夫で魔法無効以外の設定をゴーレムに持たせた記憶もない。あとは生物を模したくらいか。
中身の俺に関しては殊更どこまで知っているかなど分かったものではない。
過去の記憶もどこまで正しいか分からない。それが正しかったとしても自分の事を説明するのは苦手だ。
所属している組織とかも厳密にはない。たぶんここというのはリク君の派閥くらいだろうか?
だが所属のサインをしているわけでもない。あくまで保護下にいたという程度でしかない。
そもそも正直に答える理由はないが、正直に答えようにも答える答えがない。
無所属のヒトデナシとでも答えればいいのか? それとも神様だとでも言うのか?
転生者だという認識で話す? さすがにそれはない。自由がなくなる未来しか見えない。
「正直にと言われてもね? 私には立派な肩書をもらった事がないし、それを証明するものもないから答え様がない。こちらばかり語らして何を考えているの? 少なくとも組織の名前くらい教えてくれない?」
あー。イライラする。そろそろ本気で暴れたい。
政府関連組織の可能性がすごい高いから止めといた方がいいとは思うのだけど。
我慢大会かな? 塩らしい態度でもとって、媚でも売っておけと? いやだわ。






