316、問答
どういう立ち位置で構えればいいだろうか?
カバーはどうしよう? そもそも現状の把握すらも曖昧なんだよな。
リク君の所属している組織についてすらろくに知らないのだ。
「今のところの印象だとただの反政府組織で、自分が正義だと宣うだけの集団にしか見えないわ。少なくとも地下通路にいた私を誘拐するという悪事はしているでしょう」
ただそれだけの組織なら潰したところで何も問題ないだろう。
しかし政府組織の近くで、反政府活動を行うという点が、どうにも合点がいかない。
灯台下暗しとは言うが、だとしても近すぎる。何かしらの関わりが想定される。
昔のヤクザみたいな、政府組織に反発しかわかない跳ねっ返りを集めるところだろうか。
予期できないところで散発的に暴れられるよりも、息の掛かった組織に集めて、ガス抜きさせつつ、適度に本当に危ないヤツを間引いていく組織とかの可能性はないか?
だとしたらある意味で治安維持装置だ。俺が好き勝手に暴れて、破壊していくのは良くないだろう。
転生者の近くというのもその気配が感じられる。
危険物の廃棄場所の近くを探査しないわけがない。
だがそうなっているというのだから、それはわざとのはずだ。
「話によると貴女は相当な能力を持っているとか。何故抵抗しなかった? こちらとしては迷子になった同胞だと思い救出を敢行したのであるぞ」
ここから得られる情報は迷子の転生者か何かを回収する組織だという事か?
まぁ、もともとそれは確定に近い案件だったかもしれない。
リク君が連れ回していたのは確認しているはず。でなければあの呼出しはあり得ない。
リク君との取引のため、ここに置かれている可能性は高い。
だがそもそも俺に人質としての価値はない。傷つける事ができないのだから。
リク君は俺の体の特性を知っているはずだ。それならある程度の強硬策を取れると思う。
そもそもこちらの正体を知らないという事はありえるのだろうか?
中身の性格が不明のゴーレムという扱いならあるか?
スペックは想定できたとしても、それの行動方針が分からないという感じ。
「そう。ちょっとでも力いれたら壊れてしまうモノに乱暴できないでしょ? 勝手に連れてきて恩着せがましいわ」
近場の結晶をもぎ取り握り潰す。
氷の塊を潰す様にパリパリと指の隙間から粉が落ちていく。
パンパンと手を払えば輝く粉が辺りに散った。
……サラッとすごい事してるな。握力何トン? 化け物か? 化け物だったわ。
指が小さいから点で力が入った? ハンマーだったら衝撃で破砕だからまだ分かるんだけど。
結晶だし一方からの力には強いはず。つまり指にかける力の向きを適宜ずらして粉砕した?
やっぱ意味がわからないわ。というかお嬢、やり過ぎだ!
まぁ、暴力性を目にさせる事で、相手に目の前にいるのが化け物だと認識させるのは大事か。
向こうが先手でこちらに譲歩させようとしたのだ。むしろお前が譲歩するべきだと示すのがいい。
マウントを取ろうとする相手には容赦する必要がない。
「なるほど。分かりやすいデモをありがとう。確かにその力を無差別にふるえば無為に命がなくなるな。貴女は優しい存在なのだな」
懐柔か? 怪獣か? まぁ、怪獣といわれたら怪獣かもしれんが怪獣ちゃうわ。
高圧的な振る舞いが逆効果だと判断して、褒めておだてての懐柔というのはあり得るか。
相手を型にはめて、優しい人であるという枠に押し込めるためのモノかもしれない。
高圧的な振る舞いに萎縮して唯々諾々と従う存在になるならそれで良し。
おだてて調子にのらせて、いい感じに動かせる存在になるならそれはそれで良し。
相手に枠を押し付けて、その枠に収まる様に、誘導出来たらまぁ良し。
そんなこんなな考えでの言葉かもしれない。知らんけど。
あぁもう考える事が多くて面倒くさいな。いや、まだ単純な部類か。
まだ猛獣対策の交渉レベルの話だ。派閥力学とかは考えなくていい分簡単だろう。
王族派とか貴族派、庶民派、転生者派みたいな大雑把な派閥は絶対あるはずだし。
「優しくなどないよ。私は知りたいだけだから。それでここはどういう組織なの? 転生者の味方面して、反政府派閥を集めるけれど、暴走する危ないのを適宜処分するための政府組織?」
ぶっこんでいくな! いや、考えていたけどさ!
確かに中途半端にチクチク刺していく事は面倒だし、時間がかかってしょうがないけど!
変な時間とられるのが一番嫌だよね! 知ってる!
具体的に言えば言う程、それが的中していた時の反応が難しいだろう。
そもそも外れている可能性の方が高いとは思う。
そんな類推で当たる様な秘密組織があってたまるか。
こういう考えって当たってたからって俺スゲーッ! とはならないよな。
これで当たってたらご都合乙とすら思うわ。一応そうだと考えられる理由は敷き詰めたけどさ。
そんな単純な構造なら少しでも考えが回る人なら気づくだろうし、真の裏組織みたいなのが出来そうだわ。
「ほぅ。もしそうだとしたら?」
あ。面倒な事を言い始めたわ。ねぇ、少しは動揺とかしてくれないかな?
見当違いなら嘲笑いとかしてくれたら分かりやすいんだけどさ。そんな簡単な話じゃないからダルい。
ご都合を利かせてくれないの辛いわ。ご都合があったらこんな状況に陥らないのだろうけど。
あと御前様と隣のおじさんが空気というか、なんか隣のおじさんが生暖かい目している気がする。
やはりこれ何か仕込みあるんじゃないか? あぁ、もう疑わしいモノが多すぎる。
これ、状況判断テストみたいな感じ? ストレスかけてテストして、危ない事をしたら封印処置みたいな?
スペックは分かっていても、中身が壊れている可能性が高いものな。
愚鈍が過ぎれば敵に騙されて、妙な状況で爆発される可能性も考えられるか。
まぁ、俺みたいに中途半端に考えるバカも、騙される可能性が高い。
某カルト宗教も高学歴の方がけっこう騙されていたっていう話だしね。
「私を試しているモノだと思うかな。でも判断しているのはこちらもだからね」
もしこの組織が本当に政府側のモノだったとしてもそれがどうしたというのがある。
現行政府に関して俺は何ら思い入れがない。というか何も思えない。
いや、あの大臣さん? 裏ボスシンさんやラミさんとか1等級の方々を見る限り悪い人達ではないとは思うけど、それ以上も以下もない。
あの方々は今も働いているのだろうか? なんか既に引退していそうな気がする。
十年働いたら次の世代に回せみたいな空気ありそうだし。特に1等級。
そう考えたら今は誰が仕事しているのか。ミラ先生とかだろうか?
予想してみるとなんか思い入れが出てきそうな気がしてきたわ。
いや、でもあれは魔法関係の取り扱いに割り切っていそう。
軍部とか防衛省とかと同じ区分じゃないだろうか?
政治経済はまた別の部門でやっていそう。というかやっているだろうな。
「なるほど。……御前様からの質問だ。何か好きなモノがあるか?」
……。ねぇ、これは何を意味しているのかな? 僕分からないよ?
僕誰だよ。すっとぼけ野郎を出すな。無垢系? 悪戯系? ボス坊やかな?
変な質問されたから妙なストレスに頭が脱走しやがった。飛頭蛮か?
好きなモノと言われてもすごい困る。
まぁ、動物が好きだし、基本的に動物ならなんでも許せるけど。
あ、でも人間はイヤだわ。考え事が多くなり過ぎて疲れる。
で、これは何を求めてその質問を急に吹き込んできたんだ?
何故それを聞きたいと思ったんだ? 分からない。
そもそも御前様とやらは実在したのか? ただそこにいるという設定かと思ったわ。






