314、謁見の間
宝石で煌めく空間がそこにあった。とても広かった。光が乱反射し、端がよく分からない空間だ。
細かな水晶が岩壁にくっついている。まるでアメジストドームの中に入った様な感じ……といえばいいのだろうか?
意味がわからない。アリの巣穴がなんでこんな空間に繋がるのだろう。
土で出来たトンネルの向こう先にこんな空間があると予想していなかった。
狭いトンネル部分から縄梯子が伸びていた。俺はそこを降りた。
岩壁には穴が何個も開いており、その穴から人が出入りしているのが見えた。
地下にこの超巨大なアメジストドームみたいな岩石が埋まっていて、その中に拠点を作った?
アメジストドームというよりも、水晶窟とでも言えばいいのか? いや、同じか。
水晶窟があるという事は近くには山があると思う。いや、ないとおかしい。
水晶はプレート同士がぶつかって生まれる膨大な圧力によって生じるのだ。
膨大な圧力と岩石、その岩石に入ったヒビに高圧高熱を帯びた水が入り、岩石の成分を溶かす。
圧の中心から徐々に離れ、水分にかけられた高圧高熱が徐々に下がり、ゆっくりと結晶化を果たす。
塩とかミョウバンとかの再結晶みたいなでき方。水がないとできない。
鍾乳石や石筍みたいなでき方ではない。あれは石灰石が酸性雨で溶けたモノが再結晶したもの。
ルビーなどの宝石とも違う。あれは岩石が溶けて再結晶したもの。火山がないと出来ない。
このサイズの水晶の洞窟ってゲームとかなら見かけるが、実際存在できるのだろうか?
いや、だがここにある以上、存在できるのだろう。
でもプレートがぶつかり生まれた山や谷は見かけてないんだ。
サイズがサイズな以上、相当な負荷と年月がなければできないはずだ。近くにないとおかしい。
魔法で出来た可能性? 反応を促成し、結晶を成長させた?
だとしてこれを作るためにどれくらいの魔力が必要だろう?
リク君クラスでも複数人いなければ出来ないのではないだろうか?
「綺麗でしょ?」
乱反射する光で白く霞むおじさんがそう囁く。
綺麗というよりも意味がわからない。それを見る心構えがない。
激辛カレーを口に含むつもりだったのに、甘いケーキが口に入った気分。
ナメクジが岩壁を削って穴を開けたのだろうか? 歯舌っていうんだっけ? 軟体動物は基本的にそういう形状の口なんだよな。
いや、あのトンネルはもともとアリが開けたものの可能性は消えていない。
過程がわからない。何がどうしてこうなったのかがわからない。
サプライズというか、玉座の間みたいな効果を狙っているのだろうか?
特別な場所とか異常な空間で相対すると、慣れないので場に気圧されるものだ。
その気圧される感覚を相手の能力などと同一視してしまう。
「そうだね……」
暗い空間から一気に明るい空間に連れ込まれる。
水晶の塊により輪郭が曖昧になり、光の加減で距離が分からなくなる。
光は水晶そのものが光っているのだろうか?
目を窄めて水晶を見ても詳細が分からない。
水晶そのものが光っている気はするのだが、1つ1つの光量は少ないのだろうか?
水晶に他の水晶の影が落ちる事もないし、電球のフィラメントみたいにある1点が光っているみたいな事も確認できない。
ペットボトルの中に水とできれば少し牛乳などを入れて、スマホのライトを底から当てる。
そうする事で災害時とかにいい感じに光が拡散して照明として利用できる。
あれと同じ感じで、下から光を出せば似た感じになるだろうか? まぁ、光源が見えないのだけど。
「こっちに来てくれるかな? 一緒に行こう」
執事の様に促していく。安全圏を維持している。
捕まえる事を狙っても避けられるだろう。油断が見えない。
まぁ、ここに来てもまだ隙あらば狙う俺が言えた話じゃない。
……精神不安定おじさんが消えている。俺の不注意だ。
適当な人質が居なくなった理由はそういう看病が当然だという認識か。
自然に退場したから異常と思わなかった。分かりやすい異常に目を奪われ過ぎた。
居ても人質としての価値があったかは微妙。何ならただの荷物にしかならない。
そんな意識が根底にあったかもしれない。使い方はいくらでもあったはずなのに。
こういう部分で詰めが甘いとしか言いようがない。だから愚か者なのだ。1つの事しか見えていない。
手品もそうだが、派手に動いているモノは陽動なのだ。
大局的には意味のない陽動に気を取られ、裏で動いている事が見えにくくなる。
派手な動きがある時ほど全体に注意を向けなければいけない。
「さて御前ですよ。背筋を伸ばし……てますね。綺麗な姿勢でいい事です」
内側にこもり過ぎだ。周囲への注意が考える端からおろそか。
いや、考えすぎているからおろそかなのか。
だが考えなければ対応が遅れる。考えていても対応が遅れているが。
水晶の階段の上、白い巨大な御簾がひかれていた。
背後から強い光を当てているのか、御簾に黒い影が落ちていた。
実際は小さい人でもこれなら大きく見せられるな。威圧のための舞台セットだ。
中にいるのは何だろうか? どんな神輿だろうか?
これで神様が出てきたら笑うかもしれない。
なんでこんなところに神様がいるのかって思っても仕方がないだろう。
「御前って誰?」
それに急に来てすぐに会える様な存在だとかただの暇人だろう。
普通何がしかの事をしていて、対応のために色々しているモノだ。
特にまっとうな管理職なら、下の者の状況を見たり、対外交渉したり、やる事は多いはず。
ここにいる可能性があるのは力が大きいだけの神輿。人である必要もないか。
下に全てを任せている投げやり管理職。あとサークルの姫みたいなの。責任を取るのが役目の会長とかもありだろうか?
何にしても即応できる立ち位置のモノだろう。偶々時間が取れたトップだったらちょっと面白い。
神秘的な存在とはそもそも何ぞやと思う。
目の前に示されるとただの現象や力の塊程度にしか俺は捉えられないのだろう。
何でも頭の中で分解しようとしてしまう。
「御前様は御前様だよ」
全体をぼやっと見るくらいが普通なのだろうか?
この人はそういう人。それ以上は踏み込まないのがいいのか?
深く考えたところで、その人が何をしようと、自分の内心には大きく干渉しないからいいのか?
俺は相手が何しでかすのかが不安で見ているのだろう。
だがそれは大概は考え過ぎの部類だと、自分自身ですら思っている。
思考遊びの領域に入ってしまっているのだ。ほんとバカ。
ただこうあるがままを受け入れろみたいなのをされると、偶像崇拝を禁じるという宗教の話を思い出す。
あれって司教とかの解釈を押し付けるのにすごい便利だ。神はこうあられた、だからそうしろと。
偶像があれば方向性が決まってしまう。だが具体性を失わせれば各自で違う解釈にしたところで「神だから」で全てを押し通せるのだ。ほんとなんとも便利な事で。
「そう」
あぁ。むだに狂犬状態。噛みつきたくて仕方がない。
不安や不審が強いんだろうな。何かを信じる事もできないし。
客観視しているフリだけがどんどん上手くなっていく。
噛みたい。
ほんと噛みついて全て終わったらいいのに。
暴力で更地に出来たらこれ以上となく簡単なのに。
どうせ俺は人間的な生き方など出来ないのだから。
いや、ダメだ。一瞬は良くても続く先で困る。
簡単に死ねる体ならともかく、この体は死ににくい。
死んで完結みたいな事が出来ないんだ。
本当、バケモノって面倒なんだな。
「御前様、話していた者が到着しました」






