313、先に行きたい
キノコの光は弱く、キノコから5センチ離れると何も見えないくらいだ。
この身体でもそうなので、本来はキノコから1センチも離れると何も見えないのだろう。
キノコにぶつかり光を帯びて見える人質おじさんは比較的に見やすいくらいか。
いけ好かないおじさんにみんなと呼ばれたソレはまるで見えない。
キノコが光って見えるのは人がぶつかり、傷がついたからの可能性はあるか。
しかしキノコの断片で蛍光して見える地面を見つめても、そこに何かがいる様には感じない。
目の前の土砂に埋もれたおじさんがよく見える理由はキノコにぶつかりまくっているからか?
動き方が丁寧じゃないというか、恐慌状態で壊れているモノな。
この蛍光キノコが通路にばらまかれている理由って侵入者を見やすくするためか?
「みんなー、崩壊が広がる可能性があるから注意してねぇ」
いけ好かないおじさんが指示する声が土砂の向こうから聞こえる。
これは崩したのが俺だとは思っていないかもしれない。どうなんだろう?
変に隠し立てしてもウザいだけだな。後でバレる気がするし。
敵対を前提に行動するべき。いや、元々敵対寄りの関係か。
紛らわしい行動をするなと逆ギレをしてお茶濁しか?
勝手にガウガウと吠え立てる雑魚なチンピラどこですか? ここですね。
自分を卑下するな。ヒゲも生えない体の癖に。ヒゲが生えても卑下する意味はない。
壊れたと思うのはいいが、壊れている前提で、更に壊す様な事をしても意味はない。
前進する事を考えろ。人間になれ。ただただ生きるだけではこの人生に意味がない。
「おっかぁ……」
壊れたおじさんの蚊の鳴くような声。生きてはいる様だ。
1mは一命取る。人間、死ぬ時は本当にすぐ死ぬ。
死にたい時には全然死なない癖に。
トンネルの高さが80センチくらいか。
その高さから10キロか20キロ、いやもっとたくさんの土砂が降り注いだ。
俺の考えが甘いだけに、おじさんが死ぬ可能性は十分あっただろう。
自分勝手が過ぎる。そもそも俺はどこの組織にも属せないだろ。
リク君のところに俺は属せているとでも思うのか? ないない。
自分の立ち位置もなく、ただ勝手に相手を悪、自分を正義だと思おうとしている。
なんて愚かなヤツだろう。
なんて救えないヤツだろう。
ほんと俺は自己中極まりない。
「よしよーし。もう大丈夫だよー。さ、あっちあっち。みんなが待ってるよー」
おじさんがおじさんをあやしてる……。
なんか手慣れてない? 手慣れている気がするんだが。
閉所恐怖症とかあのおじさん患っているのかな? 介護よくしているかも?
この空間で活動するのに、あのおじさん、向いてなさすぎない? 配置変えたら?
いや、あのおじさんをここに押し込んだのは俺か。
たぶんおじさんは外回り担当なのだろう。閉所作業できなさそうだし。
このデメリットを上回るメリットがあるかも。知らんけど。
ぬた。
……。なんかさ、足に湿ったのがくっついた気がするんだ。
すごい嫌な感覚がする。とってもすごい嫌な予感がする。
今、足の上を這っている気がする。大きさ的に30センチくらい。
上を見た。目があった気がした。
こういうのとは縁があってほしくない。
地下水路でも見たけど、俺、これ嫌いなんだ。
「あ、ナメクジ大丈夫?」
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
不快指数が高い。中途半端に見えるから下水道の時よりも意識をしてしまう。
頭の中で情報が流れる。病原菌とか寄生虫の話とか。都市伝説だと思われる食べた人の末路とか。
ハエとかもそうだ。こいつらは気持ちが悪いんだ。
実際に病気になる可能性がどれだけ低かろうと、万分の一を自分が引かない理由はない。
自殺でもなければ死因を選ぶ事など出来ない。病気なんて苦しむモノにかかって死ぬのは辛いだろう。
好きでもないのに、苦しんで死ぬ可能性のあるモノには近づきたくなどない。
なんでこいつらが利用されるわけ? 益虫枠で利用されてたりする?
漫画の神様がナメクジによる文明創造の話を描いていたっけ。
致命傷を負う部位が少なく死ににくい。骨格などの知能を上げる障害が少ないのがメリットか?
「大丈夫」
じゃない。だが弱みを見せたくない。
人と共生している段階からして、病原菌などの媒介はないと思われる。
エスカルゴとか十分に加熱した軟体動物は食べ物にすらなる。
エビカニは海にいるから美味しく見えるだけとは誰が言ったか。
貝の類、イカタコの類、ホヤなど。海にはそういった生き物がいて食べられている。
毒とか寄生虫とかの危険がないのであれば、軟体動物は全身が可食部位だ。
ペルーとかアンデス山脈の周辺にはモルモットが家畜、日常食として使われる。
人間が食べられない草木などを食料に、生きるのに必要なタンパク質に変えられるのだ。
人間にとっての家畜は食料じゃないモノを食料に変える技術だ。
いや、食べる前提で考えるんじゃない!
「良かった。まぁ、もう近くだから落ち着いて来てくれるかな?」
トンネル崩落をスルーした? いや、今つっこんでも面倒と思われたかな?
今その話をしても対処の仕様がないか。変に逃げられても労力のムダだし。
対応するのが面倒な変なモノとそもそも遭遇時から認識されているかもしれない。
丸め込んでどうにか味方側につかせられたらヨシっていう感じだろうか?
いや、獅子身中の虫を自分から抱え込んでいくのはバカだと判断するか。
いい感じにデマを吹き込んで、元の場所に戻せば、敵対陣営が崩壊するかもしれないとか考えているのだろうか?
そこまで都合よく上手くいくとは思っていないか。
だとしても大きな力が不審感をもって動くと相応の対応をせざるを得なくなる。
自分を賢いと思っているバカ程、組織の足を引っ張るモノはない。
「本当に近くなの?」
組織は複数人が同じ目的で行動するから大きな事ができる。
組織の個人が勝手に動いたところで、組織の目的は達成できない。
組織の名前を使って勝手にしたら、組織にとって悪影響すらあるだろう。
悪事千里を行く。悪い組織だと噂が立てば真っ当な取引先はなくなる。
真っ当じゃない取引先は増えるだろうが、反政府組織や犯罪組織として目される。
それでも問題ないと思っているヤバいところだけがそうやって生きるのだろうな。
思考がとりあえず逃げようとしている。
離れたいのに状況が許してくれないから思考が逃げる。
前を向け。いや、近くを這いずるヤツは忘れていい。
意識から逸らせ。逸らし続けろ。
「近くだよ、ほら。あの角を曲がれば」
角と言われても見えるか。こっちからじゃ、目の前のおじさんしか分からんわ。
早くいかせろ。ほんと早くいかせて? いきたいんだよ! ばか!
あぁ、もうなんか嫌だ。なんでこんな汚れに塗れる事になるんだよ。
俺は比較的に綺麗好きだと思うんだよ。潔癖性とまでは言わないし、何でも除菌タイプではないけどさ。
傷口に泥とかすごい破傷風菌とかが怖いし、こんな病気があったなって思い出してしまう。
体が健康であれば発症はしにくいとか考えるけれど、そもそも変なリスクを負いたくない。
攻撃力はいくらでも高められるが、防御力は対応しなければいけないモノが多過ぎでツラい。
この体は無生物だから普通の病気にはかからないと思う。防御力自体も高いし。
でもきっと何か壊す手段はあるだろう。いや、魔力なんて便利なモノがなければ一瞬で壊れるのでは?
「そう。早くいかせて」
俺が魔力不足で動けなかった時、なんで壊されなかったんだろう?
風雨にうたれていればその分壊れている気がする。
髪の毛とか細いし、すぐ壊れてしまいそうなんだが。
屋内とかで拭かれたりしていたのだろうか? なんかそんな気がする。
魔力切れで動けなくなる直前に崖から飛び降りれば壊れて死ぬ事ができるのだろうか?
地面に穴開けて下に降りるのはダメかな?
「お嬢様のご希望通りに」






