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312、トンネルの中で

「どうしたの? 進みなよ?」


 圧をかける様に言う。衣擦れの音が少し大きめに聞こえる。

 これさ、やっぱりあのおじさん逃げたんじゃない?

 でもこの人質おじさん自体は残しているんだよな。

 判断に迷う。情報源にされたくないなら殺すだろう。


 あ、もしかして毒の煙とかでこの人質おじさん諸共俺を殺そうとしているのかな?

 それをされても俺は死なないのがチートか。どう考えても死なないのはずるいだろう。

 毒ガスだとして空気よりも重いか軽いか。軽そうだな。

 軽い気体にしておけば自然と換気孔から抜けていくだろうし。本部が下にあるなら降りてきて欲しくないだろう。


 でも毒ガスが流されたとして、俺自身は気付く事は出来なさそうだよな。

 変な臭いがするとかでもない限り分からない。苦しくなったりしないんだから。

 坑道のカナリアは目の前のおじさんの役割だが、おじさんが死ぬと情報取れなくて困る。


「おっかぁ……どこ……」


 知るか! いや、これは幼児退行か? 壊れてるわ! どげんかせんといかん!


 いや、これはある意味好都合なのではないだろうか?

 このおじさんを無事に連れ帰る事ができれば情報源として強そうだ。

 もし反対に死なせてしまった場合、ただの時間の浪費にしかならないか。


 俺単体だと人外の行動をするだろう。壁を掘りぬいてトンネルを倒壊させても俺は死なない。

 だがトンネルが倒壊した場合、おじさんが死ぬ可能性は高いだろう。

 殺すよりも病人や怪我人を量産する事で行軍を遅滞させる作戦を思い起こす。


 そもそも精神が壊れているなら、情報の吸出しはできるのだろうか?

 誘導尋問的な感じで引き出せばいいのだろうか? テキトーな言葉を言いそうだな。

 正確な情報が引き出せるかは怪しそう。考えるだに面倒だな。


「あー、はいはい。進みなさい。お母さんが待っているよ」


 督戦隊か何かかな? いや、もっと酷いな。

 頭の中に銃を片手にバーで酒をかっくらう不良シスターが湧いたよ。

 また変なのを湧かせてきたな。円卓にバーを持ち込みやがった。


 まぁ、こういうのを見たら……いや、聞いたら現実逃避でもしたくなるか。

 でも仕方がないといえば仕方ないのか? 精神崩壊してもおかしくない真似をしたか。

 人外的な行動を重ねすぎたし、頼れる兄貴とはぐれた臭いし、ストレスはマックスだろう。

 何なら殺気を兄貴からぶつけられてたし、はぐれた事で箍が外れてしまった可能性が高いな。


 とりあえず胡散臭いおじさんとはぐれたと仮定し、トンネルに穴開けて脱出がいいだろうか?

 下手に穴を開けた場合、トンネルが崩壊し、幼児退行おじさんが死ぬ可能性はないだろうか?

 崩壊のダメージは俺が受け止めれば何とかなるか? 上はともかく下が崩れたら面倒だ。


「おっかぁ……」


 なぜかすごいイラっとする。精神崩壊して楽しやがるのが嫌か。

 俺が精神崩壊する事もできずに、前に進もうとしているのに、簡単に壊れやがるし。

 お前の悩みなど知った事か。俺の悩みも俺の性質のせいでしかない。


 そもそも崩壊の仕方が薄っぺらいんだよ。劇的に壊れろって事じゃないけどな。

 もっとゆっくりと壊れるのがいいんだ。ゆっくり壊れれば薄っぺらくない。

 物語的にはそうだろ? いや、モブならさっさと壊れるモノだろうか?


 まぁ、だが壊れる時間はたくさんあったか。運び方のストレスも大きかっただろう。

 人間の面して化け物じみた行動していた。それが壊れる原因になっていただろうか?

 そもそも本当に壊れているか、それも分からない。


「進め」


 地面を指で音が出る程度に強く叩く。指に返ってくる感触からして下は空洞。

 下の空洞まではたぶん1mはないが、そこまで薄くもない。

 でも土自体はそこまで硬くないから崩すのは容易だろう。


 1箇所壊れただけでは全体の崩壊はしないか?

 蟻の一穴とは言うが、蟻の巣穴自体は粘液とかで補強された代物のはず。

 石を積み重ねてその自重で固まっている堤防や石橋などと、このトンネルは構造が違うだろう。


 上に穴を掘ったら水が落ちてくるということはないだろうか?

 湖の下にトンネルがあったら空調的にもキツいだろう。

 いくら水はけが良かろうと、湖レベルだと終わりそうだ。たぶんないな。


 掘るか。


「おっかぁ……おっかぁ……」


 ……処す? 処す? 処していい?


 このおじさん、なんか見てて? 聞いてて? イラってする。

 これは情報源になるのかな? 壊れすぎてダメそう。

 これはそういう演技なのかな? けっこう演技かもしれない。


 演技で壊れて、人質の価値をなくそうとしているとか、そういうことはないだろうか?

 実際問題、ホントに壊れている可能性があるのかも分からない。

 そもそも壊れるとはどういう事だろうか? 思考が出来なくなるのだろうか?


 そもそも壊れているのは俺自身か。壊れていなければこんな事態にならない。

 人間性がおかしいから変な事が起き続けるのだろう。

 もうたるい。だるい。普通になりたい。人間になりたい。ちゃんと生きたい。


 全力で生きようと俺はしているよね? 人間らしく足掻こうとしているよね?

 どうして人間になれないの? 俺には何が足りないの? そもそも人間って何?

 ……でもなんか俺は生きようとしているフリしか出来ていない気がする。

 結局は自分の身体などどうでもよく、他人もどうでもいいんだよ。

 そういう部分が人間性の欠如につながっているんだろうな。


 早く外に出よう。リク君のところに帰ろう。

 あそこならまだ自分らしく生きられる気がする。

 でもリク君もこんなおかしいのとは一緒にいたくないよね。

 ほんと他人の迷惑にならない場所で石にでもなっていたい。

 起こしたという事は相応の目的があると思うし、それを叶えてお終いかな?


「帰ろ」


 状況説明のお土産は精神壊れおじさんでいいと思う。

 担当の方が何かしら対応してくれると思うし、全部自分でする必要はない。

 もしこのおじさんが死んじゃったらどうなるんだろう? どうしようもないか。

 殺し方1つ取っても情報は情報だ。憶測は数十建てられるだろう。

 確証になるモノが持っていけない事が残念だけど。


 死体の欠片でも肉体情報から本人特定とか出来ないかな?

 魔力の形質とかを登録するとか、物語だとよくある話。遺伝情報みたいだと面白い。

 そういうの色々調べる事ができれば、芋づる式に関連情報漁れる気がするんだよねぇ。


 幹部に近いだろうあのおじさんを捕まえられたら本当に良かったのに。

 幹に近い枝である程、取れる情報の数は大きく増えるから。

 再発防止策を立てやすくなるだろうし、関連組織も見えたら腐った部分を叩きやすそう。


 天井の表面は少し固められていたが、5センチほど手を突っ込むと柔らかい層に指が届いた。

 掻き出そうと指に力を入れると天井の表面に細かなヒビが入っていく。

 さらに力を込めると天井が2m先くらいまで崩落していった。

 おじさんが土に埋もれていくのが蛍光色のキノコの光で見えた。


「おっかぁ……!」


 最後に一声、大きな泣き声を漏らすとおじさんは静かになった。


 ……。いや、本当に処すつもりはなかったんだよなぁ……。


 流石にこれは死んでいないよね? 崩落の高さもそんなにないし。

 降り掛かった土砂の量はせいぜい数十キロ? そんなにないか。

 生きているよね? 生きてなきゃおかしいよね?

 粘液で固めた砂のブロックって別にそこまで硬くはないし?

 ま、まぁ、とりあえず穴を掘って外に出ようか。


「おぉーい! 嬢ちゃん達は大丈夫か?!」


 ……。


 あのおじさん、逃げたわけじゃなかったんだ。

 てっきり逃げたモノだと思ったよ。倒壊させ損かな?

 思いっきり敵対行動しちゃったじゃん。早とちりか。


 それにしてもこの精神崩壊おじさん、なんで推定幹部おじさんが居なくなったわけじゃないのに、精神崩壊させているんだよ。紛らわしいわ。


「あーぁ。ちょっとみんな手伝ってくれ。補修作業が必要そうだわ」


 みんな?




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