310、エスコートされる
衣装部屋? いや、ロッカーの中か。何ニア国物語かな?
隠し扉は触りにくい場所に隠すのが原則というべきか。
奥の扉をおじさんが押すと更に開けた場所に出た。
ロッカーの中に入っていたのが和服など。ここは転生者用の衣服置き場だろうか?
必要に応じてここから衣類を持ち出し提供するっていう感じの。
まぁ、だとすれば転生者達の場所につながっているここの組織側の場所と言えるだろう。
「がふ。もが。あ」「話すな」
うん。お荷物氏はあいも変わらず扱いが酷い。まぁ、衣装に引っかかって息苦しくなったのだろう。
だがこういう風に隠されている場所に扉があるというと、ここの組織としても大手を振って迎え入れているとは思えない。
いや、大手を振って迎え入れていたら政府からツッコミが来るのか。
でも明確に変な場所で出入りをしていたら、これはおかしな組織の連中だと知らしめる様なモノではないだろうか?
だがそれをしなくてもいいくらいに、鉢合わせを避ける仕組みになっているかもしれない。
少なくともあの整備用の通路? で他の職員に会わなかったくらいだ。大分おかしいだろう。
いや爆弾騒動で設備を担当する職員全員が車の方へ向かったとかだろうか?
手隙というか、すぐには手を離せない様な作業をしている職員以外は全員呼ばれた?
そんな人数がいても仕方がない気がする。でも手分けして確認範囲を狭くする事で復旧速度を上げるとかできるかもしれない。わからないけど。
「それじゃ、お嬢さん。こちらへどうぞ」
また戻したよ。いや、まぁ、無性別とか言われても何と呼べばいいか分からないか。
髪の長さ的にも女性として見た方が扱いが楽だろうか? 傍目を考えればそうなのだろう。
まぁ、俺の面倒な精神構造は下手に出た方がコントロールしやすいと思われたか?
まぁ、残念ながら対等に扱ってほしいというか、変に上座に置かれるとむず痒くて仕方がない。
そもそも謙譲とか敬意とか、そういうものの欠片もないのだ。このバケモノには。
そんなものができる程まともな人間様とは関わっておらんから仕方がない。
ほんとそもそもコミュニケーションって何だっけ? した事ある?
頭がヤカラしているわ。やから。輩。この漢字見るとGが思い浮かぶ。
Gは漢字で書くと蜚蠊だし。考えてみたらけっこう違うな。
なんかウゾウゾと不潔なヤツが居そうなイメージがして見るだけで嫌だわ。
「あらどうも」
お嬢様ぶった返し。気持ち悪さで吐きそう。ゲーゲーしてるわ。
あぁ、うん。なんかこうすごい嫌なんだろうな。このおじさんが。
話し方からして詐欺師の気配がプンプンするし。皮肉っぽい事をしたいのだろう。
まぁ、皮肉になっているかどうかも怪しいというか、なってないな。
多少皮肉っぽく言えただろうか? ただのノリみたいな感じの発音にしかなっていない気がする。
何も上手い事ができていない。綺麗な動きにもならない。気に入らない。
招かれる手に従って足を進めると原っぱの様な場所に出た。
施設の中庭みたいな感じなのだろうか? いや、それだと施設がすごい大きくする必要がでる。
柵の様なモノの一か所にあの施設が建てられているみたいな感じの方が適当だろう。
「ようこそ。ここから先が転生者の国、アウターガーデンだよ」
……。なんかこう急に施設名とか聞くと違和感がすごい。
今までの感じだと特別に名前をつけるのを避けているのでは?
表向きの名前は2文字縛りで隠すところも変だ。
そういえば王都の名前も聞いた事がない。都市の名前もない。
動物図鑑には動物の名称があったけれど、それは種類としての名前だと思う。
個々を特定するための名称を決めているのだろうか? それも隠していそう。
なんか考えると何でもかんでも隠している気がする。
名前をさらす事に恐れを抱いている様な感じ。
名前を知られるとそれで縛られるのだろうか?
「それで転生者は?」
名前をつける事で縛る。所属を確定させる。帰属意識を刺激する?
命令を利かせやすくする? いや、それ以上の可能性もあるのだろうか?
だとしたら名前を明かす事は自分の命を担保にする程の誓約になるのだろうか?
そうだとしたら等級審査の時のお姉さん、すごい事しているな。
こちらの常識がない転生者は既に名前を縛られている可能性があるだろう。
魔法のある世界で名前は重要な意味を持つ……可能性がすごい高い。
お婆に名前を取られるアニメ映画とかあったよな。
あれの場合、縛られる時間が長い程に自分の過去を失って出自を忘れ、最終的にはお婆の使い魔と成り果てるんだったっけ?
そういえば俺の場合はどうなるのだろう?
俺に名前、本名と言えるモノがあるのだろうか?
命名ルールとかも知らない。俺の場合、誰が名前を付ける事になるんだろうか?
「それはお待ちを」
にこにこ。このおじさんは本当に胡散臭い。
まぁ、おじさんからしてみても、俺は降ってわいた面倒なクソガキか。
お互い名前を言わないくらい、互いに腹の探り合いで忙し過ぎる。
好意的な感情を抱くわけがない。
なんなら現在進行形で人質を抱え続けている。精神的な負荷は如何程か。
それを押し隠してニコニコとする。その胆力は人並み外れているだろう。
はらわたが煮えくり返りそうな状況で、最適な解決法を模索する。
俺にそんな腹芸ができるだろうか? いや、勝手になるな。仮面が頑張ってくれる。
俺自身は成れてにぎやかし程度だろうか? 勝手に狼狽え嘆き罵りそうだ。三下だな。
「そう。早く案内して」
生意気度数は百を越した。対象の怒りは上昇。となるのかな?
少なくともイラッとレベルはすごい高いだろう。俺だったらドン引きして関わりたくないと思う。
アニメで見たら早送りできないかな? って思うストレス値だ。
一瞬俺が表面に出たけれど、またお嬢に主導権を譲ってしまった。
まぁ、俺が表面に出ても話は進まないので、これが都合がいいのだけど。
人間性が死んでいるな。仮面で話すお化けか何かかな?
大人な対応をされるとガキっぽさがすごくなるな。
やっている事が精神的にガキだというのは間違いないか。
見た目に合わせた行動だからまだマシか? まぁ、毒だな。
「お嬢様の仰る通りに」
接待プレイここに極まれりかな? 変なテンションにおじさんも陥っていそう。
この腹芸を考えるとやっぱり物語ならネームドキャラ。幹部級だよな。
いや、単なる能天気か? さすがにそれはないか。バカなら既に情報をボロボロとしている。
人質を取らなければ今でもたぶんあの倉庫でダベっていた可能性が高い。
ただの時間潰しが一番の敵。というか相手の狙いは時間稼ぎの可能性が高いのだ。
今のこれも時間稼ぎではない可能性が低い。可能性可能性可能性と確定事項の少なさが悩ましい。
沈みそうな陽の赤さが辺りを染めていく。ようやくこの長い一日が終えるのか。
くるぶしくらいの高さの単子葉植物が脛を擦る。
イネ科みたいな植物ってここでも繁栄しているのだろうか?
「これから向かう場所には建物があるの?」
人が闇雲に踏み潰すと、双子葉植物は上手く生える事ができないだろうと思う。
単子葉植物は踏まれた時に横に倒れるが、重みが除ければまたすぐに元の形に戻る。
双子葉植物は踏まれると茎のところがぽっきりいきやすい。一度折れるとなかなか戻らない。
完全に折れた後の回復力という面では単子葉植物よりも高いと思うけれど、短期的に見ると丈夫さは単子葉植物の方が上だと思う。
成長速度とかも構造の簡単な単子葉植物に負ける。最終的に大きくなる素養があるのは双子葉植物だけれど。
俺は単子葉植物か、双子葉植物か。いや、そこに至れないただの地衣類か。
その辺の雑草や多年草、大きな木。ただただうじうじと湿気った場所で繁茂するコケ。
俺の現状はそこらのコケと同じだ。しみったれている。陽を浴びれば枯れる雑魚か。






