308、魔力の源は何か?
頭の上にいるこの人は連れ帰る場合、おじさんにこの人は殺されるだろうか?
おじさんの感じ的には殺しもあり得るだろう。できれば殺したくない程度だろうか?
まぁ、殺さないと思われたら俺はさっさと出て行っただろうし、そう思わせる程度の酷薄な意思を示さないといけなかったか。
おじさんは捕まえるのが難しい。動きの先読みか何かで今の速度じゃ捕まえられない。
速いんじゃなくて上手いというのが難点。速いんならたぶん速度を合わせられたから捕らえられる。
遅いのに捕まえられないのが困る。俺の動きが直線的で、読まれやすいのが難点なのだろう。
反応できない速さで動けばいいのだけど、それだと体を真っ二つにしてしまいそう。
殺してしまったら元も子もない。そして加減できる気もしない。加減ができたら苦労しない。
最悪殺してもいいのだろうか? 殺して身元確認? なかなか死なないタイプの敵って後々祟ってくるよね。今殺した方が禍根を残さないかもしれない。
「剣呑な目をしているね。君の力はわかったから、こちらのモノを見てみないかい?」
なんかこうコートの下が裸の人を想像してしまった。不審感と不快感は同等か。
身の危険自体はたぶんそんなにない。この体を捕らえるのは難しいし。
マグマに落として沈めて、上下感覚をなくさせながら、流動で壁に届かせない様にして、活動時間が切れるのを待たないとムリだと思う。
やっぱりこの体を封じるのけっこう難しいのでは?
暴れるのを制限しなければなんとかなる。物理の壁は破壊すればいい。魔法は栄養。
肉の壁は栄養にしかならないというのがエグいな。宇宙空間に放り出されたらキツいくらい?
マグマよりも宇宙空間の方が無力化しやすい?
どうなんだろう? この体は呼吸も要らないし、適当な星を蹴っていけば戻ってこられそう。
マグマも小さいところなら壁を見つけて出てこられる気がする。化け物? 化け物だな。
「見る」
うん。ぶっきらぼうに言ってみた感じだけど、端的にいってスネた子みたい。
でもこう見せてくださいみたいな言い方をするのは状況に合わない。
見せろもなんか違う気がする。おじさんがもう見せようって言っているんだから。
俺の語彙力って自分に向けたモノでしかないから、ほんと実社会で役に立たない。
コミュ力が欲しい。俺に足りないモノ過ぎて色々つらいから、本当に欲しい。
変な想像力は売る程ある。でも変な想像力しかない。それも妄想寄り。使えない。
情報は集める。でもそれをちゃんと活かせる自信はない。
自分が動く分にはまだ使えるかもだが、人と共有する技能が足りていない。
すぐ人を疑うのもダメ。そもそも信用して人に情報を渡す事ができると思えない。
「うん、じゃ、行こうか」
手招きをし部屋の奥に向かっていくおじさんを見る。
このまま後ろから行けば捕まえられるだろうか? 微妙か。
扉の向こうの通路も広そう。これが2人肩を並べられる程度なら仕掛けても良かったかな?
このお荷物は物理的に視界を邪魔してくるし、捨て置いたら逃げられそう。
逃げられたら捕まえられるかな? 捕まえられる気はする。でも手間が増えちゃう。
情報を出来るだけ多く得るためには活かしておきたい。どちらも捕まえられないのが最悪の展開か。
選択肢はそんなになさそう。情報を諦めるか、死ぬ可能性が高いお荷物を持ち帰るか、情報を手に入れるために踏み込むか。
俺的には踏み込むを選択した方が今後のためになるとは思う。
知っているか知らないかで、選べる選択肢の幅は大きく変わるし。
「この近く?」
見せるというくらいだ。きっと近いのだろう。
この近くに組織の拠点があるというのだろうか?
不思議だ。王都などから離れているだろう場所にあるなんて。
いや、ここには転生者の集団がいる。
そこにこの組織の秘密があるのかもしれない。
そう考えると魔力のアテというのは転生者なのだろうか?
転生者は叛乱の素養は十分にあるだろう。
展望を考える事ができない人物であれば、自分の敵だと現政府に対し認識している可能性が高い。
物語的に見たら現行政府のやり方は転生者にとって酷いモノだろうし。
「そうだね。割りかし近いよ」
リク君と作り上げたゴーレムに似たもの。転生者が作っていたのを画面越しではあるが見た。
そう考えればリク君に匹敵するだろう魔力量を持っている存在はいるのが確実。
十分な魔力を持っているのに、この集落で大人しくしているというのがおかしいんだ。
力を持っているのに、それを活かせず、不自由な生活を強いられていると認識している場合、人はどうする?
不満を持たないだろうか? 持たないわけがないだろう。きっと持つに違いない。
俺とは違って、コミュ力がある存在なら、なおさら色々不満を抱えると思う。
何故自分は恵まれた力を持つはずなのに。
何故自分はここの言葉を理解するのが遅かっただけで。
魔法で色々できる程。前世の記憶が色濃い程。手にできるだろう環境に強い憧れを抱く。
それが本当にここにあるかはおいておいて。
「転生者?」
漏れ聞こえる言葉を理解し覚えていく事で、現在の自分の状況を認識する。
だが聞こえる声はたぶん反体制派の声ばかりだろう。
隣の芝生は青く見える。自分が苦境にいると思えば、相手が持っているモノが優れたモノだろうと幻視する。
転生者が前世のこういうモノがあるのか? と聞く。
反体制派は見た事がないが、きっとあるだろうなと言う。
そこに技術の差がほとんどなかったとしても、あるんだと信じられてしまう。
そんな状態で外に憧れを抱き続けたらどうなる?
自分と一緒に行動しようと、反体制派が誘ったら?
状況に流されて、自分が得られるはずだった環境のために、邁進しないだろうか?
そんな環境が世界に存在しなかったとしても。
「あ、わかる?」
転生者と反体制派の相性が良すぎる。
そこには利害が一致する関係ができてしまう。
転生者側はそんな理想郷があると信じてしまったら、それにないと言い募ってもけちょんけちょんにされそう。
言葉の問題がとりあえず大き過ぎる。
もしこの場所から解放されたとして、言葉が通じないのに、どうやって生きるつもりなのか。
社会は構成人数により、その便利さを変貌させていく。
鉛筆1本を作る話が思い出される。
木は南アメリカとか、芯は……と、それを安価に作るためには様々な地域の連携に加え、色々な手間や作業がある。
どんなに優秀な人でも1人ではこの価格で作る事ができない。確かそんな話。
「この場所だからそれしかでしょ?」
この反体制派が主流になったとしても、転生者は別に裕福な暮らしができるわけがない。
言葉が通じないというのは、社会の歯車として立ち回れないというデメリットを抱えている。
同じ言葉を共有するモノ同士の間であればまだ何とかなるが、小さいコミュニティである程、世界に対する影響力が低くなる。
反社会的勢力なら小さくても影響力はあるかもしれない。
でも反社会的な組織は社会から外れた存在でしかない。
恐怖や暴力は大きいモノに寄生する程度にしか使えない。
搾取は全体の流動を抑え、物事を小さくしていく。
使えるお金が少なければ不必要なモノを買わなくなり、売れないモノを作る余裕がなくなる。
余裕がない世界の娯楽文化程、貧しいモノはない。売れ線とされるモノ以外は商品にならないのだから。
「君もそうだと思ったけど違うのかな?」
誘拐された原因はもしかして服装だったのだろうか?
観覧の際に着替えたきり、甚平みたいな和服のままだし。
反体制派の人からしたら、自分達だけが知っている抜け道から抜け出した転生者にしか見えなかったかもしれない。
間違えて運ばれた可能性はなくもないか。






