305、ちょっと怒った
「おじさんはおじさんだから疲れちゃっているんだ」
苦笑する様に言う。本当にそう思っているのだろうか?
いや、実際そう思っていそうな口ぶり。なんとも言えない。
若い頃は無鉄砲で、色々無茶した過去でもあるのか。
いや、でもそこまで無茶はしていなさそう。尖っていた時代とかはたぶんないだろうな。
むしろやらなかった分くすぶりが強い感じか? やらないでいると火傷して変なくっつき方する。
俺の存在が火傷をちゃんと処理しなかった場合の病状そのものだな。治すの大変だわ。
ほんと治るのかな? コレ?
「何もしていないのに?」
憶測でモノ言うな! それ絶対確定情報じゃない!
ほらなんかおじさんの頬がピクってしているじゃん!
いや、まぁ、情報を引き出すために怒らせる必要は多少あるよ?
あーうん。これで実際ナニをしたかを言ってくれたら助かるけどね?
なんかこう人を傷つける様な言動を続けられると悩むわ。
俺はそんなのじゃないと思うし。うん。自虐はできても他人はムリだわ。
でも自虐の方向性を変えたら、他虐にできるという証左かもしれない。
自虐するものは他虐の才もあると考えると、あまり自虐もするモノではないな。
そもそもそれが自分相手だろうが、常にマイナス評価を下していて、真っ当なモノの見方ができるわけがない。
過小評価も大概にした方がいい。それはいつか周囲をさげすむ事になるから。
「おじさんは何にもしなくても疲れるんだよ」
あ、このおじさん怒りに耐えた。たぶん喉元まで色々と言葉が来ていただろうに。
うん、ほんとウチのお嬢がすみませんね。でも情報はください。情報が足りないんだよ。
言えないのだろうけど、いっぱい色々頑張っているよね。でもそれ言ってほしいんだ。
お嬢もだけど、それを止められない俺も意地が悪いな。
環境が彼を悪人にしたとして、悪人であるから石をぶつけてもいいと考えているのだろうか?
俺も清廉潔白と言えない癖に、それをしようなどとホント意地が悪い。
所詮俺はヒトデナシか。人間になれない分際で、正義面をしようなど鬼が笑う。
正義。それこそ立場によって変わるモノだ。自分に不都合なモノを殴りたい時に使う口実に過ぎないくせに。
自分が人に良い様に見せたいがための行動など、正義面よりも酷くはないのだろうか?
「おじさんって何歳なの? 50歳?」
いや、おい。どうみてもおじさんおじさん言っているけど、30代前半かもっと若いだろ!
いや、筋肉の感じというか、雰囲気的には30代後半くらいだとは思う。
でもだ。それは徹夜とかの疲れが透けて見えるからで、実際はもっと若いに決まっている。
マンガ的な展開で、実年齢はすごいけど見た目は若いとかもあるのかな?
だとして適当に言った年齢が当たっていたらちょっと面白いな。
まぁ、さすがにあり得ないと思うけど。あり得たら色々やばい。
もしあり得たとして、どんな仕組みだろうか?
魔力量の線は薄いと思う。一等級でも年相応に歳を重ねるのは見ている。
何か邪法というか、ヤバい事に手を出している気がする。一般的な人が手を出せない様な事や偉い人でもやらない様なことを。
「そうだよ」
あ、嘘つきだ。絶対嘘つきだ! ねぇ、このおじさん嘘ついているよ!
し、見ちゃいけません。嘘つきは泥棒の始まりですからね。誘拐されるよ!
うん。もう誘拐はされているね。あぁあ。
ボケはそのくらいにしとくか。
とりあえず適当に流そうとしているんじゃないかな?
もう少し年齢を近めにした方が動揺を誘えたかもしれない。
ハッタリばっかりかましているからダメなのか。
こちらが情報を狙っているというのが分かりやすいというのもいけない気がする。
そろそろ面倒に思われていそう。いや、とっくに思われているか。
「ねぇ、おじさん。帰ってもいい?」
挑発的。煽る様にあくびもしていく。
おじさんはお嬢をそんな子に育てた覚えはありません!
まぁ、俺もお嬢を育てたという自覚がないのだけど。
自覚がないだけで、お嬢も俺自身だとしたら、俺が内側で育んだのだろうな。
ここまで計算高い子を内側に育てている癖に、俺ってろくな計画性がなくて笑える。
計画は先がある程度予測がつくから出来るんだと言い訳をしたいが、もっとやり様があるだろう。
いや、ムリか。今日この誘拐騒動も予測が出来なかったのだ。
誘拐に託けて、ここでの動き方を色々考えてはいる。情報を抜き取りたいとかね。
だがそれは短期目標で、長期目標ではない。長期目標が全然立てられない。
「だーめ」
うん。イラッとしたのでヒッポグリフ寮にマイナス5点。
魔法使いの学校は関係ないな。頭がボケたくて仕方なくなっている。
スチャラカしてる。今俺はどういうテンションなのだろう?
他人事というのが近いかもしれない。
自分事なのにお嬢に会話を任せて、近くでタイコを叩いて煽っている。
ひどく性格が悪い。こんな性格の悪さだから悪い子が出てくるんだ。
純真で綺麗な子ならこういう発想にならないのだろう。
お花畑でキャッキャウフフしている様な類の頭ならきっと良かった。
そこまで行かなくても、人を信じる事に抵抗がないなら、それだけで人生が変わった事だろう。
「うん。帰るわ。じゃあね」
まぁ、足を止めさせる力もないのに、お嬢を止められるわけがない。
この身を止めるのは人と争わないためだった。それも俺基準でのルールに過ぎない。
その枷もないのに、この体を誰かに止められるわけがない。
ほんとね。最初から何も得られないなら帰れば良かったんだよ。
お話をする意味もなかった。あ、このおじさん捕まえて帰ったらいい感じになるんじゃない?
ちょうど俺を縛っていたロープもあるし、適当に括って引き摺れば死なせる心配はないよね。
いい感じの情報収集になるかな? どうなんだろ?
さすがにそれは都合が良すぎるって感じになるかな?
まぁ、まずは捕まえないとか。
「おっとそのロープをどうするのかな?」
スかった。さすがにのんびりと動き過ぎたみたい。
もっと速度を上げよう。スイッチの切り替えはどうやるんだっけ?
時間感覚の延長ってけっこう難しい。
クマの時はモフモフしたいって思っていたから発動できたんだろうか?
欲望に忠実ですね。おバカですか。バカですね。大バカ者です。このたわけ!
あぁ、もう体が遅い。全然捕まらない。このおじさん、けっこう素早いな。
割かし本気で捕まえようと思って動いているはず。
備品を壊さない様に、力を入れすぎない様にしているけど跳ね回っているんだよね。
ロープで体を切断しない様に、ギュッと握らない様にはしているけど、なんで捕まらないの?
「お嬢ちゃんはヤンチャだね! そんなにロープを振り回しても捕まったりはしないよ?」
こにゃろ。予備動作の類とか作らなかったはずなのに、なんで避けられるんだよ?
この体は力が強すぎるからタメとかいらない。タメたら力入り過ぎでむしろダメなんだよ。
言い換えれば動きの方向性が読みにくいはずなのに、どうして動きが読めるんだ?
このおじさん。1人で人質の番をするくらいには能力を信頼されているって事なんだろうね。
まさかロープを引きちぎられるとかは想像していなかったと思うのに。
いや、それも想定していた? 俺がゴーレムで人間を超えた力を持っている事を知っていた?
だとしたらこのおじさん、生身で俺とやり合えると思ってここに居たという事?
そうだとして俺は自分の力を予測される行動をどの程度とっていた?
本当に分からないな。そもそもこのおじさんは本当に何者なんだろう? 何が見えている?
「なんだ? どうして子供と追いかけっこしてんの?」
構成員A! 捕まえるのはお前でもいいな!






