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304、仮面の暴走

「普通ねぇ。普通って何かな?」


 他の人と同じ様に過ごせる事。


 おかしいよな。なんで特段そういう事を意識していないのに変な生き方をしているんだろう?

 普通はさ、特別な人になりたくて、普通がイヤというのだろう? それでも普通から抜け出せない。

 俺は普通になりたかった。ただただ普通に努力して、それの失敗や成功を悔しんだり、笑いたかった。


 環境に揉まれ、自分が不幸だと思うのも、ある意味で普通だ。

 波に乗って調子がつき、幸福の絶頂というのも、成功者の典型と言えるだろうか?

 俺はなんだ? 何かの典型だろうか? 分類できる何かだろうか?


 転生して力を見つけるのはまだテンプレ。力を得てそれを振るわないのがおかしかった?

 だがしかし力を振るうべき瞬間などなかった。振るわなくても異常扱いされたけど。

 環境を変えようと思った。逃げようと思った。それの果てがこれか。転生者の典型にもなれてない。


「わからないよ。この世界の半分以上の人が過ごすような生活が普通なんだと思う。こういう風に誘拐されるの初めてじゃないけど、これは普通じゃないでしょ?」


 その時の保護管理者の手から離れた場所に移される事、ほんと多いよなぁ。

 誘拐らしい誘拐といえばユエさんのところだけど、あれ以外も場所を転々としている。

 1箇所に立ち止まる事って本当にない。自分で離れる事も、他人の手で離れる事もある。


 よく顔を合わせる気心の知れた間柄とか、すごい憧れがある。

 そういう間柄でないと仮面を剥がすのは厳しいんだよな。転校生案件に似ている。

 初っ端から馴れ馴れしいヤツとか怖いじゃん。最初は敬語で徐々に解放していく。


 まぁ、こんな事を考えていても、前世で友達をちゃんと作れた試しがない。

 そういう人間性なのだろう。仮面ばかり発達して、中身はぐずぐずのお子ちゃま。

 お子ちゃまと言ったらお子ちゃまに失礼だな。お子ちゃまには成長の余地がある。


「え、初めてじゃないんだ?」


 素っ頓狂な声で驚いたフリをする。いや本当に驚いているんだろうか?

 どうなんだろう? わからない。どっちにも捉えられるから辛い。

 本当に驚いていたとして、裏でモノを考えるくらい出来るだろう。


 そもそも何も考えていないという事があり得ない。

 言語化した思考はなくても、過去の経験などを勘という言葉でごまかして参照しているモノだ。

 俺の思考はそういう意味では不完全。咄嗟の言葉とかも出てこないのだから。


 目の前のおじさんの行動から見るに、裏を作るのは容易いはず。

 こうやって相手の裏を想像し、もはやそれを願っているとまで言えるのは笑う。

 そうやって生きた結果が現状なのだろう。ほんとバカだ。でも今はそれをするしかない。


「そうなの。それでおじさん達は私を誘拐して何をするつもりだったの? まさか私の体目当て? 変態なの?」


 うわぁ……。お嬢ないわぁ。いや、そうした理由はわかるよ?

 あり得ない選択肢と大義名分を掲げる連中なら否定したいモノを提示したんでしょ?

 否定したらそこから踏み込めるから。反応を見て要求を推測できる情報を得ようとしているのかな。


 ボロはださないだろうけど、身代金とか言って都合のいい逃げ道を口にしない。

 身代金とか言い出しても、何とでもなるけれど、どういう風にするのが楽しいだろう?

 うん。おじさんで遊ぶな。悪い子だな。


 楽しいと思うのはお嬢だろうか? お嬢の思考が俺に浸食している? いや、まさか。

 というかお嬢はコレを楽しんでいるのだろうか? 何というか怖いな。

 嗜虐的なヤバいヤツじゃん。俺にそんな性癖を植え付けないでくれますか? マジで。


「身代金だよ」


 うん。そういうよね。まぁ、予想はしていたけどね。


「嘘。嘘つきの言葉は要らないって言ったじゃん」


 冷たい声をだす。この体ってそんな冷たい声を出せたんだ。びっくり。

 そういえば俺はいつ体に戻れるんだろう? 戻るタイミングがゼロ過ぎない?

 もしかしてお嬢は俺の体を完全に乗っ取るつもりなのでは? いや、流石にか。


「私ね、誘拐された経験があるって言ったよね。なんで無事だと思う?」


 あの。なんでですかね? ロープを引きちぎった意味はなんでしょう?

 バケモノ性を出さない方針じゃなかったですか? かったるい? いやいやいや。

 今バケモノ性を出せば受け入れられやすい? 本気? それ本気? マジか。


「私を捕らえたままでいられないからなの」


 嘘つけ。そこただ成り行き任せたらいつも逸れているだけだろ。


 あぁ、うん。そうだな。そうだよな。今はこの組織と接触したばかりだ。

 人だと思わせといて化け物と後から明かすのは敵を増やす。

 化け物だと始めから伝えておけば人の様と思われる程味方を増やしやすい。


 俺自身がそう考えていたのだ。わかる。でもそれをするべきだったか?

 俺ができない事をお嬢がしていく。踏み込みきれない部分をやっていく。

 俺の望んでいる普通に近づいているかもしれない。俺の手から離れる事で。


 だがこれで本当に俺は普通に近づいているのだろうか? 思考停止では?

 お嬢に任せる。それは他力本願な気がする。だが流れるべき方向に進んでいる気もする。

 俺だとどうしていた? 途中で黙ってしまっていた気がする。何も思いつかなくて。


「おじさん。あなたの手には今、私がいる。何がしたい?」


 うん。何を言っているんだ、お前は。


 おじさんよりも俺の方がお嬢に驚愕させられている気がするわ。

 力が手にあると認識させる事で、暴走させようとしているのか?

 いや、うん。何さらっとおじさんに近づいているんだ。


 え? おじさんの手に触れた? 何を意味深に笑っているんだ、お嬢は。

 パーソナルスペースを侵す事で、現実だと認識させる? 感情をバグらせる?

 俺相手なら効くだろ? あぁ、うん。否定しない。否定できない。


 というかどんだけだよ! え、分からねぇ! 俺の中にいるのか? コイツが?

 分からない。マジで分からない。いや、多少意味が予想できるからいるのか? マジで?

 こんなヤバい頭のヤツが本当にいるのか? 俺、そういうの理解できない方だと思ってた!


「おじさんは別にね……。小さな女の子は趣味じゃないんだよねぇ」


 ……。おーい。お嬢。おま性的に誘われたみたいな解釈されているぞ。


 うん。バカ。


「ち、違うんだからね! 私は力が欲しいかと聞いているの!」

 

 やーい、ツンデレー。バカー。アホー。


 うん。こう詰めが甘いところは間違いなく俺だな。

 ダメな部分はなんでこうも認めやすいんだろう?

 自分自身に否定しかしたくないからだな。たぶん。


 なんか上手くいって調子に乗っている自分ってすごい叩きたくなる。

 自分の事がどんだけ嫌いなんだよ。前見て歩けないレベルじゃん。

 本当は調子にのって鼻高々としているのがいいんだろうね。認めたくないけど。


「うんうん。そっか。大丈夫、力は今そんなに要らない」


 冷静さを取り戻させてしまったか。残念。

 性的なモノを知識として持つ癖に、それに対する耐性はほんとないよな。

 自分がそういう風に見られるのはそんなに嫌か。嫌なんだな。


 感情的な部分でそういうの理解できないんだろう。何せ人間を同族と見る事ができないんだから。

 イヌにそういう意味で好かれた方がマシ。イヌは形態が違うからそうなんだねで済ましやすいし。

 人間と一緒に過ごし過ぎて、自分を人間だと思っているイヌって可哀想可愛いよね。

 

 俺は自分をなんだと思っているのか。人間の亜種だろうか? ライガーみたいな。

 オスのライオンとメスのトラの間に生まれたライガー。彼等には生殖能力がないな。

 ライガーにはそういう本能はあるのだろうか? なさそうだ。

 温厚な個体が多いという話からして、自分にそういう能力がない事を悟っていそう。

 いや、それ以前に他者にそういう能力があるという事すら知らないのだろうか?


「そっか。おじさんは望まないんだ?」


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― 新着の感想 ―
内なるお嬢様が対おじさん特攻ラノベヒロインへと変貌しようとしているのじゃ〜!
[一言] お嬢様とおじさんの漫才に乞うご期待!
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