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303、会話

「おや、嬉しいね。そんな大物に見てくれたんだ?」


 クスクスと笑う。目がニコニコしている。どういう感情なんだろう?

 本当に嬉しいのかもしれない。わからない。大きく見られて嬉しいとかだろうか?

 どの可能性が強いだろうか? 幹部? ソロ? 幹部っぽいんだよなぁ。


 小生意気なクソガキがなめくさった態度を取っても怒らない感じ、人としての器が大きそう。

 自分で手一杯にならず、人の面倒まで見られるくらいに、気を利かせられるかもしれない。

 本人が多少ドジったとしても、人柄的に周囲に助けられる気もする。


 がんばって全部1人でやる人は超人の様に見える。でもそれは最適とは言えない。

 もちろん全ての仕事ができるに越したことはない。だが余裕ない様に見えたらダメなのだ。

 余裕がない人に誰が相談をする? 自分が失敗した時にフォローをお願いできる? ギリギリの人にそんな事をしたい人は破滅主義者しかいない。


「大物だと思う。落ち着き方が下っ端感ないし」


 多少は部下がいないとこの落ち着きは出ない。あ、いや、後輩とかでもいいかも。

 自分が落ち着く事で部下に「後ろは任せろ」と示す事ができる。その経験があると思う。

 数名じゃこの貫禄はでないんじゃないかな。いや、流石にそれは言い過ぎか。


 理性的な振舞いと余裕の出し方、その他もろもろがそこそこの地位にいる様に見せる。

 元からそういう資質のある人はいるが、自分がその立場に置かれる事で、初めて出来る人もいる。

 たぶん俺は出来ないけど。知識とか動き方は分かっても、その通りに行動できると思えないし。


 俺は演技ならできるかもだが、分かりやすく演技になってしまうと思う。

 それで人が頼ってもいいと思える様な雰囲気を作れるとは思えない。

 そういえば学校の時も勉強の際「天才型でしょ? 凡人の私達には~」みたいな事を思われてたの思い出した。

 ちゃんと考えてる。一から説明できる。口下手で終わるけど。人に説明するのに慣れていないから。あの時は特に人と話す事を諦めてたし、言葉が出なかっただろうな。


「ありがと。残念ながらおじさんはそんなに大物じゃないよ」


 ニコニコと言う。気持ち雰囲気が柔らかくなっている。機嫌が良さそうだ。

 だがこのおじさん、地位が低いと思えない。人に頼られる事が多そうだし、面倒事はちゃんと避けて、人に嫌われない様にいい立ち位置にいるのが上手そう。

 いや、下に好かれ過ぎで、上に嫌われ、閑職に回されるとかはあるか。


 そのパターンだと面白いな。今は神輿になるには起爆剤が足りないって感じになりそうだし。

 もしその起爆剤に俺がなる事ができたら、俺もいい立ち位置に回れるんじゃないだろうか?

 いや、だがこの組織は犯罪も辞さない危険な組織だ。あまり深く関わってもいい事はない。


 汚れ仕事を上から押し付けられたと思えば、確かに今は下にいるかもしれない。

 このおじさんが自分から汚れ仕事をする様な後先も見えない鉄砲玉だとは思えないし。

 でも叶えたい事があってこの組織で、汚れ仕事も辞さない覚悟で働いているかも。


「事情がありそう。何がしたいの?」


 狙いたいよね。自分が力を振るえそうな場所。

 結局のところさ、我慢ばかりしているから、鬱憤が溜まるんだよ。

 我慢しているというか、我慢せざるを得ないというか。


 クソガキモードでも、自分の出来る事を確かめるのは楽しいものだ。

 お嬢が俺なのかは怪しいが、たぶん俺なのだ。たぶん。メイビー。

 いや、ほんと俺だよな? 俺じゃなかったらすごい怖い。


 俺じゃない場合、お嬢は何者だ? どこから来た? いつから居た?

 鏡に向かって俺は誰だと問い続ける拷問じみてくる話になってしまう。

 あれは最終的に精神的に廃人になるとしか聞いた事がない。まぁ、もう壊れているか。


「したい事は特にないかな……。仲間達の場所さえ守れたらそれでいいしね」


 固まっている。自分の場所はここと定めている。そんな声だ。

 上がどうとかは気にしていない。ただ自分の心地良い空間を維持したいだけ。

 未来への期待もない。ただその目に映るのは自分を慕う者だけという感じか。


 ただこういうタイプって圧倒的な暴力によって、自分の場所を崩されるのがお話ではよくある。

 そこから復讐に燃えるか、燃え尽きて過去の亡霊となるか、はたまた別の姿になるか。

 このおじさんの場合、復讐に燃える程の熱はなさそう。けれど燃え尽きてしまう程弱いとも思えない。


 表面上はヘラヘラとして、過去の思い出を抱えて、向上心と似て非なるモノで、組織の上を目指す気がする。

 仇を見つけたら笑顔で近づいて背後からナイフを突き刺すんじゃないかな。

 仇をとって少し黄昏れて、でもそのまま前に進み続けそう。すごい主人公感。


「本当にそれだけでいいの?」


 悪魔の誘いかな? 力だけは一丁前に持っているからの傲慢。

 圧倒的な強者だと匂わせる。異常な存在だと主張する。

 お嬢は遊びたいのだろう。猫の好奇心。眼前の鼠を料理したいのか。


 うん。危ない思考になっているわ。攻めすぎだ。

 だがこれで相手を揺らし、真意を引き出せれば、確度の高い情報となるだろう。

 そういう意味ではいい手なのは間違いない。


 別にこちらから何をするとは言っていないのも大きい。

 別に契約を破る事ができない悪魔でもない。信用も何もない無機物に何を望むのか。

 ゴーレムだけど材質はもしかしたら有機物かもしれない。柔らかくもあるし。


「そうだよ。おじさんはそれだけでいいんだ」


 優しい笑顔。ニコニコとしている。本心から言っていそう。

 とりあえず演技派の可能性は残しておくべきか。

 演技だとしたら名優かな? 主演男優賞の受賞候補だろ。


 予想が多過ぎて困るな。そもそもこちらが都合よく解釈し過ぎたというのもあり得そう。

 というか相手が想像している設定に乗っかって演技をするのは割かし簡単だ。

 高校の時演劇部でやったエチュード、即興劇がそうだった。俺はアドリブが苦手で下手だったけど。


 あれは慣れている人ならいくらでもその場限りの設定を付け加えて遊べる。

 上手い人は辻褄合わせも綺麗で、元々決まっている台本があるかの様に動く。

 本を読んで、色々な状況を予想できても、人に合わせる事ができない身ではアレはほんと難しい。


「そう」


 深追いをしないか。いや、できないというべきだな。

 推しまくっても意味がない局面だ。推してもそれをさせたいんだなと印象つけられて警戒される。

 もし推すならトラブルとかで、メンタルが終わった瞬間だろう。


 溺れる者は藁をもつかむ。それがどんなに怪しいモノでも、危急の時は判断力が落ちるモノだ。

 実際つかまれたら都合がいいところで捨て去るだろう。もっと酷いかもしれない。

 捨てるという意識すらなく、ただただ縁がなくなって、遠くに行くとかだろう。


 俺は関係を維持しようと考える事ができないのだと思う。

 その場その場で「こうあるべきなのでは?」で過去を忘れ去る。

 交友関係という概念が成立していない。人付き合いというモノが成り立っていない。


「お嬢ちゃんは何がしたいとかあるの?」


 普通に生きたい。でもそれは言って叶うモノじゃない。

 そもそもそれは願わずとも叶うモノのはず。別に高望みはしてない。

 人として苦労して生きて、共感をもって人と語り合う。そんな感じのモノだ。


 富裕層になりたいわけでもない。貧民層でも別に構わない。

 ただ自分の力をちゃんと使って、自分らしく生きられれば十分。

 今のどこの何とも言えない立場でいるのは疲れた。コウモリにすらなれないのだ。


 人として生きられれば、たぶんきっと楽しいと思う。

 人のフリは疲れる。獣の如く生きたくても、それも難しい。そもそも獣にもなれやしない。

 破滅願望を自己保身でコーティングした矛盾はどうしようもなく歪だ。


「普通に生きてみたいかな」



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