297、ボタンを押したかった
確認をしよう。このボタンを押すとここが動く。ボタンの先にはバネがあり、押されたモノは戻る。
ボタンとバネの間、棒の部分。ここに穴が開いており、押すことでこの穴の中をあそこのギミックが通り……機械は関係していない、見た目通りの動きをするただの機構だ。
これらの機構がほとんどあの謎プラスチックで出来ている。バネすらもだ。柔軟性が高いんだろうか?
爆弾となるようなモノは仕掛けられていない。軽く内側を触ってみてもおかしなモノは見つからない。
内側の質感はプラスチックそのもの。微妙な温かさに微妙な気分になる。
地球のプラスチックとは違って、木みたいな匂いがする。石油を加工して出来ているという前情報からか、地球でのプラスチックは特殊な臭いがしている気がした。
あの臭い、微妙に苦手だったんだよな。プラスチックに対し微妙な敵意を抱いているまであるから、今世でも妙に意識をしてしまっている気がする。
いやだが、別にそれは関係ないよな? 予想する性質として、燃えにくいとか、衝撃に強いとか、耐水性が高いとか、日にさらしても劣化しにくいとかはあるが、そこに好き嫌いは関係ない。
石とか木の質感が好きで、金属は微妙。プラスチックはあまり。化学の影響が強くなる程、俺は好きじゃないのかもしれない。いやだから好き嫌いは関係ないんだよ、バーカ。
ダメだ。いくら見ても情報が増えない。個人的な感想がでてくるくらいに単純な構造だ。
そもそも知らない植物ばかりだから、感触とか質感とかしか分からないんだよ。
地球の植物だったら大まかな強度を推測できるけれど、それにしたって体感のモノで、金属の棒で叩いたらこのくらいの力で傷がつくとか、このくらいの力で折れるとか、なんとなくな体感でしかない。
何キロの力に耐えられるとか、何回使用したら壊れるとかの摩耗は判別つかない。
ハニカム構造とか、見た目や質感に対し、耐荷重の高さがすごい。
ああいうのはパッと見て、どれくらいの重量が耐えられるか判断できない。
あくまで俺のは体感でしかないのが、最大の問題なんだ。
理性的に考えて刺激を加えて爆発を起こすようなモノを素材にはしない。
もし爆発などを起こすとしたら後付けのモノだろう。
いや、そもそも爆発を起こすとは限らないよな。
「ごめんね。そこのボタンで大丈夫だよ」
苦笑された。いや、うん。散々と言っていい程には奇怪な事象に巻き込まれたが、さすがにこれは気にしすぎだよな。
だが油断してもいい事はない。なにせ俺だ。何もないところに爆弾ができてもおかしくない。
優しい目で見られている。大丈夫だ、これは何の変哲もないボタン。
「すみません! ご歓談中申し訳ないのですが、爆弾がどこかに設置されているとの情報がありまして、車内を確認する必要がございます! 申し訳ありませんが、一度降車をお願いできますか!」
無から生えたわ。
なんでやねん。
なんでやねん!
「わかりました。それではシロ、降りようか」
自然か!
さらっと荷物まとめてもう小脇に抱えてるし!
早いわ!
「あ、あぁ。うん」
ダメだ。ツッコミどころが多すぎて、頭が処理オチしているわ。
もうバチャンっていう音が鳴りそうな程の勢いで開けられた扉とリク君の冷静すぎる対応。それだけでもうお腹がいっぱいだわ!
何かな? これは仕込みありきの劇場かな? 俺だけ知らないドッキリ?
リク君は何かあると予見してた? まぁ、今日は散々と色々起きすぎているからな。
だとしてもおかしくないか? もうこれが日常茶飯事なのか? わからないわ!
いや、俺がベッドの仕組みに気を向け過ぎて、廊下を走る音とかで予兆があったかもしれない。
だとしても唐突が過ぎないか? これはよくある事なのか? というか本当に爆弾なのか?
この通達は脅迫状でも送り届けられたからなのか? どこから? どうやって?
想定範囲が想像しきれない。ほんと無から爆弾が出てきた気分だよ! バカ!
というかサラッと手を引かれてホームに降りているんだけど、動きが早くないか?
もういったい何がどうなってこうなっているんだよ。理解ができないんだわ!
「大変なことになったね」
うん。そうだね。君はなんでそんな自然体なの? ちょっとわからないんだけど。
ほんとわからないんだけど! これが起きる事は想定されていたの?
もしかして仕掛けたのはリク君なのかな? さすがにそれはないか。意味がない。
俺さ、ベッドで寝こける気満々だったりしたんだ。疲れていると思うんだよ。
もうさ。2、3日が秒で溶けるような日々がしたいんだ。
体の使い方を覚える時とか、言葉を覚える時とか、そんな日々だったじゃん。
考える事が多すぎてしんどいまであるわ。
あー、むっちゃ人が出入りしているわ。
みんなヤレヤレまたかみたいな反応をしているのが気になる。
もはやこれは恒例現象なのか? よくある事なのか?
富裕層だけが乗っていると思えば狙われる原因になるのかもしれない。
だとしたらそこまで安全な乗り物ではない? わからないな。
どうやってこの状況を見れば正しいんだろうか?
「もしかしてこれってよくある事なの?」
素直に聞いてみた。むしろ聞かない方がおかしい気がするし。
周囲の状況を見る限り、割りかし頻度が高めの出来事な気がする。
リク君もまぁ仕方ないかな? みたいな顔をしている。
乗務員の方は少し慌ただしい雰囲気で方々に駆けていく。喫茶店に向かう人の姿が多く見られる。
あの喫茶店はこういう事が多いから設置されたのかもしれない。時間のゆとりもそうかな?
詰め込み。すし詰め。事件が少ないから出来る前世のタイトなスケジュールか。
だけれどここってそんな荒廃した無法地帯だったか?
いや、あの貧民街というか、流浪の民の集落というか見たら、無法地帯も普通にあるか。
犯罪を起こしそうな人ほど、都市の外にいるから、都市の中だけ見れば綺麗なんだわ。
「5回に1回くらいかな? 実際にあるのは50回に1回くらいだけどね」
少ないのか、多いのか。予想される敵対勢力の資金力を考えると妥当なのかもしれない。
予告してくる時よりも、予告されない時の方が、実物がありそうで怖いとすら思う。
身元の確認などはどこかのタイミングで行われているとして、それをすり抜けて実際に仕掛けられるというのが地味にヤバくないか。
いや、そもそもすり抜けて入ってきたから、車内点検になったのかもしれない。
魔力なんていうモノがある世界だ。人間自体がそもそも爆弾と言えるだろう。
爆発物を用意するのは意外と簡単かもしれない。
ネネを作った時の俺が余波で数十メートルくらいのクレーターを作ったんだ。
爆弾としてその性能に特化させるなら、あの時の魔力の数十分の一で事足りるだろう。
十分な破損が期待できるくらいの威力だけ望むならもっと少なくてもいいかもしれない。
「誰がそんな事を?」
流民だと予想はする。現政権に対して恨み辛みを抱えていそうだし。
単発よりも長期的な被害を出す事で、経済的な損失を与える事を狙っていそう。
だがしかしそれ以外の相手の可能性も忘れてはいけない。
宗教的なあれこれとかもあるだろうし、何なら傭兵などが自作自演している場合すらある。
想定できる相手の数が多すぎて、結局絞りがつかなくなりそうだ。
そもそも破壊じゃなくて、身代金目的とかも想定しないとダメだろう。
もう色々なヤツが襲い掛かってくるパターンが、一番これといった対策をうてないから、面倒なんだよな。
とりあえず何でもトラブルが起こる前提で、事故が起こると予想できる部分を対策していくしかないのだろうか?
亀になったところで、守るのは攻める事の数倍大変だ。ゲームの強いボスも対策を練って倒されるのだから。
「色々かな? 予告状か何かを出しているみたいだし、今回は流民だと思うよ」






