295、カフェを出よう
頭が死んでいる。
心が停止しだしている。
諦観が治まらない。
あの化け物クラゲ? の魔力を考えれば俺はフルチャージされているはずだ。
つまり3日は何も食べずとも動ける。だからこれは心が疲れているだけだ。
化け物クラゲの魔力で食あたりとか起こしているとかも考えられるか。
消化に悪そうなむちゃくちゃな不味さだったものな。
あぁ、もうリク君がニコニコしているよ。わからないよ。
なんでニコニコしているんだろう? 俺と一緒にいて楽しいのかな?
ただな。俺はもう何も言えないんだ。思いつかないんだ。
「あ、クッキー食べる?」
ウザいだけの評論家みたいな事だったらいくらでも言えるかもしれない。
いや、それにしても他の紅茶の知識がないからただの憶測にもならないモノだ。
口は禍の元という意識が先行して声になる前に喉奥で消えてしまう。辛い。
そもそも俺は話そうとしているだろうか?
いや、そんな意識が保てない程に疲れている気がする。
俺はどうすればいいのだろう? 今はまだ流れに身を任せるしかないのか。
自分で選択をするというのはいつするモノなのだろう?
安定したら? 安定はいつするというのだろう? そんな時期なんてないんじゃないか?
とりあえずやりたい事が決まらないと何もできないか。
「うん、食べる」
クッキー美味しい。
……。
体に釣られてメンタルが幼くなっていないか?
大分頭がやられてやがる。死ぬ気か? 幼児退行か?
俺は成人男性だろ。もっとちゃんとしないといけないのでは?
ダメだ。いや、いいのか。この身は外見年齢と中身年齢が違うのを知られているんだ。
行動年齢を一定化させろ。少なくとも成人しているくらいには。
相応しい動き方がわからない? 考えろ。空回りしようが考えろ。
「美味しい?」
リク君がニコニコ微笑む。光属性全開。後光が強い。バラが後ろで咲いている。
は? どう返せばいいんだ? これはもう一言で返すしかないだろ?
せめて嫣然と微笑んでという形にすれば精神年齢高そうだろうか?
この体でどう微笑んでも微笑ましい光景にしかならなさそうだな。おい。
「美味しい」
んー、甘ぇ。甘い。糖度が高い。恋愛じゃない。兄妹愛系の甘さがする。
もうわからない。表情筋が仕事をしている気がしない。
なんか恥ずかしい。色々困る。いや、困るのは俺だけか。
自分の正体がなくなっていく気がする。
もともと正体といえる様な確かな精神などない? まぁ、分離しまくっているもんな。
まともな精神で生きていたら現状の様にはならないだろう。ばーか。
さっき食べたクッキーの味も分からないくらいに頭が疲れているんだ。
美味しいとはいったものの、クッキーを食べるという事実しか頭に残っていない。
紅茶と一緒に置かれたと思うクッキーに意識が向かなかった。これだけでもヤバい。
「良かった」
また微笑む。黒い自分が溶かされそうな光を帯びて見える。
うじうじしたナメクジには太陽の様な光は辛い。
乾いてカピカピした塊になる前にどこかに行きたい。
あぁ、もうただの暴力を求めている。自分が死のうがどうなろうが、単純な暴力の方がいい。
魔物にでも襲われれば、この体の力を振るって暴れ回れる。その方が爽快感がある。
これは授業中にテロリストが来る妄想をする学生かな。中二病が。
ゲームは楽だ。やっていい事が明確だから。自分だけが観測者になり、自分で何でも試練を作れる。
人間関係には選ぶべき選択肢とか正答もない。やってしまえば巻き戻せない。
現実はただただ耐える時間が多い。考えなければならない事が多いのも面倒だ。
「うん」
空っぽが過ぎる。自分という存在は誰かと関わる事に向いていない。
1人なら何かしているが、誰かと関わるとろくな行動をできない。
そもそも自分が誰かに影響を与える事を好んでいないのがダメだ。
人は1人では人間にはなれない。個人の影響に別の人の影響が重なって、世界が出来る。
俺が影響を拒否すると、そこで俺の世界は破綻し、俺のいない世界だけが周囲にできる。
正確にいえば俺の影響自体は多少あるが、根本的には置物と同じだ。
障害物が置いてある程度の干渉しか、外の世界には発揮されていない。
まぁ、前世では人に迷惑をかける事で、自分の存在を外に示そうとする人がいた。
だがそれらは人間じゃない。ただの障害物に過ぎない。生活環には入らない存在だ。
自分の内側に入る様な、そういう関係性の構築にはつながらない。あれらは人間じゃない。
人間。人間とは? 俺は人間に対して期待をし過ぎていないだろうか?
そもそも俺が思う人間の条件をまとめたらもうそれは人間にはならない気がする。
聖人とか呼ばれる人外メンタルなんじゃないか?
人間を目指して、人間を外れる。どの道壊れているのか。
俺に決定的に足りないのは欲望かもしれない。ただ三大欲求は俺には必要がない。
食欲も、睡眠欲も、肉欲も、少なくともこの体には必要がない。
金銭欲もなければ、収集欲も特にない。名声欲も特にない。
ただただ普通の生活をしてみたいだけ。自分の知らない世界を知りたいだけ。
知識欲はあるのだろうか? あると誤認しているだけかもしれない。
疲れていると眠りたい以外の欲求がなくなる。
いや、それすらも通り越して、不眠症を患い、寝たくても寝られないになる事もあるか。
これを解決するには何もやらずに、旅行か何かして、自然で過ごすのがいいのだっけ?
開放的な空間で過ごして身も心もリラックスをする事が大事だっただろうか。
こうやって考えると俺が自然に還りたいとか思うのは正常なのだろうか?
でも自然に還ったらもう還ってこない気がする。野生化して言葉を失いそうだな。
「お客様、お待たせしました。王都行の特急、ホームに到着いたします。出発は1時間後です。入口は各車両の前方、降り口は後方にございます。出発10分前までに着席していない場合乗る事ができませんのでご注意ください」
館内アナウンスが聞こえる。男性車掌の丁寧な案内の様だ。強めの言葉にも聞こえる。
というか1時間も待つのか。日本の電車は1分も待たないのに。いや、1分は待つか?
いや、それは都心基準か。地方だと5分くらい待ってくれる事もあった気がする。
決まった時間で移動するための時間厳守とか、間隔調整の時間なのかもしれない。
あぁ、でもここの利用者は労働階級とは思えない。そういう意味での時間配分の可能性もあるか。
飛行機のフライトとかに近い感覚場合もあるか。なんというか難しいな。
利用者はどういう仕組みでここにお金を入れているだろうか? 年パス? ワンデー?
バタバタ感もないし、利用料は前払いで、むっちゃお金を払っていそう。どうなんだろ?
年パス持っている事が1つのブランド化していたら、それだけで安定して社員を雇えそうだ。
「行く?」
光多めの流し目。ウン、カッコイイネー。ダメだ。俺はもう素直に受け取れないよ。
なんでこんなに俺は黒い意識にしかなれないんだろうか? 劣等感が強すぎる。
もっと素直に受け止めろよ。お前は偉くない。そして相手に傷つける意図はない。
ひがみ妬み。自分の手が届かない陽の届く世界。勝手に落ちた癖に妬んでいる。
今世はリク君と待遇は何も変わらなかった。勝手に離れて壊れたのは俺だ。
猜疑心の塊。手を伸ばしてもいない。怖い怖いと逃げる。こんな自分にお前がしたんだろ。
明るい世界を思い描けないのは俺自身のせいだ。暗い世界を嫌がるのも俺自身だ。
逃げてばかりの俺には何かを言う資格がない。後ろ向き根性を捨てろ。前を向け。
上を見て目が眩む。下を見て蔑む。そんな醜い俺を嘲笑う。それでいいわけがない。
「行こうか」






