291、まずは駅に行こう
「夜間特急?」
電車あるの? この世界? いや、ない方がおかしいのか? 線路の保全はどうしているんだろうか?
地下は地下で魔物がいるのは間違いない。王都の地下だっているんだし、そこかしこにいるだろ。
そんな危ない地下に線路をひけるだろうか? いや、地上? 地上の方が狙われる相手が多いだろ。
王都は地下に水路があったから、魔物が住みやすい環境になった?
高魔力者の排泄物は魔力の塊みたいな事はないだろうか? だとしたらエネルギー源扱いされそうだな。
魔力自体は下水処理場みたいなところで回収されたりしているかもしれない。
魔力が王都の地下に集まり、地下水路という都合のいい空間が魔物を集めているだけで、他の地域の地下空間はそんなに魔物がいない可能性とかないだろうか?
むしろ王都の地下に集めて、定期的に危険なモノを駆除し、有益なモノを育てるとかしている可能性はないだろうか?
あのナメクジはカビとか汚濁を食べていた可能性があるよな。だとしたらその説は強くなるんじゃないだろうか?
「飛行船はちょっと酷使しちゃったから使えないしね」
……。
たぶんほんとはそんな戦闘が起こる様な旅路じゃなかったんだろうなぁ。
それが俺が壁をぶち抜いたり、巨大なのとか遭遇したりと珍事が多かったよな。
……。俺が壁をぶち抜いたのが一番大きな被害なのでは? 俺が原因じゃん。
色々申し訳ないわ。謝るべきだろうか? 謝った方がいいよな?
どう考えても他に激しい損傷を受ける案件はないよな? どうなんだろうか?
魔力を使用し過ぎたとかあるだろうか? わからない。どうなんだろう?
「ごめんね」
リク君はあっけらかんとした表情からきょとんとした表情に変えていた。
リク君は大してそれを気にしていなかったかもしれない。
いや、しかしリク君が気にしていなかったとして、俺が損害を出したのは間違いないのだ。
他にも理由があるかもしれない。だとしても自分の所業を考えれば謝るべきだろう。
どの程度の熱量で謝るのが正解かが分からないけど、リク君の表情からして深く謝りすぎるとかえって気を遣わせるかもしれない。
謝る事で相手にかえって気を遣わせるのは本末転倒が過ぎる。相手に更なる面倒を押し付けるな。
あの時の再発は同じ人物からのは防げると思うけど、それ以外はどうだろうか? 分からない。
力加減をちゃんと出来る自信がつけば、相手の手とか腕とか握りつぶさないで無効化できるのだろうか?
力加減をミスると飛行船の壁を破ってしまう様な力は危険過ぎるし、ちゃんと適度な力加減をできる様にせねば。その力を振るったら人体とか床のシミになってしまうだろうな。
「1回長距離移動したらデータ取りとかあるからしばらく使えないってだけだから気にしなくていいよ?」
これはどっちだ? ガチで特に問題なくて、俺の過失は杞憂だった感じなのか?
それともあくまでもそちらがメインという体で、心配などはしないでほしいという配慮か?
リク君の表情はあいまいでよくわからない。なんというか生暖かい目で見られている気がする。
とりあえず気に病んでいる姿を見せるのは良くなさそうだな。
それをされていると困るのかもしれない。判断に難しいが、これは間違いないのでは?
だがしかし何も気にしていない様にふるまうのは、それはそれでリク君のメンタルにきそうだ。
あくまで俺の思う一般的な人なら、あからさまに気に病んでいますっていう振る舞いはかまってちゃんの気配を感じてイラっとする。かといってまるで反省していない様な振る舞いをするバカは見てるとイラつくだろう。
まぁ、何も考えていないバカが一番イラつくと思うし、気に病んではいるけども適度に明るく振る舞い、適度に反省の気配を見せるのがいい。
どんな綱渡りだよ。そんな器用な事をどうやってやれっていうんだ、バカ!
「そうなんだ」
深く触れるのはダメだろ。いや、だとしてもこの返事はダメなのでは?
しかし適当な言葉が思いつかない。別の話題を切り出すのは露骨すぎる。
気を遣っているのが露骨だと、相手にダメージを与えてしまう。あー、もうバカ。
人に気を遣えば正しい関係になるのだろうか? むしろ無難を意識し過ぎて壁を作っているわ。
もちろん相手を思いやるのは大事だろう。だがそれはただ気を遣えばいいというモノじゃないだろう。
気遣いを意識し過ぎて話相手が見えなくなったら、それは本末転倒が過ぎる。本末転倒してるわ。
でも今考えているのは考え過ぎではないんじゃないか?
ただ思いつかない事の言い訳と疲れたという言い訳を会い混ぜにしたモノじゃないだろうか?
考えるのに疲れて、投げやりになって、逃げたい気持ちが抑え切られなくなっているかもしれない。
「うん、そうなんだよ」
リク君はほんわかニコニコしている。ごめん、それどんな感情なの……。
この話はここで終わりになるという安心とかなのだろうか? なんかそんな気がする。
だとしたら続けるのは俺にとってもメリットがないので、終わってちょうどいいか。
気持ちのいい空間を作るためにはあえて深堀りしない事も重要だろう。
痛くもない腹を探られると変な気分になるし、かえって反感を覚える事すらある。
そうだと思われて、実際やっていない事をそうだと疑われると、始めはなんだよってなった後疑われ続けたらイラっとする。むしろやってやろうか? までなっていく。
それに似た感覚を覚える事が想定できる。あれはウザい。
イスから立ち上がったリク君にナチュラルに手を差し伸べられて体を起こしているけど、これなに?
うん。ダメだな。頭の中の委員長がのたうち回っている。恋愛脳はこいつが主因では?
いや、ダメだ。これも俺だと認めないといけない。自分だと認めたくなくてもそうなんだよ。
悪魔が委員長を突きまわしている幻影も見えるが、悪魔も俺自身なのだ。
「ありがと」
おい、委員長、爆散するな! 今の一瞬でどこまで想像しやがった!
言うな! 言うんじゃないぞ! フリじゃないからな! イメージ画像を送ってくるな!
悪魔、表情筋の調整ありがとな! ツッコミが追い付かんわ! あぁもう分裂するな!
なんで悪魔が一番の常識人なんだよ。契約を守るからか? 契約を取るための話術があるからか?
話術って言い換えればコミュニケーション能力だもんな。共感能力とかが高くないと成り立たないもんな。
根が悪党寄りだとしても、常人とまともな会話ができるくらいには常識があるもんか。
いや、悪魔も俺の一部だわ。分裂するな。させるな。取り込め。脳内会議するな。
一挙一動でストレス受けて人格分裂するな。この程度で衝撃を受けてたらこの先やっていけないぞ。
動揺する感情を全部人格として放出してたら人外のままなんだ。
「夜間特急はね、寝台がついているからそこで眠ったりもできるよ」
おい、委員長! 急に鼻血を出して倒れるんじゃない! 何を考えているんだ! バカ!
鼻血で掛け算書くな! 間違ってもそういう関係にはならないからな!
え、これ、本当に俺の一部なの? 本当に? マジで言ってる? どんだけ腐っているの?
いや、たぶんこれはイマジネーション腐女子型委員長だわ。
インチキ関西人もそうだけど、記憶にあるテンプレが勝手に人格じみた行動しているだけだ。
ただの知識の暴走なのでは? 現在進行形で起きているくらいだしあり得るな。
恋愛脳というよりもただの耳年増。変な回路が出来上がっているだけでそういう趣味はないのだ。
ちょっと何でも読んでいた弊害で、そういう方向性のストーリー展開も頭にあるだけなのだ。
自分が展開していく方はまずない。そもそも展開できるコミュ力や欲求がない。
大丈夫。俺はいつも通り狂っている。
「今日はほんと長く感じたよ」






