286、ニコニコ
リク君はちょっと困った顔をしたが、ニコニコ顔を崩す事はなかった。
ニコニコマスターめ。全ての表情をニコニコだけで表現するつもりか?
口元の微笑みは形状記憶合金で出来ているんじゃないだろうか?
「大丈夫じゃないかな? シンさんが監視しているしね」
裏ボス! え? さん付けで呼ばれる程度には近い存在なのか、ヤバいな。
どういう関係性でそうなっているんだろうか? ニーナの小屋が関係しているかもしれない。
接点はそこが大きいだろうし。様呼びだとユエさんが煩くなるだろうからさんにしたとか。
主要部分に幼少期から関わりすぎなんでは? ちょっとした伝手が全部王手レベルになっている。
あぁ、うん。そうだな。俺だったら扱いきれず腐らせている伝手だな。
純粋な子供で才能あるリク君だからこそ、ここまで達成できたのだろう。
才能といったらなんか違うな。俺はデメリットでしかない記憶のせいで警戒心が狂っているんだ。
普通の人ならそこまで気にしなくていいと無視できるモノを無視しきれない。
過剰な警戒心は対応する相手にとっても躊躇を生ませるし、なぁなぁが出来なくてダメだ。
「シンさんとは仲いいんだ?」
権力の中枢にいる人と仲が良ければそれだけ色々関われる事が増えるだろうな。
何かをしてもらう事は難しいかもしれないが、管轄事項に鼻を突っ込む事はしやすそう。
鼻を突っ込んで結果を出せば、次の場所への切符になったりするかもしれない。
しかし一個人に力をつけさせすぎると怖いだろう。
ましてその個人が宗教の神輿に成り得る存在だと余計に。投入は劇薬か。
宗教の神輿だから宗教関係に触らせたくないし、かといって別の部門にいれたとして周囲が感化されて、その部門が宗教にかぶれ出したら面倒だな。
既にある部門にいれる事が難しいと考えると扱いが難しいな。
かといって半端に扱えば、自分達の神輿が粗雑に扱われていると思った宗教勢力に刺される。
宗教勢力にも言い訳がつくのは温室栽培か? 必要な材料を外から渡していく隔離に近い方法。
「そうだね。色々良くしてくれたかな」
ニコニコ顔は自分に関わる人の少なさから出来た仮面なのではないだろうか?
自分が悪行をなせば外にいる誰かが傷つくかもしれないとか想像したかもしれない。
いや、もしかしたら「いい子にしてたら(俺が)戻ってくるかもしれないね」とか言われていた?
まさかそこまで俺の割合が大きいわけがないか。
もしそうだと俺自身がきついからそうじゃないと思いたい。
そんな事情があるわけがない。俺が出ていったから縛られたとか嫌すぎる。
考える程に自分が原因の負のスパイラルを想像してしまう。
そこまで自分が大きい存在だと思えないし、思いたくもない。
俺がいない方がいい方向に生きられたと思う方が嬉しい。
「そっか。ミラ先生やルイ君とは今でも仲はいい?」
この2人は損得では関わっていなかった部類の人だと思う。
ミラ先生は仕事もあっただろうけれど、ルイ君は同いくらいのサイズだからとかあるかな。
情報先行じゃなくて、実体験が先行している関係性だから、リク君自身をちゃんと見てくれそう。
いや、しかしだからと言ってだ。年月が経ちすぎている。
ライバル的なモノになっているとかあるだろうか?
そもそも近くにいるからこそ離れたくなるかもしれない。
リラは近くにいた。変態になっていたけど、近くにいた。
だがルイ君はいない。ここにはいなかった。それが答えなのではないだろうか?
リク君は嫌っていないかもしれないが、ルイ君はそうじゃないとかあるだろう。
「いいよ」
ニコニコと微笑む。秒で返された。怖い。すごいニコニコしている。なんか怖い。
裏をすごく考えてしまう。ニコニコで黙らされてしまう。触れてはいけない気がする。
2人に何があったのだろうか? 怖いな。想像してしまう。消されたかな?
いや、違うかもしれない。本当にすごい仲がいいのかもしれない。
いや、仲がいいとリク君が思いたいのかもしれない。否定される事を恐れている?
分からない。結局は実際に見ないと分からないのだろう。
下手に触れると藪蛇になるかもしれない。いや、なるだろうな。
まだ友好関係を維持しておくべきだ。少なくとも今つつくべきじゃない。
いや、でも本当に何があったんだろうか? なんかすごい怖いな。
「そうなんだ。ちなみに俺がいなくなってからどれくらいの人と知り合った?」
なんか学校の話を聞きたいお父さんみたいな感じになっている気がする。
いや、違う。尋問みたいになっているから意識の上だけでもマイルドにしてみたいだけだ。
これはあまり良くない傾向だろう。でも他にどうしたらいいのか、今の俺には分からない。
相手にとって話しにくい内容の話を振り続けたら嫌がられても仕方がないだろう。
できるだけ答えやすい気軽な質問をぶつけるのがいい。思いつかないけど。
コミュ力というか経験値が低い癖に、理論ばかり積み重ねたバカめ。その理論も根拠なしだろ。バーカ。
自分がそうなるだろうと思っただけのただの空想。現実とは違うと思われる。
何%の人がその通りに動くというのだろう? それを示した実験データがどこにある?
実験データがない理論は空想に過ぎない。どんなにもっともらしく言ったところで空想おつでしかないんだわな。
その空想に振り回されまくっている俺が言うのはほんとバカにしか見えないけどな。でもバカだし。
「たくさん知り合ったし、すぐには数えられないかな? 研究関係の人とか学園関係の人とかほんとたくさんいるよ」
ニコニコと語る。さっきの話題に触れられたくない様にも見える。それは気のせいだろうか?
うん。なんか不安がすごい出てきた。なんか隠している事がある。もう怖いなぁ。怖いよ。
いや、言ってない事を読み取ろうとしちゃっている俺もダメなヤツなのだろうか?
だとしてもこのニコニコ顔に何か隠し事を秘めているのは間違いないでしょ?
その隠し事が致命的じゃないといいんだけど、どうなっているか分からないからキツいよね。
これが俺の空想だったらとてもいいんだけど、そうじゃないとすごく困る事になりそう。
どう困るか? と言われたら困るけど、少なくとも現状のリク君は何か無理をしているだろうと想像できるところが大きいだろうか?
無理をしている人が壊れると、その負荷になっていたモノがあっちこっちに飛び火して、いろいろ大火事になるんだよね。
その無理をしている人ができる人である程に、壊れた時の反動が大きくなるから、今のリク君が爆発した瞬間の衝撃は大層なモノになる可能性が高い。
「頑張っているんだな」
なんとなくニコニコしながら座っているリク君の頭を撫でてみた。
いや、うん。なんかしなければいけない気がした。
実際すごい頑張っていると思う。頑張らなければここまでの結果は出せないと思う。
エスカレーターかもしれない。流された結果かもしれない。
でもだとしてもだ。その流されていた理由にはきっと色々あっただろう。
もしかしたらその一因は俺かもしれないし、余計に来るモノがある。
でも全部俺の勝手な想像だ。そこに俺の存在はまるで関係していないかもしれない。
いや実際問題関係していないと思う。そんなに俺の存在が重いはずがない。
そんなに俺の存在が重いなんて想像、それこそ小説の読み過ぎだと思う。
「ありがとね」
リク君は静かにほほ笑みを浮かべて目を閉じた。






