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284、休憩所への道

 気まずい。不信感で不審な感じになる。信用云々はとても面倒くさい。

 周囲の人に比べればまだ身内感を覚えるからリク君の側にいるだけになっている気がする。

 リク君は周囲が周囲だからこういう対応をするしかないのだとは思う。難しい。


 もし俺が俺でなければ。もし気楽に能天気にいつだってごーいんぐまいうぇい出来たら。

 仮定だけなら何とでもか。そもそもそれが出来たら現状にはならないのだ。

 ダメなのは俺自身なのだろう。狂っているのは俺自身。そういう事にしたい。いや、そういう事だ。


 もちろん俺が狂っているのは当然だ。思考を迷走させて瞳をグルグルにしたヤツが正気なわけがない。

 メンタルはきっと傷だらけだろう。傷口から血をまき散らしながら牙を剥いて周囲を威嚇している。

 近づくモノが敵か味方か分からなくて、噛むぞ噛むぞと思っているところが正にそうじゃないか。


「ねぇ、シロ。もしかしてもうここに見たいモノはない?」


 見たいモノが理解できていない、が正確な表現なのだろう。

 一通りは見たがそこからの発展した思考ができなかった。

 ぶっちゃけ他の事に気を取られ過ぎて考える余裕が今ない。


 8割方を周囲の人間への警戒に回してたら簡単な表層的な事も考える事が出来ていない。

 どんだけ余裕がないんだよ。こういう部分に自分の処理限界を感じる。ほんとバカだ。

 意識の机の上にモノを置きすぎて、考えたいモノの荷を広げられなくなっている。


 色々整理し切れていないのだろう。本当だったらやりたい事があるはずなのに。

 目の前の山が大きすぎて、それを処理しない事には山の向こうのモノに考えをやる事ができない。

 山の手前にある処理前の適当に拾った小さなモノで遊ぶのは簡単だが、それは先延ばしに過ぎない。


 まぁ、山が大き過ぎるから、そちらに手が伸びなくて、遊んじゃうのだけど。

 俺が思考で逃げまくっているのがよく分かる。ほんとリク君と何を話せばいいの……。

 この思考が逃げなのは分かっても、先に手を伸ばす方法が分からない……。


「そうだね……。ちょっと疲れちゃったからそろそろ休める場所に行きたいかな」


 休みたい。それ自体は真実だが、ほんとの意味で休める場所はないだろうな。

 どうしたところで考えなければいけない事はあり過ぎる。

 解決の見通しがない癖にそれを放置するのも出来ないのが一番イヤだ。


 ひとまずリク君が敵かどうかだろうか? どうやって判断しろと?

 そもそも害意があるというよりも、利用したい方面だろ。考えられるとして。

 利用するためなのだから、不快な事をする可能性は低い。


 口だけならいくらでも仲間面できる。表情だって簡単に作れるだろう。

 利用したい事象に対面するまでは多少の不快な事だって耐えられるとも思う。

 どうやって判断しろというのだ。そもそも人を試す事自体人によっては信頼を損なう行動だ。


「じゃあ、あそこがいいかな。こっちついてきて」


 笑いかける。手をひく。その背中は大きくて遠かった。

 優しさを感じる。親戚のお兄ちゃんってきっとこんな感じなんだろうなとも思う。

 この距離はきっと俺が信じられないと思っているから生まれた距離なんだろうな。


 まばらな人ごみの中をゆっくりと進む。リク君は今の俺の小さい歩幅に合わせてくれる。

 ここまでしてくれるリク君を信じられない事がなんだかツラくなる。自分を責めてしまう。

 挙動の1つ1つに温かな優しさを感じるのに、それでもまだ信じられない。


 信じるというのは難しい。そもそも信じたところで対応は変わらないだろうに。

 信じたとしてそれでいきなり寄りかかるだろうか? そんな重たい事をしてどうする。

 自分の重みを預け切ったとしたら相手は捨てたくなると思う。そこまで背負いきれないだろうし。


 実際に捨てる事はないだろうけど、捨てたいって思わせた時点で段々と疎遠になるだろう。

 それでも一緒に居てくれるのは友達だろうか? 何かしらの利益を感じているからだろうか?

 ただの同情かもしれない。いや、その重さで自分の欠けた部分を埋めたいのかもしれない。

 まぁ、どの道いい事なんてないだろうな。そういうもんでしょ。


 手を伸ばすのも難しい。自分が何者かを知っている相手は利用されるのが怖い。

 自分を知らない相手でも出会いだけを求めるヤツはいるし、そういうのも怖い。

 自分を知る事もなく、相手を知る事もなく、ただただ笑って遊ぶ様な仲であればいいかもしれない。

 それはそれで怖いか。どんなに心地よくても1本のクモの糸よりも脆い関係性だから。


 温かい手に握られればこの身の冷たさに自分の心の冷たさを思い知る。胸の奥に冷たいモノを見つけてしまう。

 怖がってばっかり。手を伸ばすフリだけはして、怖い怖いと触る前に止めてしまう。

 言い訳は山の様に。でも結局はやらない自分を認めたいだけの愚か者。ほんとバカ。


 世界は広いと思いながら歩かず、いいなと思いながら手を伸ばさず、近寄りたいと思いながら声にはならない。

 そういうところがダメなのだ。勝手に敵認定し、人に混ざる事などできやしない。

 歩け。手を伸ばせ。声を出せ。傷つく事を恐れるな。拒絶されるのは普通だ。


「リク君って何を考えているの?」


 曖昧すぎる質問だ。でも聞きたい事も曖昧だ。どう質問したら望んでいる答えが来るだろう?

 ただ望んでいる言葉を言われても、その言葉は言わせた言葉に思えて、信じる事が出来ないだろうな。

 味方? って聞いて「味方」と言われても信じられないのだ。それに敵と言われたら困る。


 いや、細かな積み重ねなく、その言葉だけで判断しようとするから信じられないのでは?

 そもそも人を信じるという機構が俺に備わっているかが怪しいが。

 だとしても小さなモノを積み重ねて、確かな信用が出来るというなら、聞くのは正しいのか。


 それに細かな立ち位置の確認は相手をそこに留める効果を期待できるかもしれない。

 急に兄になったよって言われても実感できない様に、自分がそこに立っていると認識させることでその立場にふさわしい振る舞いを呼び起こす事が出来る……いや、これは呪縛か。

 その振る舞いをしなければならないと周囲含めて認識させるのは心理的な負担になるだろう。


「ん、どうしたの?」


 お兄ちゃんなんだから。お姉ちゃんでしょ? そういう言葉で弟妹にオモチャを取られた人は多いのではないのだろうか? まぁ、俺は末っ子なので言われた事はないのだけど。

 少なくとも一般的な家族? であれば経験する事案だとは思う。兄姉諸君にとって呪いの言葉だ。

 理不尽とも思われる事象も、この言葉で封殺される事があっただろう。それが立場の呪い。


 いい思いを得られるのであればその関係性もいい様に取られる。

 人は立ち位置が明確だと気が楽だし、そこにしがみつきたくなるから。

 そうは言ってもそういう関係性で縛る事は俺が好きじゃない。


 人を縛る事が嫌だから。人を自分の様な存在に縛り付けるのが嫌だから。

 そもそも俺は自由が好きなのだ。人も自分も自由である事が好ましいと思っているのだ。

 その癖、自分がその自由という言葉に一番縛られて、一番不自由になっているの笑う。


 ほんとバカみたいだ。


「なんでもない。気になっただけ」


 やはり手の伸ばし方が分からない。言葉の選び方も分からない。

 どうすればいいかもわからない。考えの足りない言葉を出しても意味がない。

 その言葉の先に不自由を強いるモノがあると思うと手を出したくなくなる。


 今のがほんとはノックなのだろう。ドアをノックして相手の反応を見た。

 でもノックの先の考えが足りなくて、出て来てくれたのに逃げた。バカだな。

 ピンポンダッシュみたいだ。手を繋がれているから物理的には逃げられないけど。


 そもそも味方という立ち位置にリク君を俺は押し込めたいのだろうか?

 それすらも俺は分からない。敵じゃない方が嬉しいな程度かもしれない。

 でも敵なら敵で、最悪は容赦なく倒せるんだ。そう思えば敵の方が楽かもしれない。


「着いたし、なんか話しよっか」


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― 新着の感想 ―
[一言] また恋人同士の会話みたいなことになってるううう。
[一言] シロちゃん、最終的にどうなるのか……
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