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282、おじいさんとお話ししましょう

 おじいさんに不意に話しかけられた事でコミュ障にありがちな喉に息が溜まる現象が起きてしまった。

 いや、不意というには時間があったし、予見できた事だろう。ただの俺のミスだ。

 それと単純にどういう対応すればいいか分からなくて、思考がまとまっていないせいだな。


 コミュ力が高い人は思考に話のネタを何個か用意しておいて状況に合わせて使い熟すと聞いた。

 俺もそれを出来ればコミュ力が高い人になれるのかもしれない。

 思考の空回りを上手くどうにか出来れば話が上手くなりそうだよな。


 でどうすればいいの? どう紹介されているかが分からなくて困るんだよ。

 とりあえず敬語を使って冷静を装っておけば大きな問題はおきないと思いたい。

 そうだよ。無頼漢を装うのはさすがに厳しいだろう。異常を見せつける必要はないんだ。


「初めまして。はい、確かに私がシロです」


 なんかすごい言葉がおかしい気がする。ロボかな? 名前を確認されたからこれでいいんだよな?

 人と話をしなさすぎて、話し言葉の語彙が狂っている気がする。つらい。

 本を読んで単語をいくら増やしても、実際に使う事がないから、身になっていないんだよなぁ。


 結局ね、人付き合いは大事なんだよ。いつも話している言葉がないヤツに、まともな言葉が話せるわけがないんだよ。

 俺の頭の中の独り言はどうしたところで自分に向けたモノでしかないんだ。

 これは人に話す為の言葉ではないのだ。本の中の人になりきるのも経験が少なければできやしない。


 自分の立ち位置を定める事ができていないのも大きな問題だろう。

 それも人にどう見られているかが分かっていないというのが大きいか。

 イメージの改善が必要なのか、適度な畏怖が必要なのか、そこら辺が分かっていないんだ。


「これはこれはどうも。儂はタグというしがない爺じゃ。よろしくのぅ」


 優しい声で謙遜混じりの言葉を使う。下品なところは感じない。

 声や表情は普通の好々爺。普通ってなんだろう? まぁ、裏表がなさそうな態度である。

 今この瞬間だけはそういう人なのかもしれない。そういうのはよくあるだろう。


 俺なんて1秒経てばさっきと真反対の事を言っている時だってある。

 普段オラついている不良が捨てられている子猫に赤ちゃん言葉で語りかける事がある。

 その一瞬は普段とはまるで違う事を考えている事があっても何らおかしくないのだ。


 四六時中利用する事しか考えていないヤツはむしろ対応が楽ですらあるのでは?

 純粋に息をする様に、倫理観が狂っていて、かわいいと思った相手でも1秒したら利用する手段を用意できてしまうヤツの方がヤバいだろう。

 というか正に俺が方向性が違えどそういう感じになっている気がする。ダメだな。


 とりあえずここにいる段階で一般のお爺さんではないのは間違いない。

 肩書を名乗り驕り高ぶっている人の方が小物感があって対応が楽そう。

 楽そうなだけで実際に対応するとテンパるのだろうけど。経験が足りていない。


「そういえば私の事を伺っている様ですが、どの様に誰に言われているのでしょう? 自分の噂を耳にした事がないので、出来ればお聞きしたいですね」


 この口は誰だ? 俺か? 俺なのか? なんか貴族令嬢が出てきませんか?

 いるのか……俺の中にお嬢様が。いや、そんなはずは。

 だがしかし絶対今ニコニコ顔で言っているのはお嬢様だと思うんだ。


 茶番はともかく、聞きたい事を言ってくれて助かった。

 助かったのか? これで良かったのか? この発言は危なくないか?

 そもそも公衆の面前で聞ける噂かどうかも怪しいのでは?


 分からない。怖い。人目を配慮した言葉をするかもしれない。知っている人しかこの場にいない可能性があるか。

 話してくれたとして真意は別にある可能性が高いだろう。

 そもそも転生者云々と言われたらどうする? 檻に入れと言われるのだろうか?


 分からない。いやその可能性は低いか? 知っていて檻に入れないわけがないだろう。

 何か企んでいるかもしれない。いや、もしかしたら何か理由があって出来ない?

 選択肢が多すぎてつらい。選択肢1つ1つで大きく行動を変えないとヤバいのもつらい。


「リク殿が長い事ご執心していた方だと聞いておるのぅ。ネネ殿やニーナ殿と同じ超常の存在だと」


 ニーナ。あいつはどうしているんだろう? 大きいし力強いし飛行船に乗せられないだろう。

 留守番しているのだろうか。もともとは移動する避難場所兼護衛として作ろうとしたんだよな。

 中身の問題で色々諦めたのだけど。こちらに従う意思はあるのだろうけど、自意識がある存在を手駒として扱うのが嫌だったから。


 気軽に使える道具として作ろうとしたのであって部下はいらなかったのだ。

 利害関係も曖昧な状態で、裏切る可能性があるモノを、懐に抱える余裕など俺にはない。

 こちらの知られたくない情報を抱え込まれているのもイヤ過ぎる。


 主従関係といいながら実質的に首根っこつかまれて不都合な出来事に対する傘にされる関係になる。

 相手はいくらでもそのつもりはなかったと言えるのもキツ過ぎる。

 こちらは相手が不機嫌になって情報をバラされるのに怯えなければならなくなるのもまた問題。


 少なくともリク君相手だと脅しネタがないから変に利用しようとする事はないと思いたい。

 脅しよりも手のひらで転がそうと動いたかもしれない。それはどうしようもないな。

 だが俺がいなくなる事で利用しにくくなるというのは大きなメリットだと思う。


「超常というと大袈裟ですがそうですね。ニーナやネネと近しい存在でしょう」


 実際の中身はどうなのか、そういう意味だと分からないんだけどさ。

 ニーナ曰く自分は魔力だと言っていた気がする。あれの意味もわからない。

 魔力がどういうモノなのかも結局のところ理解しきれていない。


 ファンタジーの精霊みたいなモノなのだろうか? 水の精霊とか。

 それにしては自我がしっかりし過ぎている気がする。意味が分からない。

 もしかして昔の転生者とかだろうか? それこそ信頼が危険な相手だろう。


 相手に何が出来て、何が出来ないか。その大まかな輪郭も曖昧なのが痛い。

 地球の人間だったら垂直跳びで1mは難しいとか。ギネスで130センチいかないくらいだっけ?

 こちらの世界だと魔法の力のせいで、上限がいろいろ上がってそうだ。


 俺はわからない事が多いな。というか経験も何もねぇな。少ししか見ていない事象で判断をしようなんてそもそもおこがましい。

 正常な判断ができない癖に賢しらぶるのはバカ丸出しだ。詐欺に遭いやすいカモそのものだ。

 見たんだ! って言って、詐欺師の紙芝居を信じる情弱かな。それを親の顔と思うアヒルのヒナかもしれない。


「なるほど。なるほど。シロ殿はしっかりしているのぅ」


 すごい怖い。いや、表面上はニコニコしているただの好々爺のはず。

 なんか頭の中で眼光が一瞬ギラッとした様に脚色された。人間不信がヤバい。

 このメンタルは自分だけは真相を知っている的な陰謀論者のそれに近しい。


 どこで得た情報か。その情報が正確か。たまたまそういう風に見えただけじゃないか。

 考えれば考えるほど自分が信じられなくなる。かといって信じられるモノも持っていない。

 別に何も信じないでいいと言えればいいが、それをすると行動の指針を建てにくい。


 足元が固められていないから、信じたいモノを欲しがる。それが痛々しい。

 本当に大事なモノは何か。目標を高くするほどに見えなくなる気がする。

 成功ばかり望んで、目の前のモノをおざなりにしている気すらしている。

 分かった風に考えても俺自身が先の進み方を分からなくなっているのがまぬけ過ぎる。


 とりあえず落ち着け。周囲の状況は? 目は動かすな。視界の端では歓談している。

 特に大きな反応は見えない。そもそもこちらに注目している様な人は見かけられない。

 いや、耳を澄ませていたり、視界の端で確認していたりするかもしれない。


「いえいえ、そんな事ないですよ」










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― 新着の感想 ―
[一言] お嬢様シロ!
[一言] 何を考えているのか( ˘ω˘ )
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