280、転生者達について
なんで寂しそうなんだろう? 分からない。何かを求めてそれが叶わなかった?
俺は何か選択を間違えてしまったのかもしれない。それも分からない。
リク君は俺に何を求めていたのだろう? どういう姿を予想していた?
地雷を踏む事を求めていた? 衆人環視の中、転生者である事がバレるのを望んでいた?
いや、分からない。好意も信じられないが悪意も信じたくない。都合のいい疑心暗鬼だな。
悪意の可能性を考えても、それをするとはホントは露程も思いたくないんだろう。バカみたいだ。
だがしかし寂しそうなのだ。そこがよく分からない。悪意だったら悔しそうだろう。
自分の知っているモノとの違いに、もうあの頃に戻れないと悲しんだ結果の寂しそうか?
だとしたら俺が考えている事が分からない様に対しての思いか? それだったら分かるかもしれない。
しかしそれは自分の影響力を過信し過ぎだろう。そこまでの価値は俺にないはずだ。
「どうかしたの?」
なんか不思議そうな顔をしてリク君がこちらを見ている。
長考が過ぎたのだろう。そういえば俺は返事するまでにどれくらいの時間をかけているのだろう?
たぶん大して長くはない。しかしリク君の反応からして長考だと分かるのだろう。
むしろリク君にしか指摘されない。リク君はこちらの内情を知っているが故の指摘かもしれない。
内心の状態を知っている分、何を考えているのか不安になるとかあるか。
前までは分かる事が出来ていたのにってなるのだろうか? 分からないな。
分かる事が出来たのももう10年近く前の事なのだ。それを深く意識するだろうか?
分離不安症も幼少期の一時期だったからそこまで酷いモノになっていないと思いたい。
まともにリク君の意識があった可能性があるのは最後の1年くらいなのでは?
気づいてすぐ離れたから過度な依存を起こさせるモノではなかったと思う。
「いや、何でもない」
いや、むしろ離れた事で外から見る姿に対して戸惑いを覚えていたりするのだろうか?
分離不安症の時期を越えて、幼い頃の離別から覚えた渇望に、期待していた出会いと違う光景?
そもそも期待していた出会いはどういうモノだったのだろうか? 分からない。
というか俺に対して定型的な出会いが出来るわけがない。
飛んで抱き着いて喜びを示すとか起こりうるわけがないし、感動劇場は出来るわけがない。
ツンデレとかにもならないし、憎しみなどを抱えるわけもない。
なんかこう考えるとまともな感情が俺にない気がする。
色々考え続けるとたまにふと自分って普通の人間じゃないか? と思うのだがなんか違う気がする。
根本的なところで欠けているモノが多いと思う。人間じゃないと自分が思うよりもずっと人間じゃない気がする。言葉遊び的なモノ以上に何か違う。
思考は人と関係する程に人間よりにはなっている気がするが、まだまだ何か違う気がする。
「そうなんだね」
あぁ、ちょっと悩ましい顔をしている。表情は俺が思考で脚色した結果なのでは? とも思う。
基本的にニコニコ顔のままだし。表情差分が微妙過ぎてたぶんこうかもしれないが強くなっている。
今の自分がなんだか犬が主人の顔を見て反応するかのように動いているみたいとも思ってしまう。
これがいいとは思えない。だがしかし現状はこの状況に甘んじるしかない。
意図が読めないのが一番つらい。陥れようとしているなら踏みつぶすまでなのだが。
あくまでもまだ人間世界に適応しようと俺は考えているから、そんな迂闊な事はできない。
そもそもリク君はどう思っているのだろう? 悪意あれば噛み殺そうとする俺を。
そんな事をされないと思っているのだろうか? 向こうに悪意があればその可能性を考えるか。
いや、リク君の体の中にいた時はそういう事の片鱗も出さなかった。その牙を想像すらしていないか。
「それよりも転生者に強い魔力の保有者が多い理由を知っているのかい?」
俺と同じ様に胎児や幼児の時期から魔力をいじっているからとかありそうだ。
それ以外の理由はあるだろうか? そもそも転生者とはどういう存在かというのも問題か。
今の俺がそうである以上、転生者は精神異常とかではなく、事実として存在するのだ。
この世界の生まれの精神だとは思えない以上、別の世界から流入してきたモノだろうか?
別の世界から流入する過程で、何か超常の力を身に着けたりする? どうなんだろう?
その場合俺はどうだったのか、色々な意味でおかしいと感じてしまう。
俺は幼少期の魔力トレーニングが原因で、異常な量の魔力を保有できたのだと思うしな。
いや、俺が転生者としては弱者だったのでは? 転生先の体に他の魂がある時点でそうだろう。
違う。転生者側が転生先の体にあった魂を喰らう事で、より大きな力を手に入れるのでは?
ここで結論を出す事はできないし、それを確かめる事は出来ないか。
もし転生者の体から転生先の魂を取り出す、もしくは転生者の魂を取り出せたら分かるのだろうか?
だがその方法は? それが実現できるとしたら、いや実現した成功例がリク君になるのだろうか?
あのゴーレムはその過程の産物の可能性があるのではないだろうか?
「分からないよ。でも気になるんだ」
とても楽しそうな表情をしている。それは子供の様な、裏表のないモノの様に思えた。
正しいかは分からない。この表情も勝手に俺が理解できたと思えたから脚色されている気がする。
そもそも分離を実現する事が出来たとしてどうする? それを他者が施術する事が出来ないなら意味がないのでは? 転生者という存在を切除する事で、原住民の健康を守るという意味では。
少なくともリク君のケースでは俺がリク君という存在を認知し、分離し自分を確立しようとしたから出来た事だと思う。
俺はこの世界の体に間借りしている事が嫌だったからした事だ。
それを転生者の全てが思うか? と言われたら否だろう。そんな事が起きるわけがない。
そもそも切除した転生者をどう扱う? 最悪は病巣と同じ扱いで焼却処分だろう。
自分の身の安全を保障されない状況で、自分から体から離れるなどという愚か者はきっといない。
だからといって外を自由に闊歩させるわけには政権側としてもいかないから、保障などは出せるわけがない。
「そうか。難しいな」
現状として政権側ができるのは転生者に子供を作らせない事だけになる。
転生者の思想を拡散させるわけにはいかないから、人数を増やさせないのが重要なのだ。
だがしかしその過程で、転生者の魂を分離出来たとしても、男性は子供を作れない体になる。
人権意識の問題で、この点が後々問題になるのではないのだろうか?
そもそも魂を切除できる様になったとして、それをした後の魂が健常である保障はないだろう。
リク君も考えると異常に思えるのだ。それが正しい選択だと言い切る事は出来ない。
そもそもの問題として、リク君は本当にここの世界の住人の魂なのだろうか?
結局のところそれも確証を持つことができないのだ。確証を得る方法も分からない。
俺の人格の一部が剥離して、リク君になったという可能性を消す方法はたぶんない。
「どう確かめるかも推論しかないし、人工的に行えないのが難題なんだよね」
それこそ神様でもないとというヤツか。ただあの神を名乗るモノがそれを答えるとは思えない。
内心を読み解く事ができるとしても、それが正しいと言い切れるかも怪しい。
正しいと言われたところで、それを確かめる方法もない。
そもそも神様だって嘘をつく事はできるだろう。いや、神様だっていうのですらこちらがそう呼称するからかもしれない。わざわざそれを言わないだけで。
それに嘘じゃないが、真実を言わない事だって出来る。というか嘘をつくのは苦手な身としては俺がよくそれをするのだ。
それを神と呼称されるほどのモノが出来ないわけがないだろう。






