276、講義室に行こう
あるのか。あるんだ。いや、あって当然なのか。そりゃそうだ。
ニコニコ顔なのがちょっとうざい。なんでニコニコしているか分からない。
そういえば今、俺はどんな顔をしているのだろう?
ツンとお澄まし顔をしていそうだな。色々な意味で素直になれなくて。
素直か。素直ってなんだろうか? 俺はけっこう直球に生きている気がするんだが。
俺は目の前で起こりそうな事に対処しようとしているだけだ。策を弄したりしない。
いや、根っこがねじくれているか。悪意ありき、善意の事故ありきで考えているし。
「講習はそんな難しい事はしないよ。長居する予定はないからね」
滞在時間は短めと。いや、え、ほんと何をするためにここに来たのだろう?
何を考えてここに来たのかとか、そういう話はないのだろうか?
聞けばいい? どうやって聞く? 何で来たのかってどう聞いたら角が立たない?
そもそも角が立つという考えが間違っているのだろうか?
何で来たのか? と聞いたら来てはいけなかったのかな? と思うかもしれない。
そんな思考の仕方が被虐的だなと思う。しかし一部とはいえ、そう思う人がいる。
可能性は低いとはいえ、相手を不安にさせたりするのは望ましくない。
というかリク君は色々考えるタイプの人だと思う。
不安を先に立てて考えたら、簡単にそっちへの思考へ陥るのでは?
可能性はけっこう高いか。だとしたら聞き方はやはり考えないといけない。
「そうなんだ。見たいモノとかあったりするのか?」
これは悪い質問だっただろうか? さすがにこれは気にし過ぎなのか?
さすがに「見たいモノがなければいけないのか?」とはならないよな?
それは面倒が過ぎるな。過敏だ。すごく神経質になっているから寝ろ。休め。
まぁ、そんな事を思われてたらちょっと一緒にいると疲れるだろうな。
んー。だがしかしだな。言葉って少ない程に色々考えるモノだろう?
そして言葉数が多い程に実際は何を言いたいのかと要約を始めるモノでもある。
言葉数が多過ぎると言い訳と捉えられるのはなかなか理不尽だと思う。
人は話を聞いている様であまり聞いていないから、伝えたい事は出来るだけ少ない言葉で言わないといけないのだ。
理由を説明してからの方が俺自身は行動しやすいが、やってほしい事を伝えてから何があったかどういう結論に至ってそうしたかを伝えるのがいい事は多い。特に体育会系の組織だとそう。
始めに態度で示せっていうのは俺自身は肌に合わないが、感情が先行する人は割かし多いし、簡潔にやって欲しい事を言うのは大事なのだろう。
相手は自分じゃない。自分の考えている事と他人の考えている事は違うモノだ。
理由を説明されたら俺はなるほどと行動できるだろうが、その行動が正しい保証はない。
一刻を争う時に一々理由を説明しているのもたるいし、とにかくやる事を伝達しそれを熟してもらう事が大事になるだろう。理由は後で説明しても問題ない事が多いしな。
「僕自身はあまりないかな。でもきっとシロには興味深い事が多いと思うんだ」
なるほど。これは親がとりあえず博物館とかに子供を連れていく事の延長線上にあるな。
子供側はまるで意図を理解していないところが特にそっくりだ。
興味の持ち方は人それぞれだから押し付けると嫌がられ逆効果だから言えない部分もまたね。
自分が興味ない分野だとしても、子供は興味を持つかもしれない。
この分野に興味を持ってくれたら先の人生でいい事が多いかもしれない。
こちら側に少し興味を持っている風だったし、もっと望むかもしれない。
こちらのためを思っての行動。子供には意図がよく分からない行動。
こちらのためと理解はしても、そこに興味を持てるかと言われると微妙。
だがだとしても「興味を持たないだろう」とか「興味を持たれても困る」とかされると進路に幅は出ないし、意図して制限した場合反発心などからバカ嵌りする事もある。
人が何に興味を持つかなど、誰かに制限できるモノではないし、強制できるモノでもない。
「確かに興味は多少あるかな」
もし俺がリク君の体の中にいた際に、転生者だとバレた場合に、収容されていた可能性が高いから。
そもそも収容で済むかどうかも分からないというのも大きかった。
今この体になっても、転生者である事がバレるのは大分怖いモノがある。
自由の制限というか、期待している? 望んでいる? その未来に辿りつけなくなると思うから。
それに対して興味を持っている事を示すのも危険かもしれないから。
真っ先にここへ連れてこられると余計に意味が分からなくて怖い。
いや、むしろ今しかなかったのか? 何故どうしての根源はここだよと示すためと言い訳ができる?
連れてきたかったのはリク君であって、俺ではないと言い張れるのがこのタイミング?
連れてきたかった理由は飛行船の説明などだとか言えるのもこのタイミング?
「だと思ったよ」
言動を監視されている可能性はあるだろうか? むしろないとどうして言える?
俺を見つけるのにどれ程の時間がかかっただろう? 目覚めさせる許可なども必要だったのでは?
そもそも起こせる保証などもなかっただろう。要経過観察と思われている可能性が高いのでは?
接する人の数が少ないのは余計なストレスを与えて暴発させるのを恐れているから?
言葉が足りていないのは俺の背景が周囲にバレる事を恐れているから?
リク君がにっこりし続けているのはそういったモノを全て押し隠すためなのでは?
余計な事を話させないための笑顔とかもあっておかしくないのか。いや、分からない。
だがしかし実際問題、俺は余計な質問をする事が出来なかった。いや、それは俺の資質か。
その資質を見込んだ上での行動だったのでは? いや、俺の暴走を考えたら確実性がない。
「そうなのか」
強い興味を抱いているとは言えない。それの理由も言えないと考えると返事も素っ気ないモノにせざるを得ない。
もしかしてこれが目的なのだろうか? ちょっとした興味はあるけれどそこまでじゃないと見せる。
一般的な好奇心しかない様に見えたら転生者疑惑を少なく出来る? かもしれない。
ほぼ抜き打ちでやる事で周囲への信頼を稼ぐための行動と思えば何も言えなくてもおかしくない。
いや、おかしいのか。全てに意味があると考えてしまうのが問題な気がしてしまう。
しかしそこに行動の理由がないとは思えないのも事実。どうしてかの部分はきっとあると思う。
いや、だとしてもだ。やはり普通に考えて行動がおかしくないだろうか?
もしかして俺の行動が周囲のおかしな行動を作りあげている可能性があるか?
話の切り出すタイミングをなくしているのは俺自身が原因の可能性もあるだろう。
「そうなの。はい、お部屋着いたから席についてね。資料の置かれているところに座ってね」
気が付くとリク君に扉を開けてもらい、部屋の中に入る事になっていた。
ホワイトボードの様なモノと簡素な長机と細っこい足のイスがたくさん並んでた。
ぶっちゃけ塾の講義室とか、会社の平社員用の会議室とか想像する。
ただなんかこう先導で動かれてしまうと、エスコートをされている気分というか、気持ちが悪い。
ヨイショされる立場だと自分に対して思えないのが原因だな。お坊ちゃん扱いは好きじゃない。
相手がある程度身近な人だと感じているのも大きな要因だろう。身内にされると気持ち悪いんだ。
お店の方の先導は余計な事をさせないという意味合いもあるので、特には気にならないのだが。
変なところで気が散ってしまっている。またリク君に対して不信感を抱いてしまっているのだろうな。
あぁ、もうなんかやだなぁ。微妙な気分が過ぎて気持ちが悪いんだよ。ほんと。






