275、着替えた
詰め所に向かう道は割愛。200m程度代わり映えしない景色の中、ムダに静かに進んだ。
静かに進むと思考も静かになってしまう。なんか厳かでふざけてはいけないみたいなね。
神殿とか行進とか、慣れない雰囲気で、みんな静かにしているとなんかさすがに静まる。
思考は別に無駄口を叩いているのとは違うとは思うんだ。
でも実際はこれってやっぱり無駄口と同じ意識なのではないだろうか?
実は口から先に生まれました? 実際の口はまるで動かない癖に。
思考があちらでドカドン、こちらでぽひゅん。
息が出来る場所に着いたらてんやんわんやのうるささよ。
せめて現状把握でお茶濁せ。
「シロさんはあっちでお着替えお願い致しますね」
あ、はい。
基地内は件の謎プラスチックに細かい砂利混ぜたなんちゃってコンクリートで出来ている。
パッと見だとツルツルの灰色のコンクリートの壁だが、謎プラスチック製なのでほんのり温かい。
足下はざらつく加工を施されており、踏ん張りが利きやすく走りやすい。掃除はしにくそう。
灰色の金属ロッカーといい、すごく近代的なロッカールームなのが不思議なところ。
通りすがりの軍人のお姉さんに渡された衣服は和服だった。和服なのか。なんで和服なんだ。
甚平だからむちゃくちゃ着やすい。ひも結ぶだけだから着替えは秒で終わった。
この先にいる転生者達が日本人な気がしてならない。
まぁ、日本人以外が来られても「お、おーけー、ないすちゅみちゅ」的な怪しい言葉しか出ない。
英語は読む分には割かしいけるんだけど、話す方は……日本人ともダメだな。コミュ障め。
そうだよ。人と話さなすぎて、言っている事が多少分かろうが、何話せばいいか分からんのだよ!
ほんとコミュ障の極みめ。お前の願いはコミュニケーションの先にあるのだろう?
まずは話す事に慣れろ。口を動かせ。不必要に無駄口を叩け。いや、さすがにそれはダメか?
「あ、綺麗に着られてますね。お連れ様がそちらで待ってますよ」
通りすがりの軍人のお姉さんが微笑みながら指をさす。
通りすがりではないか。案内のお姉さんが正解なのだろうか?
まぁ、そう長くは関わらなさそうな感じがする。
普通の人だったらそんなに意識する事もなく流してしまうのか。
変態は流しきれないからこびりつき残ってしまうと。
言い換えると俺のフィルターを通すと変態しか残らないという事では?
いや、それはよくない気がする。ぎぶみー一般人。普通の人!
あ、でも普通の人が俺みたいな特殊な立ち位置のヤツと関わりたいとは思わないよね。
巻き込んだ結果、特殊性癖を発症したらとてもじゃないが、誰も救われない。
「ありがとうございます」
さよなら。一般の人。元気に普通に生きてください。羨ましいです。
さてと気を取り直して今後の想定をしようではないか。
いや、うん。まずなんだが、この道って行った先にどう繋がるんだろ?
直で転生者達のところに繋がっている……わけがないよな。
そんな動物園のルートみたいな話だとしたら、服を着替える意味が分からない。
いや、それ以上にそれをヨシとするメンタルを相手方が持っているわけがない。
なんだかんだ色々情報を隠しているとは思うんだよ。それが普通なんだと思う。
そこがどうまとめられているかが分からないのがまず怖い。
そしてそういう事に関する話を俺は全然聞いていないのがさらに怖い。
そう話をされていないので、どう構えたらいいのか分からないのが怖いんだよな。
「可愛いね」
リク君、にっこり。
いや、にっこりじゃないんだわ。話をしてくれ。
むしろ俺が切り出すべきなのか。どうやって切り出せばいいねん。
くそぅ、コミュ障の極みめ。何通りも想定をし過ぎて思考がまとまらん。
大まかな想定で、特に問題もなく話をしてくれるパターンとそうじゃないパターン。
そうじゃないパターンで、しっかり答えてくれる様に見せかけて嘘言われるパターン。
なんか無意味に隠されて、ドッキリ~みたいな事されるパターン。
いや、もはや実はこれ普通に罠で、ここに連れて来られる事が目的のパターン。
というか騙されて放置されて、迎えが来るよと待たされるパターン。
そもそも騙されてなくて、単純に説明を忘れられていたパターン。
何なら言わずとも理解しているだろうと思われているパターン。
ダメだ。信じたいのか、信じたくないのか、裏切られているのか、そうでないのか。
色々思考がしっちゃかめっちゃかしてしまっている。このコミュ障の極みめ。
なんというか、リク君の場合、最後の言わずとも理解してくれるの可能性すら高い。
「ありがと」
ありがと。じゃないんだわ。聞きたいことあるだろ! バカ!
いや、実際問題、どうやって話を切り出したらいいんだ?
説明会とかあるのだろうか? それとも事前に話を通しているって認識?
それはさすがにないだろうか? 世の中、説明書を読まないヤツら多いし。
説明書を読まないのと一緒じゃない? 一緒だろ? やれば分かるじゃないんだわ。
先にやっちゃいけない事を理解していないと、やってすぐモノを壊すんだわ。
ケトルの許容量を見ずに水入れて沸かして、蓋を吹っ飛ばすんだわ。アホめ!
そういうのを考えれば直前の講習会は説明書を読んでいないおバカの対策にちょうどいい。
購入者個人で損害を受ける分には説明書を読まなかった自業自得で済むんだけど、公のシステムに関わる以上、そうも言ってられないからな。
まぁ、バカは説明しても聞いていないというオチがあるけど、そういうのはちょっと外に置くわ。
「さてと久しぶりに来たけど、また何か変わっている事あるかなぁ」
来訪は2回以上と。事前のブリーフィングはしてくれ。少なくとも心構えが出来る。
これからどうするのか、まるで話が通じていないんだ。罠かどうかすら悩んでいるんだ。
リク君。ちゃんと説明をお願いする。ほんとちゃんとした説明をお願いしたい。
あ、でもどうやって話を切り出そう? どうやって話をそちらに持っていく?
そもそも答えてくれるかどうかも色々分からないよね? どうやるのか悩ましいわ。
悩むよりも行動しろが正解なのだろうか? どうなんだろうか? 分からない。
この通路の先に講習会があり、これから受講するという流れが展開されるというのが理想か。
そうそうリク君も詳しいわけじゃないから、自分で説明するという頭にない可能性も微レ存。
普段細かい事は全部秘書に任せて、自分は舵を切るだけという立ち位置の可能性もあるのか。
「そういえば講習会とかあるの?」
よし、言えた。そうコレが言えるかどうかだけでも大分違うのだ。
というかこの一言を言うためにどれだけ精神的なエネルギーを使っているのだ。バカめ。
人にモノを聞く事に慣れなさすぎて、頭が終わっているだろ。
というかな。どうせ信じられないのだから、聞いても聞かなくても同じか?
いや、聞いた方が情報が増えるからいいんじゃないか。
聞かない方がそれについて知らないという情報を相手に与えなくて済む?
知っている事であったとしても、知らないという情報を相手に与えられるだろ。
いや、違うな。知っているかもしれないと相手が思っていてもいいんだよ。
自分の知っている情報はあくまで自分が観測した範囲の情報だ。
相手がその情報に対して、どういうスタンスを取っているのかを知ると考えたら、いくら聞いても何も問題はないんだ。
ただ1+1=2を聞かれ続けるとまぁ、イラってするだろうけどな。それは仕方がない話である。
情報を聞くというのはそれを鵜呑みにするんじゃなくて、相手の立ち位置を確認する事と。
まぁ、俺に足りないのはとりあえず「人の話を聞く」という事だな。
「うん、あるよ」






