272、肉
にゃーん。
いや、違う。なんか猫被りするべきだと思ったんだ。
楽しい雰囲気にしたいだろう会食の席でツンツンする程、空気が読めないヤツじゃないつもりだ。
しかしここまで猫を被ってまた変な人格を発生させたりしないだろうか?
とりあえずお皿に適当に盛ってみよう。
……この体ってどれくらい食べられるのかが分からない。
そもそもまともに食べる必要がないこの体に、ご飯を用意する意味はあるのだろうか?
いやこれは価値のない自分がという卑下だな。どれだけ食べていいか分からないのを誤魔化そうとしていたんだろう。自分へのさもそれが真実かの様な、そんな得意な嘘を用意して。
食べて欲しいと用意されたご飯にすら、食べる量を見積もる事が上手く出来ない。
普通の人なら食べきれない量のご飯も、この体ならきっと食べきれる。加減が出来ないだろう。
少量。とにかく少量でいこう。みんなが満腹になり、残っているモノなら食べても問題ないだろう。
1口分程度を取っていけば取りすぎという事はないよね?
少なすぎると嫌なのに無理して取っている感が出ないかな?
多すぎも少なすぎも、どちらも悪い事になるんじゃないか?
「あ、ほら、お肉美味しいよ」
リク君が微笑む。笑顔が辛い。自分のせいでこうなったかと思うと特に。
いや、本人はこれで幸せなのかもしれない。それを俺が正しいと思えないだけだ。
人の幸せに対し、勝手な妄想と罪悪感で汚している。勝手な他人だ。
純粋なおすすめだろう言葉に対しても、素直に受け止められないのがバカだ。
本人に言えば「気にするな」とか「そんな事気にしなくていいよ」とか言われるのが関の山。
ただだからこそ余計に歪めてしまった自分を許せなくなるのだろう。
自分勝手な想像で、相手を心配し、哀れむ事はとても醜い。
そこに相手の意思はなく、勝手に哀れみの視線を向けられるのは、される側からしたらとても心地悪いだろう。本人は普通に生活した結果の納得した状況ならなおさら。
本人が幸せなら、気にしていないなら、それをわざわざ崩す必要なんてないのだ。
「じゃあ、それを多めにいただこうかな?」
嫌いな自分にはなりたくない。今でさえ嫌い過ぎて気が狂っているのに。
この妙な妄想は自分のためにも相手のためにもならない。止めるべきだな。
というか取り分ける事に対しての苦手意識で、現実逃避からの妄想なのでは?
どんだけ会食に慣れていないんだよ! バカ!
たぶんこれたくさんあるから食べてね? の大皿なんだよ!
好きなモノを好きなだけ選んで取っていいよの大皿だとも言えるよね!
いや、むしろこれって好きなモノが何なのか把握するためのモノかもしれない。
どれをたくさん取り分けるのかで、好みを判別し、今後の食事に役立てるとか。
それは考えが偏執的過ぎるか。いやもう分からん。どうするのが正解なのだ。
思惑を想定する必要はない、というか想定して変な事をするのが良くないか。
いや、でもどうすればいいんだろう? 会食の時は残り物を選びがちなんだが。
残っているなら誰かと衝突する事もないし、ストレスなく食べられるのがいい。
「このお肉はロックオチキンっていう魔物のヒナのお肉なんだよね」
……え? ヒナ? いや、大きめの七面鳥くらいのサイズない? この肉?
ヒナでこのサイズなら成鳥はどんな大きさだよ。いや、そもそもヒナという形態があるのか。
いや、まぁ、ファンタジーな世界だし、何なら学校サイズ? の浮遊物と戦ったな。
あれは戦ったに入るのだろうか? むしろ撃墜のための工事をしたに近いよな?
ヒナがいるという事はそのままの形態で出来上がるとかではないという事だよな。
生殖活動があるという事で間違いないだろうか? それともヒナと思われているだけの別種?
よくわからない共生関係とかあるし、生殖しているとは限らないな。
いや、そもそも生物の様な行動様式を普通にとっている可能性は全然あるか。
型ありきの不思議生命体だなんていつから考えていたのだろう? 分からないな。
でもその可能性を想定するのは面白い。生物と何かしらの違いがあったら面白いと思うし。
「なんかすごい硬そうなトリだね」
大きめの七面鳥サイズのヒナでも成鳥のサイズはダチョウと同程度とかになりそうだな。
でもチキンだろ? ニワトリみたいな形状のトリだとしたらどうなるんだろうか?
ダチョウみたいに足が長いかも? でも形状的にそれは考えにくいか。翼小さそうだし。
なんとなくチキンって訳したわけだけど、チキンでいいんだよな? これ?
絵本で読んだ時よく歩く太った鳥を示す単語だったしな。この世界の神話にいた気がする。
ちなみにさすがに絵本にゴリラはいなかった。図鑑で初めて見たモノだ。
日本の神話とか海外の神話にはなんだかんだニワトリ出てくるモノだ。
飼育しやすかったり、朝に鳴いたりするのが、神秘性を感じるのだろうか?
この世界で生きたニワトリを見かけた事がないし、何とも言えないけど。
「成鳥は硬いよ。文字通り岩みたいになっちゃってね。でもヒナは柔らかいよ」
過去にこの世界ではニワトリを飼育していたのだろうか? いや、今も?
大きなサイズの硬いニワトリの魔物なんて飼育できるのだろうか?
なんか大きなニワトリって考えると尾羽の代わりに蛇つけてコカトリスとか思い浮かべてしまう。
コカトリスもバジリスクも石化させる能力を持つし、ロックチキンって石化能力を持ってそう。
7歳の雄鶏が生んだ卵をヒキガエルが9年温めるとコカトリスが産まれるんだっけ?
そもそも雄鶏は卵を産まないとか言わない。低温で置いておいたら腐るとかも言わない。
XYYとか性染色体異常だったりで、見た目オスだけどメスの要素を持ってたりとか?
魔術的なエトセトラで変質し、そういう事が起きたとか? 奇跡に奇跡が重なり過ぎかな?
呪い云々の方がぶっちゃけ面白いかな。名前とか思い込みとか組み合わせて小さいけど確かな害が出てきちゃうヤツ。
いや、面白い面白くないは今そこまで関係がないな。
「養殖とかしているの? それとも野生の個体から?」
思ったけどこれは無難な会話が出来ているのでは?
とても人間らしい行いが出来ている気がする。
いや、この思考がそもそも人間らしくないのでは?
養殖だったらそれはもうニワトリだな。大きさはあれだろうけど。
ダチョウの卵みたいな大きさの卵だと料理には使いにくそう。目玉焼きは楽しいだろうな。
成鳥の肉は硬いという事だが、出汁取りに向いているのではないだろうか?
でも大きいという事は肉質が変わりそう。鳥からワニの間かな?
こういうの考えるのが最高に面白いと思う。
知らないからこそ予想が出来る。予想が正しいとは限らないからこそワクワクする。
こういう部分は人間らしいのではないだろうか?
「これは野生だけど、この品種は養殖もしているね」
魔物も家畜になるのか。いや、研究自体はされてそうな雰囲気はしてた。
王都で発生した魔物とか、地下水道にいるナメクジとか、あれ何かフラグだろ。
教会とかがすごい怪しいとかなんか考えた記憶がある。実際はどうなのか知らん。
魔物の中でも穏やかな気質とか、攻撃性とかの抑え方とか、なんかあるんだろうか?
もしかしたら既存の生物と交配させて、新種の生物を作るとかもできるかもしれない。
そういうのの研究自体は素人でも考えるんだから、やっているヤツはいるだろうな。
ヒナというのも実際どういう過程で出来たモノか定かではないだろう。
でも野生個体がいるという事は自然界でも起きる反応で出来たモノは確かか。
色々悩ましい。まぁ、この体だから食べても問題ないだろうけどね。
「へぇ、そうなんだ。すごい」






