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271、ご飯を食べよう

 こう真っ向から好意の感情を向けられるとむずがゆい。

 後ろにいる変態とは違うのだ。この好意は存在に対して向けられているんだ。怖い。

 そう怖いんだ。問答無用の好意など怖くないわけがない。


 利害は分かりやすい。目的の分かりやすいそれも返って信頼が出来る。まだ理解できるから。

 いや、理解とは違うか。予測ができるというのが正確な答えだろう。理解はたぶんできていない。

 悪意というか、利のない行動というモノがよく分からないんだ。


 勧善懲悪系の話で「利がない!」っていう人は見かけるが、あれは利があるだろ。

 不快なモノを排除して、自分好みの展開を作り上げるという、まさに利の塊じゃないか。

 ああいう利は社会性動物たる人間特有のモノだと思う。

 あれを気持ちいいと思うから勧善懲悪モノが流行るのだ。


「そうだね」


 俺には分からない。だがそれを分からないと切り捨てるのも、わかると言い張るのも違うだろう。

 まして否定の言葉を突き付ける事がいい訳がない。そうして相手を傷つける事は誰も救われない。

 言葉多く賛成をしても気に障るだろう。だからやはりこう短い言葉でしか返す事が出来ない。


 全くもって言い訳がましい。人に向けた言葉が思いつかない事への言い訳はいいんだよ。

 もっと考えて言葉を絞り出しやがれ。それが人間に対しての最低限の礼儀だろ。

 コンビニで「あれ」「それ」とかしか言わない人モドキになるんじゃないよ。


 思考がダメすぎる。違うんだよ、考えたい事は。現実逃避に解説するんじゃない。

 解説コーナーを開設して回折するってか? くだらないしゃれはやめなしゃれ。バカ。

 もっと先を考えろ。今をグダついて易きに流れてもいい事はないんだ。

 それじゃまた現実から逃げて、心理的に容易い事へ逃避するだけだ。


「温かいご飯が冷めちゃう前に食べよっか。待ちくたびれている子もいる様だしね」


 微笑むリク君の視線の先にはコロコロと机の上に転がっている鳥。ネネだ。

 しれっと変態が席についており、ネネはその手で転がされながら楽しそうにしていた。

 というかさすがに2人で食べるとかなったらリク君へ意識が集中し過ぎてキツかったかもしれない。


 この調子でリク君の事ばかり考えていたら好きでなくても好きと誤認する。

 ただでさえ俺は対人経験が少ないんだ。他人との距離感もよく分からない。

 適切な距離も分からないし、それを取るための方法も身に着けていない雑魚だ。


 物理的な距離、精神的な距離、言葉での距離感、全部の経験が足りていない。

 パーソナルスペースとかの読み合いもむちゃくちゃ大変だろう。

 いきなりタイマンとか距離感狂う素だ。周囲を参考に……変態は参考になるのか?


「やったーっ!」


 ネネの子供らしい明るい声が食卓に響いた。ほんわかする。

 むだに合ってしまう緊迫感をかき消していく子供の無邪気さっていいな。

 俺にはこんな無邪気さなんてないし、出来るだけですごいなって思う。


 いや、ネネの子供な振舞いはもしかしてそれを求める環境によって出来上がったモノかもしれない。

 そもそも10年近く経っても変わらぬ子供っぽさというのはおかしくないだろうか?

 環境に求められ、ずっとそのロールプレイを強いられてしまったとかないだろうか?


 真偽が不透明という噂をある時から耳にしだしたが、監獄実験を思い浮かべてしまう。

 いや、そこまで行かなくてもいいか。世の中には特殊な性癖が溢れている。赤ちゃんプレイとか。

 その役割を演じる事で、あたかもその状態が自然だと誤認して、その役割に徹してしまう。

 赤ちゃんプレイなら、対象者は幼児帰りしてしまう。それが認められたり、求められてしまうならなおさら没頭してしまう事だろう。


 ネネはずっとそんな無邪気な子供という役割を演じてきていたのだろうか?

 ゴーレムは身体的に成長しないし、何よりハチドリだから小さい。

 周囲から子供扱いされ続けるのも、どちらの側からも違和感抵抗なく続けられる事だろう。


「いただきます」


 柔らかな雰囲気。でも言い換えれば大人な振舞い。10代後半の落ち着きではない。

 リク君も大人でなければいけない世界だったのではないだろうか?

 宗教関係とか権力闘争とか、なんか色々火種を遺して俺は出て行ってしまったし。


 そうだよ。俺が出て行ったからといって、過去の事実は消えないし、力も残っているんだ。

 俺の思考のせいで、同年代に比べて奇妙な成長を遂げた事だろう。環境もまた歪になって。

 それがいい事であるわけがない。リク君がおかしくなったのは俺のせいだ。


 リク君がこんな性格になったから、場の年齢も相応に上がってしまった。

 それを嫌だ、不自然だと思ったネネが子供の態度を取り続ける事でバランスを取ろうとしたら。

 ネネが子供の振舞いを続ける様になった遠因は。いや、原因は俺自身にあるという事になるだろう。


「いただきます!」


 もし俺があの時王都に留まっていたらどうなっただろうか?


 ネネはもう少し大人に、リク君はもう少し子供らしくなっただろうか?

 リク君とネネは兄弟の様になって、今の『王と道化』の様な関係じゃないのでは?

 俺が外部への防壁になり2人を守っていれば、もっと普通の2人になっていたのでは?


 逃げた俺が悪いのだ。


 今もうなってしまったモノは変えられない。

 変える事が簡単にできるなら、今の俺がこんな事になってない。

 元に戻そうとか、戻せるとかは考えるな。これは業だ。悪業だ。

 人に背負わせてしまった俺の罪だ。


 逃げた。何もしなかった。それは罪だろう。

 あまり深く関わりあう前に逃げたのが唯一の救いだろうか?

 いや、それでも自我をしっかりと持ち思考ができるまで一緒にいたんだ。

 十分以上に一緒にいた事になるかもしれない。恨まれても仕方がないくらいだ。


「いただきます」


 このお祝いに含まれている意味は何なのだろう? 分からない。

 そもそも楽しむという事も理解できていないのではないだろうか?

 図鑑とか見た後のテンションなら楽しめたかもしれない。


 本当だったらあの後ご飯とかするつもりだったのかもしれない。

 空中戦も適度に弱い相手ならいい余興だったかもしれない。

 いやそこそこ強い相手でも、戦闘での高揚感があれば終わった後楽しかったのかもしれない。


 汚い臭いキツいの3Kと変態のせいでメンタルの変調が酷かったのだろう。

 というか変態、お前が予定を狂わせているのではないだろうか? やっぱ戦犯が変態では?

 でももしかしたらリク君の傍でやっていけるの実は変態だけだったというオチがあるかもしれない。


 変態の欲求を満たせる何かをリク君が持ち、それがあるから裏切る事もないとか。

 リク君がおかしくなっているから、それに対して興味を持ち、それ以外の下心がないとか。

 ここもまた王と道化の関係かもしれない。正しすぎる王と間違いの象徴の道化とか。


 関係性を想像する程わけが分からなくなってくる。


 俺はどうしてここにいるのだろう?

 恨まれているのだろうか? 執着されているのだろうか? 好かれているのだろうか?

 理解ができない。何を求められているのだろう? 俺など不必要だろう?


 俺に何が出来る? 何か出来ただろうか?

 それ程のモノを何かリク君に示す事が出来ているのだろうか?

 むしろ過去の汚点なのでは? なんでわざわざ起こした?


「シロ、食べないの? 美味しいよ?」


 いただきますと言ったものの手を動かしていなかったな。

 物思いに耽ると体が疎かになるから本当にダメだ。

 ネネを見るとネネの前には専用の小さな皿があり、細かく色々乗っていた。

 ハチドリなら食べられないモノだらけだろうが、ネネはゴーレムなので問題ないのだろう。


 そういえばこの体でまともに人間の食事をしたことがない。

 ネネがモノを食べる事に慣れている様からして、飲食に関して制限はないのだろう。

 この口に入ったのが巨大な魔物の生肉ばかりだが、それで体が壊れるという事もなかった。

 食べる事には何も問題ないだろう。


 いや、というかいきなり人間を辞め過ぎだろ。

 最初の内は人間の真似事を辞められないのが正道のはずだ。

 どんだけだよ。化け物向きか? これで人間に成れるのか?


「ごめんね、どれ食べようか悩んでたんだ。どれも美味しそうだね」


 これは完璧なネコなのでは?




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[一言] にゃーん
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