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266、人格

「あなたは今小さな子供の前ではしてはいけない顔をしています。それがいけません」


 感情を押し殺しながら極力冷静に声を出す。

 泣きたいし、声をかけるのも本当は嫌だが、それをしなければ服が手に入らない。

 もういっそ服なんてなくてもいいかな? とか思うが、このまま変態を放置するのは気が引ける。


 なぜ気が引けるんだろうか? 別に俺以外には害がないだろう。

 この性癖が他の小さな子供に向いてしまった時が怖い?

 そんな都合よくこういうメンタルのヤツが出るわけがないじゃないか。


 そうだよ。捨て置いても何も問題ない。いや本当か?

 不完全燃焼させて持て余した末に、そういう対象になりそうな人を犠牲にするのでは?

 むしろ完全燃焼させて、それ以上を求めない様にさせる必要があるのか?


「わかりました! 先生!」


 ねぇ、俺はなんで今先生って呼ばれたの? もしかしてそっち方面の性癖なのか?

 くそう。何も分からない。どうすればこの状況は解決したと言えるんだ?

 頭を潰して服を回収すれば変態も消えて全てが平和になるのでは?


 いや、ダメだ。それは良くない。それをしたら終わりの始まりだ。

 それをするくらいなら全てを諦めて、さっさと素っ裸で去った方がマシ。

 別にこの変態の持っている服と思われる何かをわざわざ着る必要はない。


 そうだよ。別にこの変態が持っている服だけが服じゃない。

 どこかの部屋とか道中で他の人に服をもらえるか聞いた方がいい。

 そこでもらえなくてもリク君に会えば服くらいさすがにもらえるだろう。


「よだれを垂らしながら言っても説得力がありません。もっと隠す努力をしてください。何を考えていても自由ですが、表面に出したらそれまでです。それがあなたの評価になります。ちなみに私からのあなたの評価は今すごく低いです。下の下です」


 見捨てたい、見捨てたいと理性か何かが騒ぎまくる。なんか私とか言ってお高く留まってやがる。

 いや、私は別に高く留まった主語じゃない。むしろ謙った主語だ。

 ただなんか俺が使うと壁を作っている気分になる。いや、これは作っている方か。


 変態と深く関わりたくないという気持ちの結果か。だから壁を作ってしまう。

 気楽なそれではなく、隙を見せないための丁寧語。言質なども取られたくない。

 冷たさのイメージも合わさった結果の「私」なのだろうな。


 無用に言葉数が増えているところも不審を覚えているからだろう。

 少ない言葉で勘違いを誘発させてしまうのはきついから。

 変態に都合が良い言葉と勘違いさせるのが嫌という気持ちが強いのだろう。


「ごめんなさい……」


 塩らしくなった。顔は赤いけれど、少しは効いた様な感じがする。

 久しぶりに、大分まともに、長文で人に対して言葉を出した気がする。

 頭の中では長文ダラダラと垂れ流している癖に、人に向けては言えないのがお笑い。


 短文で必要以上の情報を相手に渡さず、できるだけ相手から言葉を引き出そうとする悪癖が原因か。

 根本的に人を信用できないのが大きく影響しているだろうね。

 信用はしたいんだろうけれど、それが出来る程に俺は人を信用出来ていない。


 信用できないから長文が使えないとしたら今さっき長文で誤解されない様に長文を使った意味は?

 むしろある意味信用した結果、言葉足らずになっているのではないだろうか?

 いや、さっきの言葉はただの通達だ。返答に期待などしていないんだ。

 ただ俺の意思を伝えるためだけの会話でもない何かだ。人を見ない言葉だろう。


「それと私は服を着たいのです。それが人間らしい行動だと思うので。あなたが足の下にしまい込んでいるのはリク君から渡されたモノですよね? なぜあなたはそれを足の下に敷いているんですか? 私が力で奪わない事をいいことにけっこうやらかしていませんか? あなたは何かを勘違いしていませんか?」


 なんか俺、思っている以上にキレているな。というかこれは本当に俺なのだろうか?

 なんか委員長とかそこら辺の人格が現れている気がする。脳内の円卓の人たちは封印したはず。

 お堅いメガネの委員長が現れているんじゃないだろうか? すごいそんな気がする。


 多重人格って確かストレスの結果、それに対応するための人格を作成してしまうんだよな?

 そう思うとこの表出している委員長は変態に対するために作り出してしまった人格なのでは?

 泣きたくなるくらいにこの変態に対して嫌だと思っていた。その可能性が高そう。


 簡単に人格を作り出せてしまうと思うと自分の何を信じたらいいんだろうか?

 そもそもリク君が本当に転生先の元々の人格だっていう事も怪しく思ってしまう。

 いや、下手したらニーナやネネも俺の人格が宿っていると言われたら否定できないのでは?


「ごめんなさい……」


 疑いだけが暴走してしまう。こう考えると俺は言葉を外に出すのが苦手すぎないか?

 もっと人とちゃんと話さないといけないのでは? だがどうやって?

 自分で話しているつもりになってこの有様だろう? 止め方が分からないぞ。


 人と話すために自分以外の人格を必要としてしまう。

 そこまでして人と話す事が怖いか? 怖いんだろうな。

 普段人と関わらない分、それだけ苦手意識を覚えているんだろうな。


 それにしても言いたい事の大半はニュアンスはともかく合っているのが難点。

 俺だと言えなかった事も多々あったし、百点中千点くらいになっているから文句言えない。

 というかもはや人格を交代して、俺は楽隠居を決めた方がいいのでは?


「ごめんなさいしか言えないんですか? もっと何かあるんじゃないですか? まずやるべき事がありますよね? そう私に服を渡すという最重要項目が! もしかして責められたくて渡していただけないんでしょうか? なるほど。この後に及んで変態な行為を止めないと考えてよろしいんですね?」


 いや、うん。これ、絶対俺じゃないわ。


 なんか言葉の響きに嗜虐心が垣間見えてるし、コイツ色々隠すの止めやがった!

 クソ。これは変態の需要に対し、俺本体ではムリポとか考えていたから出来たのか?

 人間を装うために集めていたから変な知識だけならたくさんあるし、情報だけならあったんだな!


 どうすればいい? というか今このドS委員長を止めていいのか?

 止めたら変態の相手を俺がしないといけなくなるんだよな? え、イヤなんだけど?

 しかしこのまま放置したらR18に突入するのでは? ノクターン行きは避けねば。


 あぁ、もう、へるぷみー。


 いや、こういう時こそ円卓組を呼び出すべきなのでは?

 誰が適している? 悪魔か? あいつ不幸を笑うが、根が真面目だしな。

 というかどうやって呼び出すんだ? 呼出し方が分からない。

 呼ばなくても勝手に出て来てた分、どうすればいいかわからないな。


「えと……」


 おい、変態が顔を赤らめていやがるぞ。怒られるのを期待していやがる!

 そして委員長も「コイツいじめていいんだ?」的な微笑みを浮かべるんじゃねぇ!

 口角を上げているのは同じ体だから分かるんだぞ! バカヤローッ!


 これは俺がどうにかしなければいけない。そう円卓に頼ってはいけない。

 そもそも気軽に呼出ししていい様なヤツらではないだろう。

 それをしたら自分を失うんだ。自分の感情というリソースを捧げて、呼び出しているんだから。


 だから委員長にも頼らずに、この場を俺が治めなければならない。

 別の人格に頼る程に自分の成長が止まり、人間から遠ざかる。

 だからこれを解決する事は俺に必要な経験であり、必要な能力だ。自分の成長を止めるな。


「ダメだ。渡せ。何故俺がお前の喜ぶ事をしなければならない。服を渡せ」


 これはこれでダメな気がする。なんだこの俺様野郎は。



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― 新着の感想 ―
[一言] シロさんの情緒が不安定( ˘ω˘ )
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