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261、服がない

 服がない。


 お風呂から出ようと思ったが服がない。扉を少し開けてから考えたバカどこだ。ここだ。

 そういえばお風呂でいつ服を脱いだか記憶がない。いやそもそも着てなかったわ。

 大分意識がアレだな。お風呂行って飛行船から落ちて汚れて戻ってきたんだわ。


 泥だらけだったから気にしていなかったが、さすがに裸でいるのは恥ずかしい。

 自室で1人ならいい。お風呂とか裸でいてもいい場所ならそこまで気にしない。

 だがしかし廊下に裸で出るのはむちゃくちゃ躊躇われる。


「ねぇ、ネネ。服とタオルもらってきてくれるかな?」


 裸に対する抵抗感。露出癖はないからなのだろうな。

 そもそも野生動物に裸は恥ずかしいという感情はないのに、俺にはあるのか。

 結論として常識があるんだろうな。服を着なければおかしいという常識。


 衣服を着る事で人は自由に寒暖差に適応できる様になった。

 冬眠というリスキーな行動をしなくてもいいし、暑ければ脱げばいいというのがいい。

 どこにでも行けて、どこにでも形態を変える必要なく住む事が出来る。


 でも現在の俺は衣服などというモノがなくても出来る。

 動物的に考えるなら、衣服は煩わしいモノという事になるだろう。

 もし俺が俺としての意識がなく初めからこの姿で成立していたなら服を着ずに動いていたのでは?


「うん! 行ってくるね!」


 少し開いた扉の隙間からあっという間に飛んで行った。隙間3センチもないのにかすりもせず。

 ここが出入り出来るならどこでも侵入できるだろう。やはり強くないか?

 元気な声と幼い空気に誤魔化されそうだけど、絶対に強いよな。あの子やっぱり強い気がする。


 というかもしあの思考のまま行ったら廊下を裸で歩いていたのでは? 可能性が高い。

 何故裸で歩いてはいけないのかとか変な風に考えていたらたぶんきっとそうなっていた。

 お目付け役がいなくなったからってどっか行こうかと考えてなかったか?

 この想像が出る時点で薄っすらと考えていた事がよく分かるな。バカめ。


 文明人を放棄するな。知恵の実を食べる前のアダムと化すな。

 でも初めに隠したのが股間っていうのがなかなか面白いよな。

 とりあえず隠すのに使ったのが葉っぱというのも。正面しか隠せていない。


 言い換えれば正面の何かに対して隠したくなったのか?

 防護の意味で考えると色々な意味で弱すぎる。

 パンツもあれはいつ頃考案されたのかを考えると不思議な気分になる。


 あれ、庶民は何時から穿きだしたんだ? 布地の量を考えるとけっこう遅くになる気がする。

 ズボンもいつからあったかが分からない。ふんどしもそうだな。

 でもふんどしはちょっと早そうな気がする。立体構造じゃないし。


 服を作るのって大変だよな。繊維をより合わせて糸を作ってそれを生地にする必要があるんだから。

 特にパンツなんて通気性死んでいたらダメだから動物の皮を利用したモノとか使えないだろう。

 生地にする以上ささくれだっている様な繊維、運動会の荒縄みたいな糸で作った生地だと穿けないだろう。想像するだけでかゆい。


「お待たせ~!」


 そう考えると本当にパンツとか下着が出来るまでの流れが不思議だ。

 適当な素材が初期にはないはず。なのに今現在は存在しているんだ。

 どんな心変わりというか、心境でそれが作られたのか。

 なぜそこまでして隠したかったのか。


 生地を考えるとある程度の工業技術がある集落で一部のために作られるとなるだろう。

 そう考えると高貴な身分のモノが隠すために作ったと思うのが自然だろうか?

 露出しなくなる事で何が起きるかといえば、相手のモノを他の異性から見せなく出来るという事。

 独占欲を考えると自分よりも相手の貞操を求めて作られたのだろうと想像する。


 一方にさせた以上「しないというのはお前は私以外とやるつもりか?」となって、もう一方もしまう様に言われると思われる。

 そうやって下着文化が広まれば、していない事が相手より劣っていると認識させられるかもしれない。

 恥ずかしいという感情は周囲が隠す事が自然、常識だと認識しているから起きるのだと思う。


「ありがとね」


 なんでパンツに対してこんなに物思いに耽ったんだ。

 物思いに耽り過ぎて戻ってきてしまったじゃないか。

 たぶん穿かなくてもいい理由と動機付けして1人放浪したかったのでは?


 理屈が多すぎるな。逃げたかったのか? 逃げない理由が欲しかったのか?

 自由意思という名の呪縛が強すぎるのではないだろうか?

 こうやって早く戻ってきてくれた事に安堵しているのではないだろうか?


 そもそも逃げたところで何の意味もないだろうが。

 逃げてどこに行くんだ? この空の上から。

 それにもうそろそろエネルギー切れしてもおかしくないだろ。活動時間的に。


「シロの服、扉の外のお姉さんが持ってるよ!」


 なんか嫌な予感がする。


 いや、うん。そうだな。そもそも彼女の方が被害者だろう。

 俺は勝手に警戒した挙句、飛行船に穴開けて落ちてったバカだし。

 そう。おかしな事をしているのは俺なんだ。そこを勘違いしてはならない。


 むしろ怖がらせているかもしれない。見た目と裏腹に力が強いから。

 いくら化け物だと知っていたとしても、見た目では判断できないし、勘違いを引き起こしやすい。

 その力がもし自分に向いたらと考えないでいられるだろうか? 難しいだろう。


 扉を少し開けてみる。その隙間からちょっと覗くと目が合った。


 ……目が合った。


 ……。


 怖いわ。


 え、何。思わず扉を閉めちゃったけど今の何? え? ちょっと分からない。

 あれ、変質者? ねぇ、あれ、変質者じゃない?

 本当に人間? 人間が変質してバケモノになってない?


 今の身長が低い状態の俺と目が合うって事はかがんでいたって事だよな?

 なんで屈んでいるの? 意味がわからない。あの人はそういう趣味の方かな?

 さすがにそれは何も擁護が出来ない。


 幼いというのは体が出来ていないという事なんだ。

 未成年はいくら子供が作れる機能が出来たとはいえ体が不十分だ。

 歪な経験をすれば体が歪むし、何より精神衛生上いい事がない。


 歪な経験は大人ですら歪めてしまう。ましてや子供に対してやるのはいい事ではない。

 10歳の子の1年は人生の中の10分の1。40歳の大人の1年は人生の中の40分の1。

 子供と大人、同じ時間同じ経験をしても、その時間の比率は子供の方が大きくなる。

 芯が歪んで俺みたいに歪な精神になったらまともな人生を送れないんだぞ。


「ネネ。どうやら見えてはいけないモノがいたみたい。目の毒だから離れておいてね」


 撲滅スイッチが入った気がする。殺る気マンマンだわ。変質者死すべし。慈悲はナシ。


 むだに口角が上がる。我慢をしなくてもいいってだけで気分がこんなにも上がるんだな。

 破壊衝動が実は強いのではないだろうか? 普段後先考え過ぎるだけかもしれない。

 そうだな。たぶん可能性に過ぎない事故を恐れているのだろう。


 視界の端でネネが部屋の隅へと行くのが見えた。

 扉を開けたらすぐ外に出て扉を閉めよう。情状酌量するために話しを聞くのは大事か。

 害悪に対する判断をしっかりしなければならない。


 疑わしきは罰せずではある。冤罪などのモノの可能性がある。

 子供との接触の仕方がちょっと犯罪チックになるだけで本当は仲良くしたくてとか。

 そもそも子供というか、猫や犬とかに対して割かし人間は変態な行動するからな。

 赤ちゃん言葉で話しかけるとか。そういうモノの延長線上の行動の可能性はある。


「あ……」


 泣きそうな顔をしたあの女の人が小さく声を漏らし、扉の近くの壁のところでうずくまっていた。


 ねぇ、これもしかして俺が悪いの? 悪いのは俺かな? 俺だよな……。

 さっき目が合ったのもこうやって壁を支えにしないといけない状態になっていたからでは?

 絶対なんか絞られたりとかして、精神的にやられていたからこの状態なんじゃ?


 これは別の意味でネネには見せられない光景だわ。








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[一言] 全裸徘徊を回避!
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