257、ネネとお話
「そうだよ! ネネはね! 色々見てきているんだ!」
胸を張っているのがよく分かる声。とても眩しい声。自分の闇が混じる声とは違う。
自分というモノの醜さが憎い。何も出来なかった身だ。妬みの感情が今も零れる。
身を焦がす嫉妬の火は心をじりじりと焼き、笑う口元によって引き攣れ痛みを覚えさせる。
出来なかったのは俺自身。やらなかったのは俺自身。
足らなかった自分自身が悪いのに、白い子、ネネを何故妬む。
悪い子どこだ。俺だよ。考えるばかりで行動が追い付いていないバカだ。
やりもしないヤツが、やっているヤツに、何かを言えるわけがないだろ。
考えるのは簡単だ。資源も時間も投資もしない。もちろん勉強しているならかかるだろうさ。
だが俺みたいな専門外のヤツがやいのやいの言うのは相手からしたら既に過ぎた道だ。
羨ましいならやれ。妬ましいなら相手の努力を考えろ。寝ているだけで手に入るモノなんてない。
他の事しているのも、その分野以外なら寝ているのと同じだ。忙しいは言い訳に過ぎない。
「聞いても大丈夫なところある?」
一番記憶にあるモノとか順位をつけて答えての問はなかなかに難しいと思う。
そもそも記憶なんて雑多なモノだ。頭の中で順位などつけていない事柄は多い。
俺なんて質問されて初めて考えるくらいに順位なんて気にしていない。
あと話していい話かどうかは割かし重要だ。業務上知りえた顧客の情報とか、そもそもこちらがどういうシステムで管理しているかとか、信頼している人でも関係者以外に話しちゃいけない内容は多い。
顧客の情報は当たり前だが、どういうシステムで管理しているかバレたら悪人に利用される可能性がある。例えばずっと更新もせず同じシステムを使っていますとかヤバすぎる。
ハッキングチャレンジ回数を増やす様なモノだ。小まめな更新はマジ大事。保守管理ほんと大事!
人の運用でもこの時間帯は人が少ないだとか、あの人は注意が散漫で狙い目とか、そういう管理システムの穴が割れると結構致命的。
その話した相手自身が話してなくても、まかり間違って悪人の耳へ入ったらまぁ大変だ。
金庫の中身が盗まれた時、その穴がどこから漏れたか調べたらあなたの口でしたとなれば責任問題は免れない。マジ気をつけろ。
「話していい事……? うーん?」
初めはどこまで話すつもりだったんだ? 下手な聞き方をしてたらヤバかったのでは?
聞いてしまえば引き返せない、引き返すには責任問題がややこしくなって面倒になるとか。
いや、この考えはネネが考え不足だという前提の思考なのでは?
もしの話だが前置きせずに話させた場合、偶然を装って身内に引きずり込むための手段にしたかもしれない。
身内に引きずり込まれるのはある意味願って叶ったりな展開か。今は求職中みたいなもんだし。
だが沈むとわかっている船には乗りたくないな。船長が終わっている船とかは乗る気はないし。
いや、船が沈んだところで俺自身に影響する事はないのか?
死にたくないとか俺が言っても戯言にしかならないし。
本当に死にたくなかったら……何しているんだろう? もっと形振り構わないのか?
食えもしないプライドを捨てて、尻尾でも振っているんだろうか?
そもそも俺にプライドとかあるのか? いや、むしろプライドの塊なのか?
自分の体は凄いぞって、自分自身は置いておいて、それは誇っているのだろうか?
中途半端な無能だな。動く無能程集団行動において邪魔なモノはないな。
「どんな動物と出会ったとかはどう?」
プライド。考えるだけなら簡単だが、実際問題それは有形無形で、人によって変わるものだろう。
自分は人と違うぞ。これが出来たぞ。自分は素晴らしいモノだ。つまり自己肯定感か?
それどころかある集団に属している事、その事をプライドにしたりってほんと簡単だな。
しかし俺のプライドってなんだ? 体か? スペックか? それは間違いない。
俺じゃなければ絶対にもっといい場所に行けたと思うくらいだ。しかし人生の舵取りは俺なのだ。
扱えないスペックを誇りにしているとか、とてもバカらしいじゃないか。
それは誇りにする価値がない。勝手に高い下駄を履いているつもりになってるんだ。
立つ事も出来ていない癖にパイロットを名乗るなよ。這えよ。這ってでも動けよ、バカ。
体の理想値で語ったらみんなオリンピック行けるわ。出来ない事を語るんじゃない。出来る事をしろ。
その体を動かしているのは他の誰かか? 違うだろ。お前が出来る事をしろ。
「魚?」
候補が多すぎて何の想像も出来ないんだよなぁ……。
海の魚というかアジが一番想像しやすい魚像な気がする。
釣り勢ならハゼだろうか? ボラとかシーバス、イシガキダイ、イシダイ、タイとか……。
そういえば空にいたトビウオとかも思えばやばいな。可能性が高そう。
川魚の想像だとコイとかか? この世界は海が遠いし川魚の気がする。
いやでも地図の北東にあった湖はちょっと塩分濃度高そうだな。あそこなら海水魚もいけるか?
つか魚の名前を言われてもこちらの魚の名前知らないから、何も分かんないじゃん!
こういうところ、世界の常識がないっていうんだよ。
異世界に地球の常識が通じるものか。特に固有名詞。歴史。
人の動き1つ取っても、変わった習慣がちょっとあるだけで、大きく変わってしまうだろう。
ちょっと地球に近しい生活様式があるからって全部が全部でそうあると思うんじゃない。
「どんな魚なの?」
魚の特徴から海水魚か淡水魚か、エラ呼吸か肺呼吸か皮膚呼吸か、ちょっとは分かるかもしれない。
それによって行ってきた場所の特徴がわかるかもしれない。いやでも空にトビウオいたしな……。
この世界でどういう進化しているか分からない。そういえば例のあれはクラゲ枠でいいのだろうか?
まずいという事はアルカリ性? クラゲに刺されたら酢でもむと和らぐっていうしアルカリ性か?
浮かぶために空気をため込んでいたし、あの臭いがもしかしたら空気よりも無茶苦茶軽い可能性も。
触手が多いのもクラゲらしいし、エチゼンクラゲみたいなモノな気がする。
やっぱ何かに食べられてそうだな。マンボウに相当する生き物がいるんじゃないか?
穴を開けるだけでも高度は下がったかもしれないが、風船と違って自分で穴を塞げるから水責めが良かったんだな。
臭くて苦くて泣きたい気持ちでやったんだけど、でもあの量の水はどこから出てきたのか。
魔力の仕組み的に近場の物質を組み替えて作っているはずなんだけど、作成する反応が早すぎて意味が分からない。
モル質量で考えるなら水1gが22.4Lの水蒸気と同じ。1Lの水を作るためには22400Lの水蒸気が必要になるわけだ。
あの量の液体を作るために周囲の原子を使っていたらそれだけで浮き袋はぺちゃんこになっていたはず。だがそうはなっていなかった。
ネネの羽ばたきもそうだけれど、他に何かが関係しているとしか思えない。
いや、あの時のニーナの説明に嘘があった? その可能性は高い。
だとしたらやはりニーナは敵側と見做した方がいい?
こちらの思考に沿わせて都合よく勘違いさせようとしたのかもしれない。
下手に情報を与えたら何をするか分からないから、分かりやすい方向へ誘導しようとした?
「なんかこうまるくて、トゲトゲしてた?」
ハリセンボン?
明けましておめでとうございます。年末年始謎に忙しかったです。本年もよろしくお願いします。






