253、再会
格納庫? に入ると扉が閉まり、シューっという音ともに風が流れてきた。
圧力に対する感覚が鈍っている気がする。気圧調整で空気を入れただろうに大した差を感じない。
耳鳴りとかも特にないし、鼓膜が強すぎて実は小さい音を聞きにくいとかないだろうか?
聴力を強化とか、視力を強化とか、割かし簡単に強化しているけれど、原理を考えると難しい。
耳を大きくすれば集められる音は増えるかもしれないが、音そのものを大きくはしない。
音であれば鼓膜の向こうの耳小骨が増幅し、蝸牛管の中のリンパ液を揺らして電気信号に変換。
小さい音を大きくするなら中耳の耳小骨の増幅率を上げるか、内耳の蝸牛の感度を上げるかになる。
あとは脳の処理能力を上げて、信号の細かい部分を読み取れる様にする?
個別の音を分解し、聞きたい音を理解するなら処理能力を上げて、取捨選択をすればいいのか。
「ねぇ、シロ! リクがもうすぐ来るよ!」
そうなんだねぇ……。いや、うん。気分が乗らないわ。
今のこの現状、何といえばいいの? いや、ほんと突発的に落ちて、行方不明になったしな。
そしてすぐに回収されるという……。何この珍事態? しかも裸というね?
泥を纏っているから多少マシかもだけど……裸だぜ? 全くおかしいぜ。
文明に慣れたモノからしたらあり得ない格好なわけだ。謎に中学生が現れるくらいに珍妙な事態だ。
そういえばなんで中学生ってだぜ? って使うイメージを俺は持っているんだろう?
たぶん「まだ俺のバトルフェイズは終わってないぜ!」とかのせいかな? あれは耳に残る。
まぁ、気にしたところでどうにかなる問題じゃない。
どうにかする事が出来たとして、俺が恥ずかしくないだけだ。
なんか悲しいな。なんかこう気にしているのが自分だけな気がする。
「そっか」
またそっかとかほとんど気のない返事しか出来ていないだろうが! バカ!
興味がない事に頭を使わな過ぎか? この有能な子が敵にならないと過信してないか?
というかこの子が敵に回ったら完封負けする可能性が高いぞ?
ワイヤーで縛られたら物理での破壊や魔法での破壊は出来ない。
魔法での脱却……時空魔法とか存在するとして、そこにいなくなれば可能? サイズの変更でも可か?
まぁ、そんな都合のいい魔法を今俺は使えると思えないのが問題か。
実際問題、それをする場合、どういうイメージをすればいいか分からない。
粒子を転移したい場所で再構築する? それで出来上がった自分が同じ自分なのだろうか?
大きくする小さくすると簡単にいうが、体の中の分子を圧縮とかしたら下手したら核融合みたいな事が起きるかもしれない。少なくとも体の中の臓器が無事でいられる保証はない。
「うん!」
ハチドリの表情は読めないけれど、その声はとても元気な少年がすごく気持ち良く笑顔を浮かべているのが脳裏に見えた。たぶん男の子で問題ないとは思う。それどころか女の子の可能性が微レ存。
いや、うん。ほんと俺って妄想が激しいというか、勝手に相手を想像し過ぎている気がする。
これが好きそうとか、聞いてもいないのに、ちょっと見ただけの情報で予想しがち。
感じるイメージを具体化し過ぎだろう。イメージを深める程に相手への先入観が強くなる。
それは言い換えれば外れた時の予想のブレが大きくなるという事に繋がる。
勝手に期待して勝手に失望して怒るという理不尽。それと同じ事を起こそうとしている。
これは今俺がリク君に対し、考えている事にもつながる。
本人を見ているつもりで、想像した虚像に対して視線を向けているんだ。
それがいい事とはもちろん言えない。
「ありがと」
でもどうやれば相手を見ているという事になるのだろう? 分からない。
目の前の相手に対し、余計な想像をせずに、正直に物を話す?
いやしかしそれをするのは危険なのでは? 危険だからこそ想像を止められないのだろう。
自分が死ぬ、殺される、動けなくされる。それらの可能性を踏まない様に生きたい。
通り魔的な何かはともかく、避けられるモノは避けるべきだろう。
だとしたら想像力を上げて、自分が死ぬ可能性を最低限避けられる道を選ぶべきだ。
ある意味今の俺は正直だろう。狙いが決まらないから噛み方が決まらないだけで。
生きるという大目的のために、現状をどうにかするという小目標をクリアしたいだけ。
目標ばかり見て人間が見えていない気がする。そこがダメなんだろう。
「あ、リク! リクーっ!」
そう言えばネネって一体どこから声を出しているのだろうか? 地味に分からないよな。
鳥の声帯、いや、人の声は歯の形とかもけっこう大きく影響していなかったか?
嘴がそうである以上、どうしたところで人間と同じ発音というか声を出せないはずなんだ。
しかしネネは丸っきり人間の様な声を出している。どういう理屈だろう?
インコやオウムみたいな大型鳥類はけっこう嘴がギザギザしていて舌が大きかった気がする。
チンパンジーが人間みたいに話せないのは声帯と喉が近すぎて複雑な音を出せなかったからだっけ?
ちなみにネネは舌は長くて細い。声を出せる口じゃないはず。
実はあれ、魔力を声と認識出来る振動に変換して出していたりするのだろうか?
だとしたら出力を上げれば音響兵器として利用できるかもしれない。
物理で破壊しにくいモノでも固有振動数を見つけて危険速度に到達させれば大規模破壊できる?
小さくても広範囲を壊せるし、身に纏わりつくモノを弾く事も壊す事も出来る?
何かな? ネネって実は最強? 強すぎない? チートっておまんの事か。
「ネネ。よくやってくれたね。ありがとう」
……やはり微笑み大権現。もうその穏やかな微笑みの下に何が隠されているのか不安になるよ。
ねぇ、彼女はどうしたの? いや、実際には聞けないわ。だって殺したよ? って言われたら怖いし。
流石に殺したはないはず。いや、でも精神的に安定を欠いていたらその可能性はあり得る?
いやでもやはり聞いてみるべきか? ここにいるべきかを考えるなら必要か。
聞いてみて生きていればまだ大丈夫。死んでたら精神的にヤバい。
お茶濁されたら? 今はとりあえず生きているけどみたいな状態だったら最悪なんだけど。
船から下ろしたよ? って言われた場合、それが紐なしバンジーか地上で街にかも確かめられない。
妙な依存を発揮していたらもうそれだけでもヤバいし、処分の方向性を考えるだけで怖い。
というか俺がおかしくて悪いのは確かなんだから何もお咎めがないのが一番。
「ただいま」
あぁもう。どうしろというんだよ。聞きたい事の聞き方が分からない。
つか何? このぶっきらぼうな言い方。どこのツンデレ少女かな?
何かな? リク君の前では俺は女の子になっているわけ? いや、それはないよな。
単純に俺はどういう風に振舞えばいいかよく分かっていないだけなんだ。
それと昔読んでた小説とかが染みついている気がする。対人経験よりも圧倒的にあるからな。
生身の人間と話していた時間が少ないからといって小説を土台にしたコミュニケーションとかヤバすぎるだろ。いやでも俺は現状ベースがないから話すとしたらそっちに寄ってしまうのか。
ほんと難儀が過ぎる。もっと人間らしく生きてくれよ。
「おかえり」
リク君は微笑む。
すごい。何の色も見えない。いや違う。喜色満面か。
だが喜びしか見えないから怖いんだよな。
喜び以外の陰があればもう少し察しようがあったんだけれど。
ほんと怖い。
「あのお姉さんはどうしたの?」






