245、墜落
壊れた。
壊れちゃった。
扉じゃないところ壊しちゃった。
っていうか落ちてる。
え、いや、どこに落ちてるの?
フラグの落ちるは合っていたけど、俺が落ちるのか!
どこまで落ちているの?
風の音がすごい。
いや、なんで浴室の隣が空なの?
意味が分からない。
というか今、全裸なんだよなぁ……。
いや、もう草。
浴室を空に隣接させるメリット……いや、理由が分からない。
あるか。汚水を捨てやすいというメリットが。機関部からも離せるというのも大きいな。
あー。もうあんなに小さい。
そういえばこの世界の空も青いんだなぁ。
……壁に穴を開けたから気圧で吸い出されたのか。
パラシュートなしの全裸スカイダイビング。
何をどうしたらこういう事になるんだろう?
どこをどう間違ったらこんな状況になるのだろう? 誰が想定した?
あ。俺が開けた穴はどうなるんだろう? 彼女は問題ないだろうか?
思考が飛び飛びになる。風がうるさいせいだ。
このまま落ちたらクレーターが地上に出来るだろうか?
この後どうなるんだろう? 分からない。
股の間、脇の下を風が通り抜けていく。髪の毛がむっさパサパサ煽られる。
たぶん今俺の顔はむっちゃ目が死んでて口は半開きだろう。
いや、呆ける事しか出来ないだろ。これ。
頭の中は騒がしいが、俺自身はたぶん呆けている。
いつまで落ちるのだろう? ここはどれくらいの高さだったんだろう?
飛行船って飛行機と違ってそこまでの高度がなくても安定した航行に問題なかったはず。
天気には左右されやすいけれど、それ以外ではメリットが盛り沢山だった。
飛行機よりも遅いが、足場として考えるなら遅い方が都合がいいかもしれない。
飛行機よりも遅いが、空中である以上物理抵抗がない分、船よりも速い。
ジェット気流よりも高度を上げれば天気の影響も受けない。
そう思うと雲よりも高くを飛んでいたリク君の飛行船は下手したら成層圏にいた? いや、まさか。
きっと千mとかそれくらいだろう。300mくらいならもう地面に到着しているはず。
なんでこうなるんだろうなぁ。
俺って何か悪い事をしたのかな? ただ普通に生きたいだけだよね?
ちょっと頑張って前を向いて歩きたいだけだよね? 別にそれ以上望んでないよね?
世界征服をしたいとか、酒池肉林の限りを尽くしたいとか、そんな事も考えてないよね?
ほんとわけがわからない。
ただ普通の生活を、他の人と同じ様な生活を、ただ笑って生活出来る事を望んでいた。
贅沢は言わない。自由のある生活を望むくらいだ。それは贅沢だっただろうか?
ちょっと贅沢だったかもしれない。それを普通と言えるのは前世でも3割満たないんじゃないか?
貧困地帯で聖職者が性食者になってたり、救いの手のはずだった職員が加虐に走る。
モラルのある世界、いや、人道が機能する世界は存在し難い。
どんなに理想的なシステムを組もうとしたところで、それを成しえるまでに何世紀かかる事か。
日本の当たり前は世界の当たり前ではない。日本の下層だとしても十分高い生活水準だったりする。
妙な事が起きたせいで、思考がこんがらがっている。アホかな? バカかな?
結局のところ今いる場所が重要だ。貧困をどうにかしたい? 力がないモノは何も言えないんだ。
思想がモノを作るか? 作るのは人間だ。金だ。物資だ。それらを手に入れる手段だ。それらが力だ。
混乱し過ぎて変な事を考えてやがる。
とりあえず足を下にしておくか。頭から地面に突き刺さるのはギャグが過ぎる。
いや、真顔で地面に足から突き刺さるのもシュールだわ。
空から落ちて平然としていたらどうしたところでシュールだろ。
全裸の時点でシュールが過ぎるんだ。
どこか無難なところに落ちて欲しいな。裸だし人里から離れた場所がいいな。
この姿を人に見せたら普通に恥ずかしい。どこの原子人類なんだ? 困るわ。
どういう顔をして人に顔を合わせればいいんだ。服を着なければ人間ではないわ。
突然の衝撃だった。いや予想していたからこそ顔を俯けたりして頭が下になる可能性を避けたんだが。
つま先が地面へと埋まり、股の付け根まで地面に深く突き刺さった。なんとなく腕組していた。
土煙の向こう人影が無数にあった。
フラグ回収、秒かよっ!
地面に手をつき足を引き抜く。もはや確認するまでもなく、傷一つない。
人間なら10m程度でも足は複雑骨折だろうに数百m落ちた程度ではケガしないのだから化け物だ。
とりあえずムダに仁王立ちしておこう。堂々としている方が勝手に人は納得するモノだ。
パンツ1枚でもいいから衣類が欲しいっ!
「な、なんだ……」
第一村人。ベレー帽? みたいな被り物をしている少し汚らしい男だな。
街中で見た事のある人とは基本的な風体が違う。正確に言えば清潔さが足りない。
流民と言われても信じられる姿だな。この集団がどういう集団か、分からないぞ。
辺りには家の様なモノがある。街中で見かけていた謎プラスチック製じゃない。
木を骨に粘土? で壁を作っている様に見える。屋根は枯れたススキの様な素材で出来ている。
どこの古民家だろうか? たぶんこれは家なんだよな? ちょっと良く分からない。
なんでピンポイントで厄介そうな場所に俺は落ちたんだ?
謎のプラスチックを使っていないところからして、この世界としてはおかしすぎる。
あのプラスチックが何か分からないけど、豊潤にあるはずのモノを利用していないんだ。
その段階でこの村は異質な空間、現行政権? から外れているグループだと想像出来る。
そういえば森の中の家の時、外壁は木で覆われていたな。
あれは謎プラスチック臭をかき消すためのモノだと考えた覚えがある。
その理屈でいけば外敵に見つからなくするために、こういう民家にしている可能性も十分にあるか。
「お、お前はなんだ!」
村人その2、鷲鼻。きれいに曲がって鼻がガケ。身なりは汚く臭そう。
村人の背中がたいてい猫背になっているところからして怪しい。
ほんと変な村に来てしまった様だ。どんな偶然だよ。
盗賊か反乱軍の隠れ里か、それに類する何かだろうか?
難民の巣窟かもしれない。住民権とかなんとかあるなら都市から追い出された人もいるだろう。
見た感じ自信とか持っていなさそうな人が多く見えるし、そういう人の可能性が高いだろうか?
ある程度食糧をちゃんと確保できるなら人は増えやすいだろう。
学園の農園を見る限り天候に影響される事は少ないだろう。
だが人が増える程に住居問題は大きくなるし、都市は外壁の関係でそこまで新しい住居を増やせない。
「何に見える?」
魔力量とか特殊技能、人足など、そういう目立つ技能がないと微妙な扱いになる気がする。
食料だって生産量に制限があるかもしれないし、なおさら人口の制限とかもかかっていそう。
裕福な家庭、もとい技能者程子沢山になり、自分の力が弱いモノは増やしても追い出される。
いや、これらはあくまでも想像か。
そこまで実力のみ優先される社会なんてあっという間に沈没する。
具体的に言えば点数取りに拘り過ぎて文化が凝り固まる事になるだろう。
多様性にも欠けるから病気にも弱そうだ。
弱い存在にも生きやすい社会は強い存在もまた生きやすい。
多様だからこその柔軟さ。どんな環境でも生存できる。人間は環境を自分で作れる生き物だ。
だからこそ現状の環境に特化する必要はなく、様々な環境変化にも対応できる強さがある。
「神様……」
……あ、どうしよう。上手い事やれば奉られるという方向で社会の中に入る道筋が立つ気がした。
あと絵画に出てくる西洋の神様方が裸でいるのをなんか思い出しちゃってヤバい。
思いっきりそちら方面で遊べばいい感じの勢力が作れる気がするんだけどどうしようか?
やっちゃう? いや、しかしその場面をリク君に見つかったら恥ずかしいな。
だがメリットはあるか? 自分を匿ってくれる集団の作成が出来たら至高だな。
最大の問題は魔力の供給が足りないという事か。結局意味がない?
ウチワで扇がせてもどちらにも実利がないというのが最大の問題。
だがしかしここでツナギを作る事で秘密の工房みたいなモノが出来るかもしれない。
身なりをキレイにする事などが出来れば商人として活動させる事も可能ではないだろうか?
自信のなさは自身のなさにつながる。上手く流せば手足として使えるだろう。
問題はそれをする実力が俺にあるのか? という事。
そして工房として利用するとして作りたいモノが特に思いついていない事。
何が作れるかも分からないし、俺は体が頑丈だとか力が強いだけでしかない。
そもそもここの連中は神様に対していい感情を持っているかも怪しい。
「君達が思い描く存在と同じ保証はないな」






