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243、お風呂場

 むっとした顔をしてしまっていると背中を撫でられた。

 シャワーから出るお湯をかけながら触る手つきにいやらしさは感じなかった。

 やはりこのお姉さんは理解が出来ない。ただおふざけが多いだけなんだ。


 洗うなら早く洗えばいいのに。


 自分で出来ない事に直面する程に自分が嫌になる。

 他人に洗われる理由は他人なら俺の目の届かない場所にも目が届くから。

 そして洗った事の保証を他人がするので責任は他人が被るからだ。

 第三者視点では他人が責任を持つ方が安心出来るというモノ。分かるけれど面倒くさい。


「かゆいところとかある?」


 思えばかゆいって感覚もこの体には縁がなかったな。

 痛覚がない、もしくは感じる程の異常事態までのハードルが異常に高い、この防御力の高さ故だろう。

 かゆいという感覚ってどういうものだっただろう? 


 大きな傷は出来てはいないが、小さな傷などが原因で炎症が起きている状態だったかな?

 毛穴とかで起きやすく、雑菌が繁殖したり脂が詰まったりといった異常に対し起こす反応?

 その異常に対し、外部から取り除くべき障害と判断した神経が伝える信号でいいのだろうか?


 脂物を摂りすぎるとニキビが出来るとか、アレ地味に良く分からない反応だよな。

 何故皮膚を壊す程の脂を顔から出すのだろう? 皮膚の防御力を下げる様な自傷反応は理解しにくい。

 そんなにすぐ脂が体に吸収されるわけじゃないし、多すぎる分は吸収しなければいいのだから、わざわざ体を傷つける反応を体が起こすの意味が分からない。


「かゆくない」


 アトピーも花粉症も起こる必要性が分からない。見ていると痛々しいし辛そうだし、生きるのが大変そうだなって思ってしまう。

 しかしその過剰に反応してしまう体質の対処のために、空気を綺麗にしたりとか行動したり、反応を抑える薬を作るわけだ。

 これは人類という種族がこの先直面するかもしれない世界に向けての布石だったりするのだろうか?


 とにかく多様な個体を作り、個人ではなく、人類という種族の生存出来る確率を上げる? 

 この体は痛みもかゆみもないし、壊れたらそれまでなんだろうな。

 そしてこの身はこれで末代の存在であると。まぁ、俺に子供が出来てどうなるという話でもあるな。


 ……下を見る限り未成熟の状態で固定化されている以上、子供を作る素も出せないし、子供を孕む事はない……ないよな? この体は多分成長しない。きっとしない。

 いや、そもそもこの身がタンパク質で出来ているのかどうかすら分からない。

 遺伝子情報がDNAの形で存在しているかも分からない。


「じゃあワキワキと」「みゃあっ! 何をする!」


 いきなり脇を変な手つきで触るな!


 洗うなら洗え! 他に何も余計な事はするな!

 手出し出来ないのをいい事にヘンな事をするな!

 しかも1度ならず2度も! お前は何を考えているんだ!


 ……頭の中では強い言葉をたくさん使えるのに、考えて発言する癖のせいで瞬発力がない。

 この発言を口にした場合何が起きるだろうか? 悪影響はあるだろうか?

 たぶん今回に関してはなかった気がする。そうだろうか?


 手出し出来ない事情は俺がパワーのコントロールに不安があるからだ。

 その不安を口にする事で、危険物としての扱いへと変貌する可能性はなかっただろうか?

 現在まだその不安を口外したことはない。つまり危険だったかもしれない。


「うん。ね、仲良くなろ? 私は仲良くしたいな」


 理解がし難い。だがそれまでの行動が仲良くするための予備動作だったとしたら少し繋がる。

 しかしだ。俺と仲良くして何になるのだろう? この猜疑心の塊に他人との繋がりはほぼない。

 化け物じみた力はあれど、俺というソフトのせいで、他人が思うままに動かすのはほぼ不可能だろう。


 ただ力だけを見て、自分なら上手く操れると思って関わっている?

 今になって仲良くなろ? とか言い出すとか、その気配はすごくある気がする。

 メンタルが不安定だから上手く転がせば暴走してくれるとか。


 ……なんか後ろから抱き抱えられているんだが。意味が分からない。理解が出来ない。

 これも手のひらで転がすための予備動作? 可能性が高い。それだけでなんとなく嫌だ。

 なんか抱き着いて自爆する生体兵器とかどこかにいなかったっけ? それ並みに不安。


「もういい。俺はもう上がる」


 手のひらでゆっくりと座っていたイスを押し身を起こす。

 万が一握って力感覚ミスって壊してしまうと恐いから気を付ける。

 ゆっくりと動けば多少力が強すぎてもなんとかなる。


 いくら接触過剰で大分イライラしていたとしても、この方法でかかる力は体重を越えない。

 体重を越えないなら壊れる事もない。きっとそう。たぶんそう。

 必要以上の力は外へと逃げる。いや、跳ねない様にゆっくりすれば余計な力は込められない。


 傷つける事が目的じゃない。ただ移動する事が目的だ。

 見た感じ汚れとかも確認できない。次は1人で入ろう。ムリ。

 逃げるのか? と言われても、流石にきつい。いたずらされるのが一番耐え難いわ。

 抵抗出来ない時に何かされるのが一番苦手過ぎる。


「ごめんごめん。本当に仲良くしたかったの」


 いや、怖い。恐い。


 なんていうか声の感じとかがどこか空々しい。

 やっぱりテキストを読んでいる様な歪さを感じる。

 どこかにそうやって関われというテキストでもあったのだろうか?


 パーソナルスペースを潰せ、出来るだけお互い裸に近い状態にしろとか。

 感情を引き出させる事が重要とか、無関心よりもマイナス感情、とにかく感情を揺らせとか。

 接触による熱の伝導は効果的だとか……。これはどこのデータを俺は参照しているんだ?


 なんか昔読んだコミュニケーションのコツとかそんなのを思い出している気がする。


「やめてくれ。空々しい」


 完全に男言葉になっとる。見た目に合っていない。いや合っているのか?

 両性具有か無性か、それとも両性不完全とでも言えばいいのか。

 強いていえば雄側だとは思う。きっと雄で問題ない。


 同種が見つかれば定まるのか? 体的な同種ではないのだろう。

 精神に同種があるのだろうか? 精神的な同種とか見て分からないだろうに。

 結局のところ俺は自分が人間だと思えるまで、性別が成立しないのだろう。


 人間らしさに囚われ過ぎている。それを追及する程に人間からは遠くなる。

 適当に体を乾かそう。服はどこにあるだろうか? きっと近くに用意されているだろう。

 リク君は何を思ってこのリラさんとやらと関わらせようとした? 意味が分からない。


「待って。まだ洗い終わってないし、服も届いてない」


 知らん。適当に服は探す。時が来れば来るのであればそれを待つ。

 別にこの身は異常が起きれば最後だろう。多少風呂上りに裸一丁でいようが風邪など引かん。

 出口があったのはあっちで間違いないよな? 確かこの壁が開いたはず……。


 つなぎ目がわからん。


 出方がわからん。


 換気の穴? と排水溝、湯船、さっきまで座っていたイス、シャワーノズル。

 辺りを見回してもボタンの類は見当たらない。空間は角が丸くなっていてゴミが溜まらない構造?

 もしかしたら上空では水が貴重かつ腐食の原因になるから密閉を強く意識している?


「逃げちゃダメ」


 リラという女は笑いながら見ていた。裸でゆっくりと近寄ってくるのが恐い。不気味に感じる。

 一般男性なら普通に目鼻立ちが整っていて可愛い部類の彼女に興奮したりするんだろうなと思う。

 いや、状況が不審だったらそんな軽くでも興奮する程の頭はないかもしれない。むしろ多いか?


 困る。なんというか困る。


 どうやってここから出ればいい? そのカギは結局目の前の彼女が持っているのだろう。

 見るからに端末の類は持っていない。もしかしたらタイマー式かもしれない。

 魔法関係だとか言われたら、魔力で認証されるシステムとか言われたら最悪だ。

 魔力認証式だった場合彼女の意思なく、扉を壊さずに出る事も出来ない。


「扉開けて欲しいんだけど」





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― 新着の感想 ―
[一言] 尻尾をピンと立てた子猫がドアをガシガシやってる幻視が見える( ˘ω˘ )
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