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237、化け物の上にて

 遠いな。だから船待ちをして目的地に運んでもらう事を考えている?

 飛行船は空の魔物が怖いものの基本的に接敵しないとかもあるな。

 これはとても稀な出来事なのだろう。じゃなきゃああいう反応はあり得ない。


 200キロ。東京から長野がそれくらいだっただろうか?

 北海道は横断出来ない。札幌から襟裳岬くらいだっただろうか? 北海道でっかいどう。寒いな。

 歩いていくのはしんどい距離だ。俺は走れば1日で行けるだろうか? 微妙かもしれない。


 そういえばあの神様にぶん投げられた時、地図でいったらどの方角に飛ばされたんだろう?

 西側? 北側? たぶんそっち側だとは思うんだが具体的には分からない。

 どの程度の距離を飛ばされたのかも分からない。一昼夜だったっけ? 分からぬ。


「そういえばどうして来てくれたの?」


 リク君は化け物の上の方に腰かけながら笑って言う。

 どういう返事を期待しているのだろうか? 心配だからとか言ったら気味悪がられる気がする。

 少なくとも俺なら気持ち悪いと思う。そういうタイプじゃないだろ。


 実際問題立ち位置が奇妙奇天烈極まりないからな。

 自己中心的なのは間違いないが、自分のためと言うには身を張りすぎている。

 基準が自分自身にあるはずだが、結果的には自分がない。状況に流され過ぎ。


「別にいいだろ」


 地盤がないのが辛い。土台がないから、しがみつくモノがないからボウフラしている。

 生活基盤なり、仕事なり、自分の中で守らなければいけないラインがないとダメなのだろう。

 身一つであっても、自分の出来る仕事が明確ならその腕っ節が土台となるのだろう。


 俺の体自体にはそういう腕っ節があるだろう。俺自身にないのが問題だ。

 暴力だろうが、防御力だろうが、そういう特徴を俺自身が活かそうとしないのが問題なのでは?

 都合いい時だけ振るって、人間の皮を被りきれない化け物過ぎて気持ちが悪いな。

 いや、それよりも力を出し惜しみして味方に被害が出るのを見ている愚か者の姿かな?

 どちらにしろ気持ち悪さがすごい。


「そっか」


 その微笑みはなんだ。全てを見透かしているつもりか?

 自分は分かっていますよとか言いたいのか? あぁ、分かっているよ。

 下手に踏み込むと傷つけるからとかそんな大人対応をしているんだろう。


 人間不信で子供な事をしているんだ。分かっているんだよ、そんな事は。

 どんなに体自体には自信がついても、それだけでしかない。結局努力伴わぬ力ですらある。

 自分の無効化の仕方とかも簡単に思いつくし、最強とは思えない。

 でもそれでも人よりも圧倒的に強いんだ。だからもっと堂々と振舞わないとダメだ。


「そうなんだよ」


 正直になれないツンデレ少女かな? ねぇ、実年齢いくつ? ねぇ、いくつ?

 30歳だよ、バカ。おっさんなんだよ。筋肉ないし脂肪もなかったけどさ。

 やばい。前世を思い出すと腹が、腹が死ぬ! 恥ずかしくて頭も胃も痛いし、悪魔が笑い転げている。


 この傍観愉悦悪魔も俺の一部だ。分かっているがすごく叩きたい。

 隣で普段横に首を振るしかしていない天使も口を押えて笑っているのが一番腹が立つ。

 心の円卓は今日も誰も喋らないのにとてもうるさい。


 自分との会話がいくら上手になろうが、人間として見たらダメなんだ。

 どんなに頭で正論を言えようが実際行動に出来ないヤツは意味がない。

 SNSで正論ですけど何か? みたいなツラで文字に起こしたところで何の解決にもならない。

 結局会話が上手く出来ないんだからほんとしょうもないヤツだ。


 仕事にもならない行動は社会において大した意味を持たない。

 戯言で仕事を失う事、趣味や特技の公開で仕事を得る事があっても、仕事そのものにはならない。

 言論操作という意味で国民感情の調整とかを仕事にするなら多少はありだろうが、大概は毒にも薬にもならない。


 行動の結果こそが世界に刻まれ、世界を動かすモノだ。

 そして金という社会の血液が流れていないモノは大した傷痕を残さない。

 対価のない行動は停滞に繋がり、静かに餓えて止まるだろう。


 混乱が止まらない。世界を考えだしたら混乱しているのは間違いない。

 世界には興味がない。ないというか、平和だと楽だなとしか思っていない。

 混乱している世の中の方が成り上がりはしやすいが、生きるなら平和が一番。

 現状に四苦八苦しているヤツが、周囲が混乱しているくらいで成り上がり出来ると思うな。


 都合のいい混乱などない。分かりやすい状況などない。

 ただ今をどう生きるか、先を見据えた計画を立てられるか、自分の手腕が問われる。

 先見の明があるヤツについていければ肥え太れる。自分に先見の明がなかったとしてもだ。

 先見の明。それは自分の伝手の多さが光る物だ。少なくとも今の俺にはない。


「ねぇ、シロは僕と別れてから何をしてたの?」


 ……何と言われてもすごく困る。ぶっちゃけ何もしていない気すらしている。

 逃げて移動して、また逃げて。そうやった結果諦めが混じって。そして最後は停まった。

 ただただ辛かった気がする。自由が欲しかった。生きられる場所が欲しかった。


 俺が俺であれる場所が欲しかったんだと思う。

 偽らない自分でいられる場所。自然の中にそれを求めていた気がする。

 森の中の野人になろうとしたら神様に拒否られたけど。


 自然は生身だと危険が多い。ダニはたくさんいるだろうし、刺されれば難病にかかる可能性も高い。

 動物もやばい。体高70センチのツキノワグマの爪でも裂傷で数センチの深さで抉れる。

 医者の言う軽傷は意識がある、部位欠損はしていないというレベル。本人的には重傷。

 でもこの身なら虫にも影響されないし、動物にも襲われたところで傷もつかない。野山で生きる上で最高の体をしていると思うんだけどな。


 地底湖でなめくじや変な魚と仲良くするという選択肢はさすがに遠慮したい。

 緑鮮やかな世界で生きたいんだ……。いや、ほんとね? 分かる? 贅沢? そうだよなぁ。

 ワガママだよな。東京砂漠にいた時でもそうだけど、野山ってすごい憧れるよなぁ。金銭的に生きられるか怪しいモノなんだけど。


「移動しただけだ」


 可能性を求めて移動して、何も出来ずに終わった。

 悲しいくらいに無力だった。自分では居場所を作る事すら出来なかった。

 どんなに力を得ようと望んだモノは得られなかった。


 諦め調で言っている様に見えて、それで諦める事が出来るなら簡単な話。

 諦めたところで都合よく世界は終わってくれない。

 例え借金で首が回らなくなっても自殺しなければ終わらない。

 地獄の様な環境になったところで、それで病気で死ぬまでは終わらないんだ。


「どんなところを移動したの?」


 自殺以外に自分で自分を終わらせる事は出来ないし、自殺の方法がない俺は終わり方すら選べない。

 この体、病気すらしないのでは? 狂ったとしても、魔力が補給さえされればまた動くのだろう?

 精神の摩耗で何も考えられなくなった時が俺の死なのだろうか? それは来るのだろうか?


 たぶんそれすら出来ないだろう。ただ無為に過ごす事に我慢が出来ない。

 行動できなくなれば、どうすれば行動できるかを考える。新しい事を探し始める。

 考えを止める程の衝撃を受けたところで、その後それについて考えるのが目に見える。


「王都は地下に行き水路を通ってたら魚に食われた。その腹を食い破り、出たら森だったから多分東の方に向かった。木の神様かもしれない人にぶん投げられて街に入ってそこで終わりだ」


 端的に言って変な道しか通っていないな。

 道中ずっとゲテモノに遭遇している気がする。

 ほんと俺は何をしたくてリク君から離れたか分からないな。


 いや、俺が離れたからリク君はここまで自分の力で成長出来たのだ。

 俺自身には意味がなくてもリク君の成長という意味ではとても大きい事だろう。

 この根暗と関わり続ける事は成長に悪影響しかないだろうからな。


 なんかテンションが悪い。前向きになれていない。

 あの不味い肉を食べては吐いた影響かもしれない。

 いや、そもそも魔力を吸収した以上に吐いていたのでは?


 思えば頭がすごい鈍くて重い。視野狭窄が過ぎる。

 自分の事ばかり考えているのはその影響かもしれない。

 いつもならもう少し相手の顔色を窺っているはずだ。


「大変だったね」


 リク君の手が頭に当たった。

 熱に浮かされた様にぼやっとする頭が重くなった。

 どうして重いと感じるのかが分からない。


 ただただ重くなった。





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― 新着の感想 ―
[一言] ツンデレシロちゃんが素直になれる日は来るのか( ˘ω˘ )
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