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228、通路

 黒いコートがマントの様に翻る(ひるがえる)

 猫背になっていた背中を伸ばすと思っていた以上に背が高い。

 180? それくらいだろうか? この体の2倍くらいはある。


 1歩1歩はデカいがゆっくりと歩き、時折こちらを見てついてきているか確認する。

 その様は子供慣れしていないおじさんの動きだなとなんとなく思う。

 優しいのか、危険物の暴発が怖いのか。きっと後者だろう。


 艦内の通路を行く。時折不意に通路の壁にすぅっと穴が開く。

 その穴に向けておじさんは足を進め、俺はついていく。

 穴は音もなく開き、10秒もしないうちに音もなく閉まる。


 漫然と歩いてるだけだと延々と同じ場所を彷徨う様に作られているのでは?

 近くを歩くだけでは開かない? 自動ドアではなさそうだ。初めの放浪では開かなかったから。

 前を行く姿、つまり後ろから見ていると手元で何かを操作していたとしても見られないから仕組みはわからない。


 考えられるとしたら手元で開ける様に端末を操作したとかだろう。

 どこに扉があるか分からないという性質は艦内に敵性個体が侵入した時の時間稼ぎになる。

 施錠が個々人で行われるとしたら、権限のないモノを通さないみたいな防犯にもつながるだろう。


 ……防犯を考えるなら1回1回扉を開ける操作は微妙ではないだろうか?

 目的地を最初に設定しておいて、そこまでの道は開く。それ以外の道は開かない様にするとか?

 そうしたら権限持ちを煩わせず、理由の不透明な移動を避けられると思う。防犯的にいい。


 この世界は便利な事に魔力というモノがある。

 これの波長は多分個人個人でけっこう違うだろうし、識別とかも出来そうな予感。

 魔道具とかその個人でなければ使えない様にする事も出来そうな気がする。

 そしたら個人に権限付与とかも出来るだろうな。


 こんな訳が分からない迷路みたいな仕組み、作る理由あったんだろうなって思うと複雑。

 絶対過去に対策しなくてゾンビ船になった飛行船とかあるだろう。

 船内に入り込んだ魔物が人を襲うために徘徊するとか絶対あっただろう。

 見た感じ外壁で侵入を完全に防ぐのは厳しそうだし、そもそも魔物が固形であるかどうかも怪しい。


 液体のスライムとか気体のガストとか物理無効なゴーストとか色々話はあるもんな。

 寄生虫系の魔物とかもいたら大変だよな。魔物って想像するとほんと何でもありになる。

 これでどうやって完全に防げというかだ。万が一の時逃げる時間を稼ぐ方が楽だろう。


 それにしても通路がずっと曲線で、方向感覚がつかめなくなる。

 視界に入るモノは代わり映えのない通路。目印になるモノはなく時折開く穴に入る。

 これ利用者だろうと構造を覚えられないのでは? それが目的?


 どこに向かうかは利用者が最初に設定すれば勝手に準じた扉が開く説が濃そう。

 ……でもさ、これ、迷子になっているとかないよね? 方向感覚は元々風景頼りの身としてはツラい。

 なんかすごくあっち行ったりこっち行ったりして時間がかかり過ぎなのでは?


「これって時間稼ぎ?」


 あぁ、黒いのが出てくる。焦りもあるのだろう。

 急がなくては間に合わないかもしれない。そもそも問題ない可能性だってあるが怖い。

 自分の繋がりがあるモノを助けられない事が怖いのかもしれない。


 自分にとって数少ない内情を知っている相手だ。

 幼稚な悪口雑言を言ってしまう程自分と同一視してしまう相手だ。

 リク君はきっと俺にとって重要な存在なのだろう。


 俺はきっとダメなのだろう。結局のところほんとは誰かに甘えたいのではないのだろうか?

 だからちょっとでも自分の内側を知っている相手に過度な期待をしてしまう。

 ちょっとでも危なくなりそうなら護りたいに傾く。これは歪だろう。


「もうすぐだ」


 振り返らずに言う。顔が見えないと怪しく感じてしまう。

 いや、顔を見ても内側に隠しているかもしれないと考えるからどちらでも同じか。

 結論は面倒くさい俺が悪い。疑心暗鬼が過ぎる。


 身内かどうかの判定も面倒くさければ、人に対する思いもまた面倒。

 同一視という性質が一番ダメだろう。他人は他人であり、自分は自分なのだ。

 人が自分と同じ考えを持つなどと思ってはいけないのだ。


 そもそも俺はあれやこれや考え過ぎて基本的に言葉が足りていない。

 このおじさんと話す時、それが特に顕著に表れていた。

 それでどうして話が通じると思った?


 そもそも俺の考えている事が何故合っていると思う?

 ちゃんと計測したタマゴの魔力注入量と時間の因果関係を除いて、他は全て仮定でしかないんだ。

 たまたま都合がいい感じに話が出来ただけかもしれない。それを確かめる事もしていない。


 計測の仕方も、反応の因果関係も、相手の関係性も、全て想像の内でしかない。

 世間で原子論が出回っているのに、俺は1人で四元素を組み立てて喜んでいる。そんな事もあり得る。

 観測や実験で実証できない事は結局意味がない。


 天動説が宗教的に信じられている世界で、地動説を唱えればガリレオよろしく拷問を受ける事もある。

 世間で信じられているモノが確実に正解というわけでもなく、かといって自分が正しいとも言えない。

 現象を示すだけなら1つの実験でいいが、原理を確定するには無数の実験をしなくてはいけない。

 それは1人で出来るモノではない。


 結局その場での正義は思った通りに動く事になるだろう。動くならシステムに組み込めるから。

 将来を見据えるなら実験を積み重ねて真理に辿り着き応用技術を広げる事になるだろう。

 そして今俺に必要なのは動けばいいでしかない。知っている事象を組み合わせて上手く動けば成功。


 なんか動くで組まれたプログラム。仕組みを理解していないシステムはいつか壊れる。

 あれを継ぎ足し、これを継ぎ足し、そうやってキメラ化したプログラムは何かのタイミングで壊れる。

 壊れて直せなくなって、会社が動かなくなる。まぁ、そういう事態も起こりうる。


 あぁー、もう。アホが。思考が支離滅裂。混乱が激しい。

 結局俺はとにかく行動する以外現状できないんだよ。

 検証も学習も理解も今出来ないんだ。考えるだけの思考実験などほぼ意味がない。


「この先が格納庫だ」


 遠い! すごい遠い! とにかく遠い! 長かった!


 それにしてもようやくなのか。

 そして外観は相も変わらずどこに扉があるかも分からないトンチキ構造!

 侵入者対策にはいいが、普段の移動には無茶苦茶不便な気がしてならない。


 どこに扉があるか分からず、開く音もほぼ無音であれば権限持ちは不意討ちし放題。

 そう考えると少人数でも防衛もしやすいだろうとは思う。

 権限持ちでもどこに扉があるか分からないのでは? と思うと人質を取られたとしても、人質が扉を開けられない様にすれば自由に不意討ちが出来る。

 ほんと少人数でも防衛しやすそうだな、ここ。大したスキルがなくても仕組みだけで防衛出来てしまうだろう。


「それでそこには移動手段はあるのか?」


 扉の向こうには開けた空間があった。

 どれだけ進めばいいか判別できない長い通路を歩いた後なので無意味に肩を回してしまう。

 別に凝っていないが、気持ち的になんだか軽くなる。


 壁際には無数のタマゴ……なんか想像していたよりもこれ大きいな。

 1つ1mとか1m半とかないか? 自分で作ったのが30cm程度だったからなんか驚きなんだが。

 あの黒蹴鞠も俺と同じくらいの大きさがあったのか? 怖いな。


 ん? ちょっと待てよ? あの人型兵器どんだけ大きいんだ?

 そもそもこの格納庫に入るのか? タマゴ比較すると50mクラスだろ? どんだけ魔力を食うんだ?

 想像するとやばいな。魔力量的に敵さんもヤバそうな気がする。


「そこのゴーレムなら行ける。どうする?」




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― 新着の感想 ―
[一言] 杞憂に終わる予感しかしないんだよなぁ
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