225、ユラおじさん
「君が何者なのかを私は知らない。少なくとも見た目通りの年齢ではない事は察しが付く」
ユラというおじさんは薄く濁りが見える瞳でこちらを見て言った。
腕組み指令ポーズをしているのが様になっている。
物々しい言い方をしている様だが、このおじさんは俺を安心させようとしているのかもしれない。
思えば初っ端ピンボールみたいに跳ねたからな!
どんだけだよ。ほんと。きゅうりが近くにあってビビるネコかな?
あれって色味とか形状とかツヤっぽさがヘビに見えるからなのかな?
室内に住んでいてヘビを見た事がないネコが逃げるところからして本能で危険を感じているのか。
「それで?」
気を取り直して話をしようとしているおじさん。
見た目通りの年齢なら目の前のおしゃまなクソガキは前世の年齢も含めても年下である。
さらに言えば対人経験だけで言ったら小学生すら下回るだろう。
ほんとクソガキしているな! 脳内ハイテンションだな! おい!
自分でもわかっているなら少しは謙虚になれよ!
なんだ? 神様のフリをした方が得だって? まさか!
その仮面を貫き通せるのか? お? お? お?
円卓の正論不良はステイ!!!
煽んな! まとまる話もまとまらなくなる!
正論は釘バットちゃうぞ!
……ここ最近円卓メンバーが急に出てきたな……。
何か味しめたか? 何も美味しくないぞ。むしろ酸っぱい。
自分以外に責任ひっかけてしまいたい気持ちの表れかもしれぬ。
「君はリク君をどう思っている?」
質問の意図が分からない。相手の立場も分からない。
表情からして何か深刻そうな雰囲気がある。
どうとでも捉えられる内容過ぎて判断にすごく困る。
敵対者が自分の仲間になれる相手か判断しようとしている?
リク君ってもしかして敵が多い? その可能性は十分あるだろう。
どんな善人であっても、そこに大きな力があれば、商売敵が出来るものだ。
個人として恨んでいる敵は少ないだろうとは思う。というか思いたい。
だがシェアを奪われた企業などがいれば路頭に迷う家庭もあったかもしれない。
そういうのまで想定したら何も言えなくなるだろう。
「含意が多すぎて返答が難しいな」
味方のパターンもあるのか? 親戚とかあり得る。
敵が多いなら味方は敵の尖兵を気にする必要がある。
そしたら深刻にもなるか。
深刻パターンか……。
友達がいない!
俺じゃないんだからそれはないか。
まぁ、そのパターンで交流の関係の心配をしていたら少女を連れ込んだ。
うんうん。保護者むっちゃ心配になるな。どう考えても犯罪臭がする。
しかも何か訳ありの雰囲気も見た感じすごい。
保護者さん、超心配になるな!
「君はリク君の味方か?」
リク君という部分に対しての発音に若干を優しさを感じなくもない。
いや、そもそもだ。敵である可能性は想定する必要があったのだろうか?
しかし生の交流を見たわけでもない。通信機越しの会話だけだ。
安易に味方判定はしてはいけない。
同じ船に乗っている以上、安全のためケンカしないとかも全然普通に考えられる。
問答無用で殺し合いをする様な関係はそもそも同じ船にいられない。
船の上でケンカして運航が出来なくなれば命がないのだ。
だからケンカするなら地上に降りてからだろう。
鉄砲玉よろしく、宗教からの刺客なら自分の命を気にすることなく確殺できる瞬間を狙うか。
神の出来損ないとか、宗教からしてみたら大敵みたいなモノだろうしなぁ。
表面上愛想よくしておくとかもいいけど、敢えての強面とかもあり得るか。
この味方かどうかの確認は暗殺対象の算定とかもあり得るし、やはり返答は難しい。
「分からない。そもそも味方の定義も曖昧だ」
見る。顔色なども観察する。反応を窺う。
体勢が一切変わらない。
写真かな? と思うくらいに動かない。
瞬きはしているから動画ではある。
これで何をどう読み取ればいい?
あぁ、やはり身体的動向を観察するには動かすのが手っ取り早い。
画面の前に張り付かれると動きがないから癖もつかみにくい。
正確に相手の心情を把握できないとしても、見える情報は増えるはずなんだ。
「そうだな……。君にとってリク君は友達か?」
ともだち。なにそれおいしいの?
友達とは何をもって友達というのだろうか?
一緒に遊ぶかどうかで言われたら、遊ぶ機会がないから友達0人になってしまう。
前世含めても遊ぶ様な間柄はいない。本当にいない。
いや、友達ってどうやって作るの?
そもそも今世で遊ぶとか……リク君の中にいた時に少しやったか。
だがそれ以外ほぼないな。
ちゃんと遊んだ認識があるのは前世の愛犬以外いないのでは?
寂しいな、おい。どんだけだよ。本とお友達? 口を使わない生活が過ぎるな。
事務的会話以外出来ない阿呆だから現在困っているんだろ? バカがよ。
「そもそも最後に会ったのが何年前かも分からん。下手したら10年とか経っているんじゃないか? その前も話したのは少ないと思う」
事実を並べるとほんとやばいな。
そもそも友達ってどうやってなるものだろうか?
クラスで隣の席になってとか?
おかしいな。記憶がない。
ベタシチュはいくらでも思いつくけれど、俺は一個も踏めなかった?
あー、うん。司書さんと少し仲良かったかもしれない。それくらいでは?
1日の返却書籍の3分の1は俺だったし、途中から自分で戻してねになり、一般生徒立ち入り禁止の書庫に入る許可をもらえたし。
いや、その時も本しか見てないな。ほとんど話した記憶がない。
世紀末な少年みたいに「とーもだちっ とーもだちっ」って言った方がいいかもしれない。
りーくーくーん、あそびましょ。みたいな感じで言えばいいだろうか?
遊ぶってどうすればいいんだ? わからない。
思考の方向性がホラーになりかねない。
「そうか」
あーもう。ほら、ユラおじさん困っちゃったじゃない。
円卓におばちゃん出現!
円卓がちゃぶ台と化した!
俺はひっくり返した!
含意が多すぎるんじゃ!
立ち位置も分からないヤツに答えるのは難しい!
友達とか聞く段階でなんかすごくリク君の味方な気はするんだがね!
いやね、そもそも友達ってどういう事よ?
何故それを聞いた? 見た目の年齢で判断したか?
社交かっこ笑い的なところで友達って言ったらほぼ皮肉だろ?
お前の同類がそこにいるぞとか、立場が弱いヤツにぶつける言葉になるわ。
口調からして言葉のニュアンスは心配の色が強かったから文字通りの友達だとは思った。
だがだからこそ意味が分からないんじゃ!
どういう意図なんだ?
親戚ポジが1番しっくり来る気もする。
甥っ子を心配する不器用なおじさんとか。
いやだとして質問の仕方とかおかしくなかったか?
味方か? とかそんな質問されたら警戒して当然だろう。
まぁ、厨二病罹患者なら興奮するかもしれない。
厨二病罹患者……。
言動を振り返るとそうとしか取れない話し方しているな。俺。
だとしたらこういう風にしたら緊張が解れるかもしれないと思っての行動か?
お医者さんが小さい子を和ませるために人形の熱を計るみたいなジョークか?
シチュエーションが好きなおじさんなら雰囲気も相まってお得意のジョークだったりするのか?
可能性がないとは言い切れない。
あぁーもう。可能性が多すぎて推測がまとまらない!
とりあえずリク君の味方と判断して話すべきか?
そうした方がこれ以上拗れないよな? そうだろ? そうだな。
「まぁ、他の人よりかは信頼はしていると思う」






