223、ユラ
画面に映るおじさんを見る。強面である。ちょっとブルドッグを思い出す。
目が爛々としていて、目元の肉が少し垂れ下がっている。だが太っている様には見えない。
徹夜を繰り返し、目元の肉が戻らなくなったみたいな感じなのだろうか? 首回りは筋肉で太い。
背景が暗いのも合わさり威圧感がすごい人である。
でもなんかブルドッグを思い出すと気持ちがゆるくなる。
動物は人間よりも親しみやすいから多分それで気が楽になっているのだろう。
人間への苦手意識が止まらないな。
「私はお嬢さんではない。この体には性別などないからな」
リク君が俺をここに呼ぶ以上ある程度は俺の存在を触れているだろう。
どこまで触れているだろうか? 神様の偶像化くらいか?
神様の化身程度に言っている可能性は高い。そうした方が好都合だからな。
そもそも俺の存在が出ているとして、公式的な足取りはどの程度残っているだろうか?
会話自体大してしていない以上、カニを倒したとか森を歩いていたとか街を歩いていたとかくらいだ。
考えてみると色々悲しい。だがその分人間らしいエピソードに欠けているため神格化も容易いだろう。
石化状態の期間があるし、そこで何があっただろうか?
最後にいた場所と違ったところにいたのも気になる。
この体を色々調べられていた可能性も大分高いのか。
「そうか」
ユラと呼ばれていたそのおじさんは何かを飲み込む様にそんな言葉を返した。
色々言いたい事はあるが、本題からズレるからとりあえず置いたという感じだろうか。
とりあえず出鼻は挫く事が出来た。これで一方的な尋問を避けられるだろう。
目の色は緑、髪の色は灰色。魔力は1等級ではないだろう。
リク君の両親と同じで魔力や体の扱いに優れた人材なのだろうか?
知略方面に優れている可能性も高いか。知略方面ってたまに責任者が休めなくなるし可能性高いな。
……リク君の行動に振り回された結果の可能性とかないよね? 元々お疲れ顔の人だといいな……。
いや、さすがに顔の年期からしてここ最近で一気に出来たものとは思えない。
さすがにこれが数年で出来たものなら周囲がドクターストップをかけるだろう。かけるよね?
「それで私に何か用でしょうか?」
そとづらよしお。意味はない。とりあえずツラだけは冷徹よりに整えている。
冗談は精神の緊張を解し視界を広げる助けをしてくれる。
視野狭窄はいつだって否めないがな。少しは広げておきたいものだ。
語調が迷子になるのは外面の手探り状態だからだな。
上手く勘違いさせられれば非人間感を出せるし、これはいっか。
とりあえず神様の模造品ぶって、驕り高ぶる天使様でも演じればいいだろうか?
神様らしき存在を見た感じ、使徒的存在がいたとしても性格は驕り高ぶる可能性は低い。
人間だとしてもその性情は知識だけいっちょ前の幼児的なモノである可能性が高い。
外から見るモノというのは人の間にいないから人間じゃない。そういう方向性の方が趣味だ。
「君は何者だ?」
どう答えるのが正解だろうか?
神だとか言うのは違う気がする。
そもそも神の定義を知らない。
どういう風に扱って欲しいかを聞いているとも捉えられるのも悩ましい。
口に出す言葉自体はある程度重要だろうが、行動や表情などを中心に見られているはず。
そこでうまく人外感を出していけば立ち位置としてはいいだろうか?
しかして非人間ポジション確保しつつ、話せる人外となるのはベストな選択か?
というかそれはリク君が望んでいるかもしれない対応なだけで、俺の選択として合っているか?
それ以前にリク君は特に俺に何をして欲しいとかも言っていないんだ。方針が立ちにくい。
「何者に見える?」
謎のボスムーブ。いやしかしこれボス側は何を思って話すんだろうか?
試しているというけれど、知らないヤツがいきなり正体を言い当てたら怖くないか?
色々ヒントがあったうえで答えを出すならまだしも初対面で当てられたらビビる。
あ、でも違うモノでも「そうだよ」って答えてそれを演じる系のラスボスは好きだ。
不思議な日常を過ごしてのんびりしたり、友達みたいな関係を築くラスボスはとてもいい。
最期は「あの日常がいつまでも」みたいな感じの雰囲気で真の姿になり泣きながら戦うのもいい。
闇が好きか! バッドエンドルートじゃねぇか!
最終話まで行った後、もう何度か日常パートを読み返すんだろ!
そしてもしこのまま日常が続いたらを妄想するんだ! 俺知っているんだぞ!
「わからない」
おじさんはこちらを睨みながら言い放つ。ナイフの如き鋭さがある。
にしてもおじさんなんでこちらを威圧しようとしてくるのだろうか?
だがしかし威圧は無効である。俺に効くのは未知だけだ。
ぶっちゃけさ。殴る蹴るといった暴力って基本無意味だよね。
それで殺すためにやるならともかく、鎮圧を狙ったものって実は怖くないんだ。
暴力を振るう相手なら好かれる必要もないし、敵対者は排除でいい。
いやまぁ、ぶっちゃけ戦略的に考えるなら、味方と敵対者で全て分けた方が楽なんだけどね。
しかし俺は別に世界を征服したいとか、自分の思う様に作り変えたいとか思っていないんだ。
だから誰の敵にもならない様に、程よい位置を目指したい。難しいけど。
なんか征服した方が色々な意味で楽そうな気がしてきたが、それは捨て置こう。それは破滅の道だ。
「あなたの見たままの存在だよ」
よし、意味が分からない!
主人公を翻弄する存在みたいな言葉だな。
お前はどこの小説からこの言葉を持ってきた?
誰かの言葉を使っているのは分かるぞ!
自分で神とか超常存在を名乗るのはおかしいし、人間だというのもおかしい。
適当な存在を騙るのも難しいから結論としていえば他に何も言えない。
だとしてもやはり意味が分からない事を言っているな。
あ、ほらおじさんも固まっちゃったじゃん。ダメダメ。
「それでおじさんは私に何か用があったの? もしかしてそれが用だった?」
おじさんをいじめてはいけない。
こんなに目元の肉が垂れて色々お疲れを感じる人だぞ。
きっとストレスフルな人生を送ってきた事だろう。
しかし画面越しでは色々困る。
何が困るか? フィルター越しでは視界情報が足りない。
身のこなしから分かる身体能力とか動きの癖とか、感情の上下動も分かりにくい。
まぁ、別に動き方を見たところで感情を全て理解できる程の観察力は俺にはない。
それが正解なのかもわからない。だからといって見ない理由にはならないか。
見れば経験値が増えるから様々な情報を推測するためのいいハーゲンになる。
「あぁ。……何でもない。そうだ。リク君の姿でも見るかね?」
……やはりこの人は立ち位置が分からない。
部下だとしたら「君」呼びはおかしい。本人の前では艦長とか言っていたのに。
リク君を下に見ているのだろうか? どうなんだろうか?
このおじさんは俺らの敵か?






