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219、研究者チームの影

「これはリク君が作った?」


 リク君は意味ありげに微笑んだ。何も答えになっていない。

 その微笑みは作った事を意味するのか。分からない。

 いや、むしろどこまで関わったかにも()るだろう。


 流石にこれを1人で作るには魔物の生態を追う時間が足りない。

 少なくとも研究者チームが必要だろう。何人体制か分からないが。

 飛行船の所有者、図鑑の作成、あと他に何に関わっているのだろうか?


 人脈が各所に太過ぎないか?

 見た目成人程度だから10年以上経っているとしても20歳の人脈とは思えない。

 アイディアマン? それで所有者になるには弱いだろうし、色々理解しがたい。


「そういえばさっきのって図鑑に載ってる?」


 リク君は視線を少し彷徨わせた後、画面に映っている窓の1つをタップした。

 長めに押すとパソコンで右クリックした様に何か項目が出て来てその内の1つ「過去映像」という項目をタップした。

 録画機能がついているとか至れり尽くせりか。あと話せ。俺じゃないんだから口で話せ。


 それにしても録画機能か。もしかしてこれは観測メインの船なのだろうか?

 定点観測がしにくいだろう空の魔物を追うために、隠匿性能が高い船を作ったとか。

 いやしかし、だとしたらこれは研究の備品でそれの私的利用なのだろうか?


 もしそうだとして、これは許可をもらって動かしているのだろうか?

 研究室の備品と考えた方が、太い人脈を持っているという得体の知れなさに比べて、信じやすい。

 研究室の期待のエース程度ならこの年齢でもあり得なくない。


「リク君はこの船を誰かから借りているの?」


 あぁ、黒い自分が喜んでいる。


 暗い点が一点もない光の存在には近づき難い。

 でもそれがちょっとでも薄汚れた部分があるなら話は別だ。

 この子も醜い部分があるただの子だと思えるから。


 自分が何も上手く出来ていない存在だと勝手に引け目を感じているから気持ち悪い。

 この気持ち悪い部分が同族を喜んでいる。とても醜い。

 その可能性があるだけで俺の醜い心は喜んでしまっている。


 とても嫌で、とても気持ち悪い。だが俺自身にとっては異様に心地よい。

 理性は嫌っているのに、感情面は沼の深いところから手を伸ばしている。

 深くて不快な俺の嫌いな部分だ。気色が悪い。


「? この船は僕のだよ?」


 あ、深みのゾンビが転げ落ちて頭打った。

 ゾンビ死すべし、慈悲はない。お前は存在してはいけなかったのだ。

 汚物は消毒されるべきなのだ。火は正義なり。


 おっさんとかゾンビとかマダオとか、意外と言葉を持たない住人多いな……。

 今話しているのがメイン人格だとして、俺の円卓は闇が多くないか?

 なぁ、どう思うよ? 天使さんや。え? 自業自得? そっか。

 闇は叩けば叩く程増えるもんな。細分化されて余計に面倒くさく。


 それにしても持ち船なのか。やばいな。

 どの程度の持ち船なのか気になるけど、知ったところで意味はないか。

 目の前の相手がどれだけ金を持っていたとしても俺のやる事に変わりはないし。


 お金はできる事を増やしてくれるが、そもそも俺の出来ない事は金がかからない事だ。

 自分以外のお金をどうしようとか、企画屋や銀行でもない限り特に思う必要がない。

 企画屋や銀行以外で相手の金が気になるのは売り買いしたいヤツか詐欺師だろう。


「あったあった。これだと思うよ」


 リク君は手元にある窓を大きくすると中央に表示した。

 黒鞠の全体像と説明が見える。それによると「コウクウミダレクロケダマ」というらしい。

 主に積乱雲などの中に生息し、乱気流に乗って色々な物にぶつかって食らうらしい。


 空間遊泳能力に乏しく、単体での危険度は低め。

 しかし単体で行動する事は少なく、まれに乱気流で流されてはぐれた個体がぽつぽつと高空に漂っている事があるそうな。

 今回は流れてきた個体の可能性が高いらしい。


 ……。なんか読んでいる端から今回のレポートが追加されたんだが。

 どっかに研究者チームいるよな、これ。地上かな? それともこの船にいる?

 観測された物の分析も行われているだろう、これ。


「近くに乱気流とかがあるのか?」


 この図鑑を見る限り本来いる生息域から外れている。

 しかし画面を見る限り、下は穏やかに流れている白い雲しか見えない。

 黒鞠が黒いのは本来暗い場所にいるからだろう? おかしい。


 天候が荒れる場合大抵は低気圧が影響しているはず。

 気圧の高低が分かるのであれば低い場所を避けて飛ぶだろう。

 その方が安全に航行できるし、この船が危険を冒してまで進む理由もない。


 乱気流ってどこで流れているのが正しい?

 高気圧から低気圧に向けて? 気流の乱れだから低気圧限定だよな?

 そもそも船はどれだけの数、この空を飛んでいるのだろう?

 少ないなら航路がぶつかる可能性が少ないわけだし、そこそこ自由に行く道を選べるだろう。


「そうだねぇ……。1番近い低気圧の中心は300キロくらい先かな?」


 300キロ……。東京から名古屋くらいか。新幹線で2時間もかからない。

 近いかどうかで言えば近いのか? 台風なら暴風雨の影響を受けている事だろう。

 だが体感的な距離で言えば大分遠い。むしろ離れている場所の情報を知る事ができるだけでおかしい。


 そもそもどの程度の低気圧なのかも分からない。

 台風程の急激な気圧の谷間があるならこの距離なら暴風雨があるだろう。

 つまりそんな強い低気圧ではないと予測できる。


 しかしこの世界でこれはどうなのだろう? 分からない。

 そもそもどうやって気圧を調べているんだろうか?

 観測所を作って情報共有? 何か所あるんだろうか?

 都市の1つ1つに設置していそうだな。


「微妙な距離だな……」


 伝達手段は何だろうか? 魔法?

 術者から離れたところに効果を出すのは難しいだろうが、魔道具として一機能に特化すれば問題ない?

 ゴーレムの伝達回路の構想はリク君にあるだろうから、応用すれば通信網も作れるか?


 伝達回路の応用なら有線だろうな。だがここは地上と切り離された高空だ。

 魔法で繋げる? 魔力の粒子が届かない場所に効果を届かせるのは難しいのでは?

 いや? これも都市を基地として利用して、指向性の高い粒子に情報を込めて送ればいける?


 巨大な魔道具として各地の都市の一部に基地を作ったとして、それを稼働させるのにかかる魔力は?

 どうやってそれを集める? 大きければ大きい程維持するための魔力は桁外れになるだろう?

 それにリク君にしても、ニーナ達を動かす分を除いた魔力量は心許ないのでは?


「まぁ、第2波はないと思うよ。あったとしても先ほどと同じで小粒だね」


 リク君はニコニコと言いやがる。なんかその言葉がすごくフラグに感じる。

 図鑑の感じだと黒鞠がこれで成体みたいな感じだがどうなんだろうか?

 乱気流の中央に親玉がいる気がするのは俺の杞憂だろうか?


 そもそも魔物とは何だ?

 魔物って生物みたいなフォルムをしているが意味不明だ。

 あれって生殖行動とかしているのだろうか?


 色々情報が足りない。生物と魔物の違いとかも情報が足りない。

 図鑑を見てもその場での行動や生息域、解体結果は書いてあっても生殖に関しては触れられていない。

 見た感じ生物よりも強度が高いだけの生き物に過ぎない。


「ねぇ、これとか面白いよ」


 リク君は俺が弄っている窓とは違う窓をタップしていた。

 というかこの画面複数人操作に対応しているのか。このタブはCPUが優秀だな。

 リク君が開いた窓を見るとそれも図鑑だった。動物に興味ありと俺を見たか?


 正解だ。チクショウ。


 リク君は開いた窓を中央に持っていくと、その窓の大きさを広げた。

 窓の表示の上下を切り替えて俺に見せやすくするとリク君はニコニコしていた。

 何が楽しいか正直分からない。何か俺は面白い顔をしているだろうか?


 液晶に反射して映る顔を見て頬をつねるが、目付きの悪いこましゃくれた少女みたいな顔がちょっと変形しただけだった。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 動物図鑑を餌に釣られる子供のようでシロちゃんかわいい
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