21、雑貨屋のケイおじさん
「おっと日がもうこんなに高い。買い物を先にしようか」
「はいっ!」
「リク君は本当に頭がいいんだね」
「僕、頭いいでしょ!」
謙遜は子供らしくない。
……子供らしくないけどしたくてたまらない。
俺が自分のことをそこまですごくないことを知っているからだろう。
どんな能力があったとしても前世では何1つ成果として出せていない。
今世ではYDKからやる人になるのだ。
「ニキさん、今日も子連れか?」
太い声が聞こえた。おっさんらしい声だ。
年齢は3、40代だろうか?落ち着いた感じがある。
上野アメ横の魚屋のおっさんみたいな声だ。
「親友の子供を預かってね」
「ニキさんは子供好きだねぇ」
人の好さが伝わる声といえばいいだろうか?
からかい方に親愛がある。
昔からの付き合いがあるのだろうか?
「子供がいると楽しみにくい時間があることを私も知っているんですよ」
「あぁ、そりゃ、確かにあるわなぁ。おし、ちょっとコレおまけしてやるよ!」
「あ、いつもすみませんね」
「何かあったら助けてくれよ……? こっちしていると母ちゃんが怖いからな」
「あぁ、それなら今夜行きます?」
いつものやり取りなのだろうか?
おまけと引き換えに何か……お酒かな?
お酒を飲む場所作る話をしているのだろうか?
「……今夜はちょっと厳しいな……ニキさんはいつまでいるんだ?」
「3日後までですね」
「それなら明日か、明日は大丈夫か?」
「えぇ。大丈夫ですよ」
ハイタッチしたのだろうか、ぱんっという音が聞こえた。
仕事を楽しむ大人はかっこいいと思う。
いや、このシーンだけ聞いていると映画みたいだとすら思える。
憧れるな……。
互いに信頼があるからこそできる流れだと言える。
「で、こっちの子の名前は?」
オシャレなちょび髭を生やしたちょい悪オヤジが乳母車の中をにゅっと覗き込んできて少し驚きで心臓が跳ねた。
「リク君ですよ」
「はいっ! 僕はリクです!」
「おぉー、君はもうしゃべれるのか」
「はいです!」
子供口調を意識したら日曜の夕方のアニメの3歳児みたいになってしまった。
あれも3歳だからあれの真似をすれば3歳児らしくなる……のだろうか?
「リク君、このおじさんは元冒険者で今は雑貨屋を営んでいるケイさんだよ」
「おぉ、ありがとな、そうそうおいたんはケイていうんだ」
じやさの発音が難しいからだろうか?
サ行ザ行は滑舌が影響しやすい。
だからおじさんが赤ちゃんに名乗る時おいたんという子供にも発音しやすい音で伝える事がある。
日本語だったら『おいたん』という風になるだろうというだけで、実際に『おいたん』と言っているわけじゃないが。
『おじさん』という言葉を幼児に言いやすい発音にした言葉を言っていたのだ。
俺にしたところでまだ舌が足らないので、きちんとした発音にはなっていないことだろう。
「リク君って何歳に見えますか?」
ニキさんは何故それを?
場つなぎの会話?いや、何か理由があるのかもしれない。
「4歳か5歳か?それにしては体が小さい気がするが」
ニキさんがこっちを見ていた。自分で言ってみろということだろうか?たぶんそうだ。
「2歳です」
「は!?」
「2歳なんですよ」
ニキさんが俺の発言を補強するように言うとケイさんは驚きの声を上げた。
「いやいや、2歳じゃここまではっきりしゃべれないだろ?!」
「すごいですよね」
乳母車の中を覗き込むケイさんの目が大きく見開かれていた。
そのまま目玉が落っこちてしまうんじゃないか?
顔を軽く振るいケイさんは気を取り直すと朗らかに笑った。
「あぁ、坊主すごいな」
「はい、ありがとうございますっ!ケイおじさん!」
「おぉ、いい子だいい子だ」
ケイさんは俺を撫でるとニカッと笑った。その手はごわごわとしていて硬かった。
「リク君は外の世界に興味があるんだよね?」
「はいっ!」
「お?おいたんは元冒険者だからけっこう話せるぞ?」
「ケイさんは冒険者の中で顔が広いからためになるよ」
「そうなんですか?ケイおじさんすごいです!」
「雑貨屋さんを営めているのも昔の冒険者のつながりでいろいろな品物が入手しやすいからですよ」
「お、おぅ。ギルドの依頼のついでに拾ってきたアイテムを買い取って知り合いの職人に加工してもらって並べているだけだからな」
「すごいです!ケイおじさんはそんなにたくさんの人とつながっているんですね!」
「お?おいたんを褒めてもアイテムしかでないぞ?」
「ケイおじさんすごーい!」
「ちっ、しょうがねーな。おいたんのところにあるのはこんなものしかないからなぁ?」
そう言ってケイさんは白い包みをくれた。包みはつやつやしていてプラスチックみたいな少し温かみを感じる質感。
「あれ? それはカバンですか?」
「あぁ、小さい子っていろいろ物を拾うだろ? こういう物の方がうれしいんじゃねぇか?」
「ケイおじさん、ありがとうございますっ! 大切にしますっ!」
「おぅ、大事にしてくれよっ!」
「ケイおじさんすごいっ!」
「そういうのは小さい子限定だっ! バカ!」
「えぇ~?」
「お前がやってもかわいくねぇよ!」






